8:人間の本気 後編
「人間?いったい何の冗談ですか?」
その老人は少しの驚きを見せたが、すぐに元の表情になった。生徒達はしばらくロウに対しボーッとしていたが、すぐに我を取り戻しこの異常な光景を見た。
「大河、回復を早くみんなにかけろ。魔力はこれで回復しな。」
そう言ってロウは彼に一般のポーションを投げた。飲むと魔力を回復することができるポーションだ。まさか呼ばれると思っていなかった大河は慌ててそれをキャッチし、すぐに飲み始めた。その間にロウは話を続ける。
「冗談もクソもないんだがな。そういうお前たちも名前くらいは名乗ったらどうなんだ?」
老人の目元がぴくりと動く。他の生徒らもロウの急な発言に戸惑っている。なぜならロウは「お前たち」と言ったのだ。相手はどう見ても1人なのに。
「いやばれてんだからいいじゃねぇか。透明化魔法、他の魔道士にかけたんだろ?今のうちに解除しといた方が魔力の消費少なく済むぜ?」
「…」
しばらく彼は黙ったままだったが、何かぶつぶつと呟くと次の瞬間、彼の周りの空間が歪んだようになり、そこには20人くらいだろうか。魔道士の集団が。
「どうしてわかったのですか?私なりに魔力は隠していたはずですが。」
「なーに、上からだと丸分かりなだけだよ。炎の弾ができる時なぜか均一に横にできているし。お前が杖をあげるとみんなが魔力を貯め始める。そして杖を前に出すとみんなも打つ。」
「そ、それでは先生。あの炎の量は…」
「いや、あれも団体でやるなら簡単だろ?触れた構造で考えると、まず一列目が炎を打つ。その時に二列目と三列目は魔力を貯めている。これにより誰も魔法を打たない時間を極限に短縮できるわけだ。それによってあの炎が無限に見えたんだろ。」
大河に回復され、何とか立てるようになったテリーの質問になんなく答えるロウ。そんなカラクリだったとは。他の生徒たちも納得する。一方老人の方は表情は変えず、そのまま話を続けた。
「名乗る必要はないですな。あなたたちはもう時期死にますから。それとも何ですか?人間が1人増えただけで我らが屈するとでも?」
「いや、まずお前らが戦うのは俺とアルだけだから。」
またまたロウのとんでもない発言。人間があの魔道士艦隊に?今度は生徒たちが慌ててロウを止めようとする。体をなんとか動かせるようになったラルフがまず口を開く。
「ハッタリはあいつらには聞かないぞ。奴らは殺しにかかってきているんだ。お前なんか瞬殺されちまう。ここは一旦力を合わせてーー」
「素敵な忠告をどうも。だがわかっていないのはお前らだ。さっきのあの攻撃を耐えられないようじゃ向こう側で戦っている他の連中が来る前に死んじまうぞ。あと協力なんて今のお前らにできんのか?ここは俺に任せろ。一応言っておくが、俺はお前らの教師なんだからな。」
「でも、どうやってあの敵に対抗するんでか?人間なんかすぐにあの炎に焼かれますわ!」
ラルフの発言にティアも参加する。他のみんなも、危ないからやめとけだ、今は避難だ、言ってくるが、ロウはそんなことを無視して、目の前の敵と向き合った。
「人間が1人で我々を…正気ですか?」
「こんなところで嘘ついても何の意味ねぇだろ…アル、生徒らを守っておけ。ちょっとあいつらOSHIOKIしてくる。」
「了解ー。でも無理はしないでねー。それじゃみんな、下がってて。」
アルの言葉にみんなが渋々従う。老人はニヤリと笑い、
「そのような態度は傲慢ですね。これだから人間は。」
「お前こそ傲慢なんじゃないのか?」
「いえいえ、わたしは神に選ばれしものなのです!あなたのような下民と同じにして欲しくはないようですね。」
ロウのこめかみがピクッと動く。それは決して自分が傲慢と言われたからではない。ある大事なキーワードを書くことができたからである。「神に選ばれしもの」だがロウがそれを対しさらに聞き出す前に、魔道士たちは魔力を貯め始めた。無数の炎が浮かび上がる。
