第百十一話 魔法神の用件
「魔法神・・・一体何のようだ?」
クラノスケは突如現れた魔法神に尋ねる。
アレクシア・グッドローズ――ユニバース創造神の一人だ。
「壮健でなによりだ、クラノスケ」
「まさか顔を見に来ただけと言うのではあるまいな」
「フフフ、我もそこまで暇ではないぞ。何悪いようにはせぬ、ちょっと魔法宮まで来てもらおうと思ってな。迎えにきたのだ」
「突然どうしたのだ?この戦争よりも大切なことなのか?」
「なあに、少し稽古をつけようと思ってな」
「稽古?」
「ああ・・・タウがあの変態を鍛えてるみたいなのは知っているな?クラノスケがあの変態に遅れをとるわけにはいかぬ。ついてくるが良い」
「変態?誰のことだ」
一番に頭に思い浮かんだのは全裸の斧使いだ。しかしこういっては何だが、ユニバースには変態が溢れている。誤解があっては大変だ。
「わからぬか?あの全裸が常態化した男だ。おぞましい。我の美的感覚から大幅に外れておる。彼奴だけは、殺しておかねば気がすまぬ。クラノスケ、お主は我に選ばれたのだ。転移して五年以上経つが人質のことは、忘れてはおるまい?」
クラノスケの顔がみるみる青ざめていく。
転移前、クラノスケには妻がいた。そしてそのお腹の中には新しい命も。それを人質に取られたため、クラノスケは無理やりユニバースに転移されたのだ。
「お、覚えているとも。家族のことはひと時も忘れたことなどない。だが、今は戦時中だ。オレだけ離脱しては、仲間の信頼を失ってしまうかもしれん。それは選定者同士の闘いで不利になるのではないか?」
食い下がるクラノスケに、アレクシアは不敵な笑みを浮かべる。
「我のチカラをもってすれば時間ぐらいは超越できる。ここが滅ぶ前には間に合わせようぞ。ここにいる者にも悪い話ではあるまい?せいぜい時間を稼ぐといい」
そう言うとアレクシアは右手で空中に円を描く――
空間に穴があき、向こう側に氷の宮殿が見える。
「さあ、考える時間も勿体ないぞ。五秒で決めい!」
「・・・・クラノスケ・・・・」
ビビはクラノスケに視線を送る。
クラノスケはその視線に目配せで応え、
「わかった。その方が確実性がありそうだ。同行しよう」
そのまま魔法神の開けた穴へと入っていった。




