第百九話 機を読む力
魔族軍強襲艦【椋鳥】、ザイ・カロット率いる竜人軍団の母艦だ。
「カロット様、どうなさいますか?」
副官は、怪訝そうな顔でザイ・カロットに尋ねる。
膠着状態とはいえ、こちらは艦隊、あっちは人間、
一騎打ちをする理由などどこにも見当たらない。ましてや、
四人も同時に一騎打ちをしたいと言っているのだ。
一人ずつ闘ったとしても、四連戦になるし同時に闘うと四対一だ。
こちら側が受ける理由がどこにもないのは明らか。
「ワシはあの申し出を受けようと思う」
副官は耳を疑った。目も落ちそうなぐらい飛び出していた。
「・・・一応、理由を聞いてもいいですか?」
「あの黄色の髪の娘がタイプだ。ぜひとも娘にしたい」
カロットが指名したのは、夏騎士リエータのことだ。
日に焼けた小麦色の肌とキラリと光る八重歯が魅力的な女性だ。
さておき、このザイ・カロットという男は勝敗は頭になく、もう脳内でどんな服を着てもらうかシミュレーションが始めている。
槍捌きは流麗でその圧倒的な武力に惹かれて部下になった者は多い。
今この状況は別の意味で引かれている。
「魔族の命運がかかっているのですよ?」
「・・・ワシは勝つよ。名前はカツ代がいいかな?」
副官はもうそれ以上何も言うことはなかった。
一方その頃、
「ザイ・カロットはのってくるかな?」
「1000%無理でしょ?受ける理由がないもの」
四季騎士は、ほとんど諦めの気持ちで口上を行なったようだ。少しでも敵の注意をひく。その間に、ビビとクラノスケの範囲攻撃で敵兵力を削る作戦なのだ。敵に見つからないよう、物陰に隠れ、二人は攻撃の機会を伺っている。
「ねえ、あれ見て?」
艦隊の先頭にいる母艦から一人の竜人が飛び降りて来た。
右手には三角の穂先を付けた槍を持っている。遠くからビビのビームを受け止めた竜人――ザイ・カロットだ。
10メートルはあろう高さから自由落下したにも関わらず、ザイ・カロットは何も問題ないかのように静かに地面に着地した。
「お主らの口上、見事だった魔界九家が一人、ザイ・カロ」
「セイントフラッシュブレード!」
「ガーンデーヴァ全力連射!!」
「プリシラキャノン、発射でち!!」
後方から三名の全力範囲攻撃が炸裂した。