第百八話 決闘を申し込む
「なんで五日も攻撃してこないのかしら」
重たい沈黙の中、ビビのつぶやきが響く。
アクアジェラートの会議室には、急遽魔族対策本部が設立されていた。
メンバーは、クラノスケとビビの選定者二名、抜群の三騎士と四季騎士、監獄長のプリシラ、そして賢者スノウだ。
「あのまま空中で五日間も待機はオカシイですね。宣戦布告の一つや二つあれば別ですが、それもない。不気味です・・・何か秘密兵器の準備が行なわれているのかもしれませんね」
スノウは大理石のテーブルに両肘を立てて、口元で組んでいる。どこぞの司令官のポーズだ。ふざけた連中が多い人間族がまともに会議ができているのは、このスノウの雰囲気作りの賜物だろう。
「ウダウダ迷っていても仕方ないでちよ!!戦力が揃ってきているのだから、先制攻撃をするデチ」
徹底抗戦を訴えるのはプリシラだ。幼女ながらも監獄の長、自分の城は自分で守る気概を感じる。本音を言えば、戦力があるウチに戦争を始めたいのだろう。抜群のメンバーや四季騎士が王都へ戻ってしまうと戦力ダウンはいなめない。それも危惧しているのだ。
「しかし、ここへ来る時に拙は見ました!アクアジェラートから凄まじい閃光を放ったのを・・・それでも敵軍は無傷でしたよ・・・シールドを張ったというよりかは、一人の武人が受け止めたように見えました。武器を回転させて・・・」
四季騎士が一人、イヴェールが訝しげに言葉を紡ぐ。監獄都市へ来る途中馬車の中からその開戦前の光景を目にしたようだ。
「信じがたい話だが、おそらくそれができるのは、魔界九家のザイ・カロットでしょうね。九家のナンバー2と言われるだけあり、その実力は音に聞きます。仮に開戦時の主砲を連射できたとして、ザイ・カロットを打倒しなければ敵軍に傷を与えることはできないでしょうね・・・」
スノウの見解で、会議の雰囲気はさらに重くなる。
マサムネのように単独で九家当主と渡り合える戦力がいれば話しは別だ。しかし、今はいない。クラノスケはトウ・バレンシア戦に備えて温存、ビビは主砲の要ときている。
タイマン要員が不足しているのだ。
「・・・・拙に任せてはいただけないでしょうか」
突然の立候補に全員が目を見合わせた。
その夜――
帝国旗艦ジークヴェルトにて。
「ヴェルト様、敵陣営に動きあり。アクアジェラートの屋上に・・・女が一人立っています。仁王立ちです。何か叫んでいますね」
「音声は拾えるか?」
「ハッ!やってみます」
通信兵は集音マイクのボリュームを上げる。
「やーやーザイ・カロットよ、拙者は王国四季騎士が一人、イヴェール・カノン。いざ尋常に一騎打ちを申し込む」
それは決闘の申し込みだった。
しかし、口上は続く。
「やーやーザイ・カロットよ、アタイは王国四季騎士が一人、ヘルヴスト・フーガだ。アタイとも一騎打ち願うぜ」
イヴェールの後ろからオレンジ髪の騎士が登場し、同じく口上を行なった。
その後、リエータが行ない、さらに四季騎士最後の一人ヴェスナーまでもが、ザイ・カロットに決闘を申し込んだのだ。
これが後の歴史に刻まれる四季騎士同時口上である。