第百四話 掌返し
ノヴァから放たれた熱線は、ゼノンに直撃する。
「うわーやられたー」
ゼノンは、大きな声で棒読みのリアクションをした。
「ふふふ・・・やったか」
ノヴァは思わずガッツポーズをする。
しかし、熱線は、ゼノンの手の平に留まっている。
「バカな・・・いつものやせ我慢ではないのか・・・」
予想外の展開にノヴァは少し焦ってきている。
「まあ、この前のオイラだったら即炎上案件だったよ・・・でも!!」
ゼノンは熱線を受け止めていた手の平をそのまま天にかざす。
熱線はそのまま天空へと昇っていった。
「上方掌返だ。ちょっと身体強化のコツを掴んだんだ。こんな風にな!!」
目を凝らしてよく見ると、ゼノンの身体の周りに、うっすらとオーラのようなものが見えた。紫と白が混ざったような色、紫白色とでも名付けよう。
そのオーラがゼノンの足に集中していく――
瞬く間のできごとだった。
40メートルは離れていた二人の距離、ゼノンはそれを一瞬で詰める。
そのままノヴァの腹部へ掌底を打ち込む。
「ほげべ!」
ノヴァの口から唾液が溢れる。
さらにゼノンは右手を振り上げ、そして、
「こんな魔法はどうだ。タイヤーボーデ」
詠唱ともにゼノンの右手が黒く染まっていく。
黒い靄は、円形になり大きなタイヤとなった。
「バカな・・・その魔法は・・・失敗作・・・」
ゼノンはそのまま右手のタイヤを振り下ろす。
ノヴァの頭蓋は砕け、頭部は胴体にめりこみ、そのまま身体は膝から地面へと倒れ込んだ。
会場が静まり返る。
ほぼ全員の魔族が現状を理解できないでいる。
落ちこぼれのゼノンが、エリートの魔法を跳ね返し、一瞬で距離を詰めて撲殺したのだ。
ゼノンはゆっくりとマイクを拾い上げる。
「ジン家の当主は、死んだ!弱すぎた!!こんな男が、魔族の将来を背負うなんて、馬鹿げている!!オイラを見ろ!!この血塗られたタイヤを!!!これこそが、力!力こそが、パワーなのだ!!!文句がある奴はかかってこい!!!」
会場は未だに静けさを保ったままだ。
誰もが皆、どうすればいいのかわからなくなっていた。そのとき、
小さな拍手が聞こえた。音はとても小さなモノだったが、静寂の時だからこそ、その音は会場中に響きわたる。
拍手の主は地蔵だった。
「トウ様が拍手をしておる・・・」
「トウ様が、ゼノンを認めたのか・・・」
「あの圧倒的な力は・・・誰も敵わない」
「うおおおおおチカラこそパワー!!」
トウ・バレンシアが落とした小さな波紋は次第に周囲へと伝播していく。
それは大きな歓声となり、ゼノンに送られる。
「同士たちよ、ありがとう!!必ず、魔族最後の戦争に勝とう!!!オイラが・・・オレが司令官だ!!魔族に大勝利を!!!ジーーク・ゼノン!!!」
「ジーク・ゼノン、ジーク・ゼノン、ジーク・ゼノン・・・」
ノヴァが士気を上げる目論見は、見事ゼノンによって成し遂げられる。
ここに魔族の新しい指揮官が誕生した!!!