第百一話 ダメ元でも言ってみるもんだ
「タウ!タウじゃねえか、一体どこ行ってたんだよ。俺はあれから気づいたら海の底だったんだぜ。おめえが何かしたのか?」
マサムネは、突如現れた少年の肩をつかみ前後に揺らす。ビビ以外の大人たちが、引きつった顔で状況を伺っている。何も知らない人から見たら、全裸の男がナニを揺らして少年に抱きついているのだ。逮捕まったなーし。
「あれから、鍋をぶん投げた。太陽フレア熱すぎるから冷めたらいいなって。
そしたら、意外と飛距離が出て海まで飛んだ。あの達成感は酒の肴になる。
今、思い出しても旨い酒が飲めそう」
タウは、全身を揺さぶられながらも、淡々と話をしているが、どこか楽しげな雰囲気も醸し出していた。
「そんなことより・・・マサムネ、帰るぞ」
「帰るって、何でだよ?」
「修行がまだ途中。トウと闘うなら急ぐ」
「でもよ・・こんだけ味方がいりゃあ、もしかしたゴガパ」
食い下がるマサムネの頸部に、タウは手刀を食らわせ気絶させた。
「じゃあ、連れて行く。全員で時間を稼ぐ。そしたらコイツ間に合わせる」
そう言うとタウは右手を上げ、マサムネを宙に浮かし、その場を立ち去ろうとした。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
ビビがタウに向かって叫ぶ。タウは視線を向ける。
「あんた神様なら、助けてよ!あんな奴ら蹴散らせる力あるんじゃないの?
つか、アタシを異世界に連れてきといって無視ってどういうことよ」
ビビは少し怒っているようだ。
「介入はできない。タウが介入すると、他の神もこぞって介入する。
ユニバースが消えてしまう。それはダメ。だから選定者に変わりに戦争させている。
だから頑張れ」
タウは、親指を立ててニコリと微笑んだ。
「いや・・・かわいくしたってダメよ。じゃあなんか強力な武器をちょうだいよ。
それぐらいなら介入したっていいんじゃないの?クラノスケだって剣あるし、マサムネだって斧あるじゃん、アタシも弓が欲しい!欲しい!」
ビビがまるで玩具売り場での子どものようにジタバタおねだりしだす。
タウは、手刀で黙らせようと一瞬考えたが、思いとどまり、左手を天に翳す。
ドサっと、マサムネは宙から落下し、変態が浮いていた場所に、次元の切れ目が出現した。そして、その切れ目から雷光とともに大きな弓が現れた。
「これ、あげる」
ビビは弓を受け取る。
重い・・・この弓を持ちながら移動するのは骨がおれそうだ。
「いいの?これ・・・矢はついていないの?」
「闘気を込めて撃つ。闘気が矢」
「そうなんだ・・・」
ビビは、面白半分で、弓に力を込める。
空気が変わった—―
ビビと弓が呼応するように光を放つ。
本来矢がある場所に光が集まり、次第に矢のを形成していく。
「む・・・眩しいな・・・ここは?」
落下の衝撃と眩しい光で、マサムネが目を覚ます。
すかさず、タウが手刀で気絶させる。
「弓の名は、ガーンデーヴァ。大切に使ってね」
それを合図に光の矢は放たれる。
もう矢とは呼べない。ビームだ。
ビビの放つビームは、天井を貫き、天空へと昇っていった。
頭上で、巨大な爆発音が聞こえた。
「当たったみたいね。テキトーに撃っただけなのに、すごい!!ありがとうタウ」
ビビが振り返るとタウとマサムネは消えていた。