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一ノ瀬くんは学校が嫌い  作者: 周 新 (あまね・あらた)
二時間目:滝川芹香による強引で利己的な勧誘
11/13

11 滝川芹香の訪問(4)

海溝より深く頭を下げております。

 することもなく、コーヒーを飲んだりお菓子を口にしたりして生徒会室でぼーっとしていた私は、不意に響いたチャイムの音に体を震わせた。

 壁に掛けられている時計を見ると針は12時20分を指していて、さっきのチャイムが授業の終わりを告げるチャイムだったのだと、私は遅れて気が付いた。

 そういえば先輩達はどうしたんだろう……?と思い、ソファから立ち上がって階段の下を覗いた私は、一階のあまりの静かさに首を傾げた。


「あれ? 会議終わったのかな?」


 そう呟いたそのときだった。


「もう終わってますよ、一ノ瀬さん」


 ひょいっと顔を現してそう言った滝川先輩に、私は思わず驚いて叫び声を上げてしまった。


「わっ!」


 滝川先輩は私の反応に笑みを浮かべると、軽やかに階段を上ってきた。後ろには酷く疲れた様子の間宮先輩も付いて来ていて、私は心配する視線を先輩に向けた。一体会議で何があったんですか……。

 流れるようにソファに座った滝川先輩は私を手招きすると、間宮先輩にアイコンタクトを送ってソファに深く座り込んだ。


「はぁ~………疲れました……」

「お、お疲れ様です……?」

「真人、見ましたか! 一ノ瀬さんが私を労ってくれましたよ!」

「聞こえてますよ、芹香会長。だから走ってこなくて大丈夫です。俺の服を握って揺らさないで下さい、零れる、零れるから……!」


 喜色満面の笑みを浮かべながら間宮先輩の方に向かっていった滝川先輩だったが、マグカップに入ったコーヒーを溢して間宮先輩に怒られていた。

 しかし滝川先輩は全く懲りた様子無く席に戻ってくると、両手に持ったマグカップの片方を私の方に置いてきた。


「あ、ありがとうございます」


 反射的に頭を下げると、先輩は何でも無いように首を振って元の位置に座った。

 間宮先輩は自然に滝川先輩の隣に座ると、もはやカフェオレというより牛乳にコーヒーを入れたというほど白色に近いコーヒーを飲んで満足そうに頷いた。………え、あれなに?

 滝川先輩に心配の目を向けると滝川先輩も何か思うところがあったのか、ため息を吐くと間宮先輩に苦言を呈した。


「真人、流石に入れ過ぎですよ」

「………そうですかね」

「顔を逸らさないでください!」


 バツが悪そうに顔を逸らした間宮先輩は、滝川先輩に言い寄られることを嫌がったのか、私の方を向くと話を振ってきた。


「そういえば一ノ瀬、お昼はどうするつもりなんだ? 弁当にしても買うにしても一度戻らないといけないが……」

「あ、そういえば12時でしたね! ……どうしましょうか……」


 間宮先輩の言葉でそのことに気が付いた私は、早速どうするか考えようとしたが、その直前に滝川先輩が口を開いた。


「あ、それについては大丈夫ですよ、一ノ瀬さん」

「??」

「私が、白奈さんに持って来るように伝えておいたので」


 首を傾げた私に、滝川先輩はそう言うとスマホを掲げてみせた。確か白奈は元々来ることになってたから、そのついでなんだろうけど……ごめんね、白奈。会ったときに謝っておかないと。


