6:人間の本気 前編
「よっ!いっちょ上がりー!」
「こら、リリス。それあたしのぉ!さっきから獲物取りすぎてない?」
現在生徒達は魔物狩り中。リリスが当たった今手裏剣で魔物の頭に当てて、アーシアがトドメを噛んで刺したところである。するとアーシアはラルフら《ライノー》がどんどん前進していくのを見た。
「ちょっとラルフ!流石に行き過ぎじゃないのぉ?」
「うるせぇな!今のうちに全滅させておいた方が手っ取り早いだろ。」
「それもそうだけどぉ…このポジションから離れちゃっていいのぉ?」
現在彼女らは丘の上から魔法を放ち、ラルフ達が物理的な攻撃をふもとで行っていた。ラルフは小さく舌打ちをし言う。
「今ここで全滅させりゃ手間も省けるしいいだろ。あと、お前らも魔力をそこまで使わずに済むんじゃねぇのか?」
「それもそうだけどぉ…」
アーシアはみんなの様子を見た。全員どんどん前進し、魔物の数もあと50匹にも満たない。これなら大丈夫だろう。そう判断してしまった。そして彼女もまた、魔物を倒すことができてかなり気持ちが高ぶっていた。よって、
「わかったよぉ。わたしも行くぅ。」
生徒全員が丘から離れてしまった。そしてこれはもちろん、最悪の事態を招いてしまう。彼らは気付いていないが。そしてこの時1人の先生がめちゃくちゃにやけていて、他は思いっきり目を逸らしていた。
「ふぅ、ラスト終了っと!」
「案外どうってことなかったね。」
最後の魔物も無事倒し、ひと段落。するとフォルスがすぐに何かに気づく。
「気配、あり。距離、100メートル。」
「何だ?まだ魔物が残っていたのか?」
「何なら早くそれらもたおーー」
フォルスの発言にテリーとソレイユが魔力反応が生き残った魔物と考え一歩踏み出そうとしたその時。
「ドカーーーーーン!!!」
激しい爆発が起きた。2人はその爆発に思い切り巻き込まれた。他のみんなも何が起こったのかわからず爆風を直で受けてしまい吹っ飛んだ。
「テリー!ソレイユ!」
リリスが叫ぶが、2人はそれに答えない。煙が晴れたあと、見えたのは黒焦げになって瀕死状態の2人であった。テドがすぐに指示を行う。
「大河、回復魔法を急速にしろ。他は警戒態勢に入れ。」
「回復などさせませんよ。」
その声は老いていた。声の先を辿ると、そこには1人の老人が。だが放っている魔力が恐ろしいほど多い。その量に生徒達も体が凍る。何人かはその魔力量にふらついている。その中辛うじて理性を保てたテドが代表して口を開いた。
「…お前が今の爆発を?目的はこの地の侵略か。」
「その通りでございます。まあ、目的はどうあれ、あなた達には関係のないことです。なぜなら」
魔力を貯め始め、無数の炎の弾が。
「もう死にますから。」
「っ!魔法防壁!」
そして大量の炎が放たれた。生徒らが魔法防壁を展開する。この魔法は魔法が使える者には比較的簡単に発動できる。また、テドは広範囲に防壁を展開し、ラルフら魔法が使えないものをカバーしている。テリー達に炎が当たらなかったこともあり、今回は身を守ることができた。だが…
「ちょっと…この炎の弾、まだ続くの?」
「流石に魔力が持たないよぉ。まずいまずい。」
「はっはっ。永遠に終わりませんよ。なぜならこれがわたしの魔法永遠なる炎ですから。」
文字通り、炎の弾の攻撃は止まない。炎が幻覚なのかと思うが、防壁に当たった時魔力が減るのを感じるので、実物だと分かる。サポート役の大河も防壁を張ることで精一杯で、みんなの魔力供給が間に合っていない。そしてついに生徒らにその時が来てしまった。
「ぐっ…!」
最初に倒れてしまったのはテドだった。他の文の攻撃も受けていたこともあり、持ち前の耐久力がついに限界が来たのだ。そのあと次々に仲間達も倒れていき、爆撃開始から10分も立たないうちに立っている人がいなくなった。一旦魔法を打ちやめた老人は表情を変えず口を開く。
「これくらいのものですか。所詮この国はただの無能の集まりですか。共存などやはり無理ですな。」
その発言により1人の獣人に青筋が浮かぶ。言わずもがな。ラルフである。体がボロボロにもかかわらず立ち上がり、
「無能だと…この俺が無能だと!ふざけんな!俺は誇り高き《ライノー》だ!人間がごときが舐めるなぁー!」
「よ…よせ!ラルフ!」
「無能」の呼ばれ自分のプライドが傷ついたのだろう。テドの忠告も聞かずラルフはその人に突っ込んでいった。老人は無表情のまま魔法を彼1人に放つ。幾多の炎が彼に集中放火され…
攻撃が終わる頃にはラルフもテリー達と同じように黒焦げになって倒れていた。老人は再度魔力を貯め始め、
「これはこれは…あなたはわたしの気分を著しく害しました。この罪はおもーいですよ。それでは、もう会う事はないでしょう。ーーー死ね。」
そして無数の弾が彼に飛んでいく。ラルフは動くことができない。この時すでに体全体は大火傷していて、さて骨も何本か折れている。とてもだが避けれる力は残っているとは思えない。
「「「「「「ラルフ!(さん!)」」」」」」
みんなはそう叫ぶが、それでも力が入らない。そして炎が直撃した。後に残るのは何もなかった…
「…となると流石に絶望感が半端なくなるので、ほいっ!」
「え?」
「むっ?」
老人と生徒らの驚きの声が重なる。なぜならラルフと炎の弾の間に水の壁が現れたからだ。しかも炎と同じくらいのサイズの壁が。炎の弾はその壁に当たるとまるで吸収されるように蒸発して消えていった。その光景に誰もが唖然としている。いったい誰が…そのときふとリリスが空を見上げると、そこには青いジャケットを目立たせる《キティー》の姿が。
「あ……先生?」
「にゃは!観察は終了でいいかな?」
アルがニカっと生徒らに笑う。生徒達がその姿にホッとすると次の瞬間再度爆発が。だけどこれは炎の爆発ではない。砂埃が晴れたらそこには1人の人間が立っている。どこから一体降りてきたのか。
「さてさて。お前らには説教をたっぷりしてやんないといかんが、それは一旦後で。」
「…わたしの邪魔をするとは。あなたは誰なのですか。」
「ああ?知る必要はねぇだろ。まあ、俺はロウーー」
そして躊躇いもなく言う。
「ただの人間だ。」
なんか長くしすぎたので、前半と後半に分けます。