「さて、あなたたちにはそろそろ死んでもらわなくてはいけませんね。最後にもう一度。戦っても意味はありませんよ。」
「…そういう態度が傲慢な気がするんだが…まあ、いいか。ほんじゃ、とっととこい。」
「…死ね。」
炎の球が一斉に放たれる。全てがロウにロックオンされている。炎とロウの距離がどんどん縮まる。生徒たちが「逃げてください!」「いやーー!」と叫ぶ中、ロウはというと、
「ったく…ま、これも仕事だしな。」
そう言って、炎が当たる寸前、彼は…
避けた。
左に一歩ずれると、炎は先ほどいたところに着火しただけ。続いてくる炎はバックステップで回避。さらにそのあとターンをすることで方向を転換し、前に一歩踏み出すと明日を炎が通り過ぎていく。次に来る複数の弾は横に、途中にターンも入れながら回避。そしてさらに後方に小ジャンプ。
そこからもステップ、避ける、ターン、避けるの繰り返し。普通の行動ではあるが…
「なんなの……これ?」
誰が呟いたのだろうか。異様な光景が広がっていた。人間が、数多の炎を避け続けている。無駄のない動き。まるで踊っているように見える。炎があんなにたくさんあるのに、擦りもしない。毎回それがロウの目の前で着火したり、上を通り過ぎたりするのだ。また誰かがボソリと呟く。
「やっぱり彼は獣人か何かではないのですか?」
「違うよ。彼はどこから見てもただの人間だよ。そしてこれが人間の戦い方。みんなもよく見ておいた方がいいよ。」
アルの言葉など生徒たちに入ってこなかった。みんなロウの戦いをずっと見入っていた。その動きは…美しかった。先ほどその炎に耐えれず死にかけた自分達が馬鹿みたいである。
一方自分達の攻撃が全く当たらない老人はかなり苛立っていた。そこである行動に移す。何かをぶつぶつと呟くと、炎の的が一気に生徒たちの方へ移る。おそらく全ての炎に一旦集中をかけたのだろう。生徒達は急に炎が来ることに慌てる。しかしこの炎は届くことがない。なぜなら、
「よかった、私にも出番あった…にゃっ!水の防壁!」
そうアルが言った瞬間、生徒達の目の前に長方形の水の壁ができた。そしてそれは最初と同じように、全ての炎を吸収するように防いだ。老人はついに舌打ちをした。
「邪魔な猫ですね。それならこれでーー」
「なによそ見してるんだよ。」
その言葉を聞いて何かと思ったら、
タンタンタンタンタンタンタン
軽やかな音が流れ、気づけば前一列目の魔導師達が一斉に倒れ出した。見ると全員頭からとをだらだらと出している。一体なにが?とロウの方を見るとそこには、二鳥の拳銃が。
銃。この世界には確かに銃はある。だがとても繊細な技術が必要となり、魔法があるいま持っている人はほとんどいない。だがロウはその銃を二丁も持っている。どちらも使い勝手の良さそうなハンドガンである。老人も流石にこれには驚いたようで、
「な、なぜ人間がそのようなものを持っている?」
「…なんでって…人間の特権?」
「ぐっ…」
「ボチボチとどめ刺すか。アル!いくぞ。」
「了解、にゃん!」
すると一気にロウの周りから出すぐらい何かが出始めた。いや、出てはいない。ロウの出している「殺気」があまりにも濃く、実際に見えるようなのである。そのオーラに思わず生徒達も凍りつく。どう見てもあれは相手を殺す準備。それは敵側も同じであり、老人はいつもの冷静さをここで取り乱してしまった。「撃て!あの人間を殺せ!」との声と同時に飛んでくる炎の弾。
だがそれもすぐに避けられる。そしてロウは急に跳ぶと、ちょうどのタイミングでアルが発動させた水床が現れ、それを踏み台にしてさらに高く跳ぶ。魔導師達も上を見た時、既にロウは二丁の拳銃を構えていた。
「じゃあな。」
そう言い、トリガーを引く。
タンタンタンタンタンタンタン……
何発あったのだろうか。とにかくわかったことは音が止み、ロウが着地した時、そこには20ほどの死体と、死寸前の老人がいたのであった。
結局老人は老人でした。名前、一様考えとこうかな。