「ありがとうございます、滝川先輩」


 私がそう考えて感謝の言葉を告げると、滝川先輩が胸を押さえながら倒れると同時に、生徒会本部の扉が勢いよく開かれる音がした。

 大きな音に驚いて腰を浮かせた私だったが、間宮先輩や滝川先輩……は置いておいて、二人は平然とソファに座ったままだった。

 もしかしていつものことですか? と視線で問い掛けると、その問いに間宮先輩が答える前に誰かが階段を駆け上って顔を露わした。


「遥、大丈夫!?」


 そう叫びながら入ってきたのは、走ってきたせいで息が切れている白奈だった。


「し、白奈?」

「………っ! 大丈夫?」


 白奈の様子の疑問を覚えた私が首を傾げていると、白奈は突然私の顔を両手で挟んで顔を近づけてきた。

 至近距離で香る白奈の匂いにドギマギして、つい身体をのけ反らせた私だったけれど、白奈はそんなことに構わず私の顔を眺めたかと思いきや、いきなり体を触ってきた。


「し、しろな……?」

「何も変なことされてない? 辛いならすぐ言ってね、遥」


 戸惑って反応できない私に白奈は優しく声を掛けてくると、一転して鋭い目を滝川先輩と間宮先輩に向けた。


「会長、どうしてここに遥がいるんですか?」

「それは………真人、説明を」

「えっ!?」


 突然振られて驚いた間宮先輩は、しかしすぐに持ち直すと白奈と向かい合った。


「あー………本部に向かっていたら偶然一ノ瀬と会ってだな。疲れていたみたいだから、休んだらどう?って誘ったんだよ」

「なんですかその女を口説くみたいな誘い方は……」


 間宮先輩の説明を聞いた白奈がそう呆れた声を溢すと、滝川先輩が超高速で間宮先輩に首を回すと、こっちも震えるような恐ろしい笑顔を浮かべた。


「真人、あなたそんな言い方で一ノ瀬さんを連れて来たのですか? 口説くみたいに、一ノ瀬さんを口説くみたいに……!」

「せ、芹香会長落ち着いてください? 口説くとかそんな……。いやいやだって、一ノ瀬は男で、俺も男ですよ? ありえないですって」

「私だってそう言って言葉巧みに誘いたいのに!」


 ……………今、何と仰いましたか?

 先輩の言葉に思考を止めた私に気付かず、滝川先輩は若干引き気味の間宮先輩に言葉を続けた。


「真人が魅了されないとは限りません。なので、真人は今後一ノ瀬さんとの接触を極力減らすように!」

「……………………」


 あ、諦めた!

 滝川先輩の重すぎる想いに、間宮先輩の瞳は遠いどこかを見始め、間宮先輩は自身の感情のスイッチを切ってしまったようだった。……かくいう私も、少し滝川先輩が怖くなってるんだけどね……。口説くみたいに誘いたかったってなんですか……。

 男子が戦線離脱し、白奈と滝川先輩の睨み合いが続いていたのだが、私はあることを思い出して白奈の肩を叩いた。


「そういえば白奈、私のお昼ご飯は?」

「ん? ここに持って来て……………あれ? 無い?」

「忘れてるじゃん! しかも自分の分も!」


 私のことを心配して来てくれたのは良いけど、あれだけ急いでいたら流石に忘れてるよね……。

 ため息を吐いた私はソファから立ち上がると、破顔しながら白奈に声を掛けた。


「戻るよ、白奈。お昼食べないと、六時間目の体育で動けなくなるからね」

「え? 遥、そんなに動かないよね?」

「いやそうだけど、そうじゃなくて!」


 こういうときこそ空気を読んでよ! と思った私だったが、白奈は私の反応に吹き出すと楽しそうに席を立った。


「分かってるよ、遥。さ、戻ろっか」

「いつもやめてよね白奈……」


 こめかみに手を当てながら白奈に答えた私は、座ったままでいる滝川先輩に頭を下げた。


「滝川先輩、今日はありがとうございました」

「いえいえ、私もいい時間を過ごさせてもらいましたし。……あ、役員の話は白奈さんとゆっくり話し合った後でいいですから、じっくり考えておいて下さい」

「うっ………、わ、分かりました」

「会長、遥をいじめないでください!」


 滝川先輩の言葉に警戒した白奈が私の体を引き寄せると、滝川先輩は微笑ましそうに目を細めた。


「あ、白奈さん。今日の仕事の分、明日の分に追加しておきますね」

「……………あ」


 そういえば確か白奈は元々呼ばれていたんだっけ……?

 一緒に階段を降りようとしていた白奈は、滝川先輩の言葉に動きを固めると首をロボットのように動かした。

 横目で白奈の顔を見ると顔色は見事なほどに真っ青で、白奈が担当している仕事は溜まると相当ヤバいらしい。


「白奈、今日先に帰るから学校に残ったら?」

「遥はシロを見捨てるっていうの!?」


 そんな大仰なことじゃないでしょ。

 悲痛そうに叫ぶ白奈に白けた目を向けていた私は、けれどすぐに視線を和らげると先に階段を下り始めた。


「待って、遥! あ、会長、放課後行きますから開けておいて下さい、お願いします!」

「分かりました。一ノ瀬さんも白奈さんも気を付けてくださいね」

「「はいっ」」


 滝川先輩の言葉に答えた私たちは、本部を後にすると自分達の教室へと戻っていった。



「遥、もう一時過ぎたけど、お昼食べる時間あると思う?」

「…………無いでしょ……」


この度は本当に投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした

これからも書き続けていくので、良ければ是非お願い致します


※所用により次話の投稿は10月23日(水)にさせていただきます

 連絡が遅くなり申し訳ございません

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