(4)解決
「ば、馬鹿なことを言うな! 何故、王がこのような場にわざわざご出席なさるのだ……!?」
嘘を付くなと続けて言いそうな顔になっている子爵は、その自分の勝手な想像で多少気を良くしたのか、顔色をもとに戻しつつあった。
だが、そんな子爵の気休めを否定するように、代表が首を左右に振って言った。
「今回見つかった新しい島は、王国にとって重要な拠点になり得ると王は考えております。それゆえに、出来る限りは発見者の意見を聞くようにと。それから、これを――」
そう言いながら代表が取り出した物を見て、子爵は最初首を傾げていた。
代表が出したのは手のひら大の木でできた箱のようなものだったが、その箱の一部を見て子爵はもう一度顔色を青くした。
子爵が見つけたその部分には、ロイス王国では一人しか使うことができない紋が刻まれていた。
ロイス王国において鷲は、代々の王が契約しているコンを意味している。
代表が出したその箱には、紛れもなくその鷲がきれいに描かれていたのだ。
代表は、その箱を恭しく扱いながら丁寧にテーブルの上に置いた。
「この箱は魔道具になっていて、王の元へ音が届けられるようになっています。まだ起動はしておりませんが……起動したほうがよろしいでしょうか?」
ある意味で脅しともとれるその言い方に、子爵はひゅっと息を呑みこんでから代表を軽くにらんだ。
箱が魔道具かどうかはともかくとして、問題なのは鷲の紋が描かれていることだ。
この場合、王に直接声が届けられているかは大した問題ではなく、代表の男が王しか扱うことができないはずの物を持っていることが重要なのである。
代表が再び箱に手をかけるのを見た子爵は、盛大に舌打ちをしながら黙り込んだ。
代表が言ったまだ魔道具を起動していないという言葉を信じたのかは分からないが、既に自らの態度を隠そうともしなくなっている。
そして、子爵が黙り込んだのを確認した代表は、今度はカイトを見ながら言った。
「失礼をいたしました。話の再開をいたしましょう」
「わかりました」
カイトとしても、先に出した件を呑んでくれるのであれば、この後の細かい内容を決めて行くのは問題ない。
先日とは違って、最初から拒絶するような態度をひそめたカイトを見て、代表も安堵した表情を浮かべて頷いた。
そして、左右に座っている他の者たちに視線を目配せしてから、残った内容についての話し合いを続けるのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
セプテン号のメンバーとの二度目の交渉が終わって五日が経っていた。
その日、交渉団の代表だった男は、王都のとある部屋でファビオ国王と対面をしていた。
「――先に報告は受け取っているが、きちんとそなたの口から結果を聞きたい」
「はっ。端的に申しますと、交渉自体は無事に終了。あとは、こちらで行われる授与式を経れば、新しい島は我が国に編入されることとなります」
「うむ。よくやった」
代表の言葉に、ファビオ国王は短く返しながら頷いた。
だが、ファビオが知りたいのは、結果そのもののことではない。
「それで? 件の人物はどのような者であったか?」
「これは私個人としての印象になりますが……」
「それで構わん。話してくれ」
「かしこまりました。――では、まず最初の第一印象ですが、恥ずかしながら私も当初はただの子供としか見ていませんでした。いえ。見れていなかったといった方がいいかもしれません」
「ほう……? 幻術か何かで惑わされていたか?」
ファビオのその問いに、代表は首を左右に振る。
「いいえ。そういうことではありません。ただ、何というか……纏っている雰囲気が年相応にしか見えないのです」
当たり前といえば当たり前の言葉に、ファビオは意味が分からずに首を傾げた。
ファビオが疑問に思うのは当然だと分かっている代表は、すぐに続けて説明を捕捉した。
「今にして思えばとも言えるのですが、大人顔負けの交渉を平然とこなしているのにも関わらず、子供としての印象が先に立つというのは違和感があるかと」
「なるほど。そういうことか」
代表が言いたかったことを理解したファビオは、唸るようにして頷いた。
様々な人類が存在するこの世界において、ヒューマンから見て子供のような姿形をしている種族も存在している。
ただし、そうした者たちと話をする際には、きちんと年相応の印象を受けるのだ。
代表も一団の長として選ばれている以上は、そうした者との対談を行ったことは何度もある。
だが、カイトと話をしていた時には、そうした印象は全く受けずただただ子供と話をしているという感じだったのだ。
会談を終えて改めてそのことを振り返ったときに、代表はようやくその違和感に気が付いたのである。
交渉のプロであるはずの代表が気付けなかった違和感に、ファビオは難しい顔になって頷いた。
「そういうことであれば、かの者と話をするときには、よほど心を入れて話をしないとならなそうだな」
「はっ。……は? 陛下が例の少年と話をする機会があるのですか?」
島の発見の報酬は、この後王都で行われる授与式で渡されることになっている。
だが、その時にはあくまでも大勢に見守られた公的な場での授与になるので、カイトとファビオが直接話をすることになるわけではない。
そのため、代表がファビオの言葉を疑問に思うのも当然であった。
「うむ。折角の機会なので、かの者と直接話をする場を設けようと思っている」
「なんと……!?」
さらりと発したファビオの言葉に、代表は本気で驚いていた。
基本的に王は、個人的に話をする機会などほとんどない。
簡単にそれを認めてしまえばきりが無くなるという理由からだが、そうした場が全くないかと言われればそういうわけではない。
王も一人の人間である以上は、個人的に話をしたい時があると考えるのは当たり前のことだ。
そうした理由から王が個人的に会って人と話す機会があるのは確かだが、忙しい王が個人的に会える時間を作るのが厳しいというのも事実である。
それ故に、王と個人的な対話を行う人物は非常に限られているのだが、逆にいえばカイトはそれだけの価値があると思われているということになる。
そうした事情を理解しているからこそ、代表はここまで驚いたのだ。
しかし、あからさまに驚きを見せる代表に、ファビオは軽く首を左右に振った。
「そこまで驚くようなことではなかろう。ただ単に、今まで都にまで数々の噂を届けている人物と直接会って話をしてみたいだけだ」
「さようでございますか」
ファビオの言葉に軽い調子でそう返した代表だったが、表に出している感情とは裏腹に、内心ではそんなわけがないだろうと考えてもいた。
そして、その考えは、次のファビオの言葉で証明されることとなる。
「ああ、そうだ。だが、この件に関しては口外を禁ずる。そなたのように、変に誤解をする者も出て来るだろうからな」
「……畏まりました」
王の言葉となれば、それは代表にとっては絶対の命令となる。
ファビオは軽い調子で言っているが、もし代表がこの件に関して口を滑らせれば、実際に罰を受けることになるはずだ。
ただ、王とあの少年が個人的に対面をした時に、一体どんな会話が交わされることになるのか、代表がそんな興味を持っていた。
王は勿論、カイトとも直接会話を行った代表だからこそ、その興味は非常に強く抱くことになっている。
そして、その興味が実際に果たされることになるとは、この時の代表はかけらも考えてはいなかったのであった。




