第百七話 ヴェルトの高揚
「ビーム兵器きます!!」
まさかの報告にブリッジ内に緊張がはしる。
完全にゼン・ヴェルトの読み違えである。先制攻撃さえ決まれば後は勢いでいけると考えていたのだ。
まさか敵から超弩級の奇襲を受けるととは・・・。無敗の策士が聞いてあきれる。しかし、まだ神はヴェルトを見放してはいなかった。
アクアジェラートから放たれた閃光は、右翼に展開している艦隊に直撃する。
しかし、当たった筈の艦隊は無傷だった。
一人の竜人が槍を回転させて、ビームを拡散している。
艦橋に立つ竜人――彼こそが、ザイ・カロットだ。
魔族随一の槍士にして、武器も伝説級。武力だけならばこれほど安心できる仲間もいないだろう。
「航空部隊は、全隊、ザイ家艦隊の後ろへつけ!それ以外は魔法シールドの用意。いつでも展開できるようにしておけ!!急げよ!!」
ヴェルトは、冷や汗を拭いながらも指示を続ける。
(たまたまカロットの方へビームがいって良かった・・・。あの槍馬鹿ならばあれぐらい何度でも弾くであろう。奇襲に奇襲で返すとは・・・人間族の中にも策士がいるのか・・・おもしろい!)
ヴェルトは自分が高揚していることに喜びを感じていた。
これまで新しい戦術を試したくとも相手がいなかったのだ。ヴェルトのレベルが高すぎたというわけではない。ただ単純にヴェルト以外の魔族が軍議ができなかったのだ。父親を始め、側近の者、果ては他の魔界九家の者に、何度ルールを説明しても、理解してもらえなかった。
ヴェルトはずっと一人軍議をするしかなかったのだ。軍議を知るものがヴェルト一人だけだったからこそ、いつしか魔族の中で一番の策士と言われるようになった。いつかこの無数の戦術を試してみたい。そう長年焦がれ続けての今である。人間側の策士と戦術バトルができる。ヴェルトの止まっていた時が動き出したのだ。
実際には人間側に策士などなく、たまたまビビが新しい弓を試し撃ちしただけなのだが。
(二撃目はこぬか・・・連射はできないということか・・・しかしそう見せかけて第二波を撃つつもりだな・・・そうはいかんぞ。ふふふ我慢比べというワケか・・・おもしろい。受けてたとうではないか・・・)
こうして、戦況は序盤から膠着状態に突入する。
驚くべきことに、このまま五日経過するのである。