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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第3章
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(1)交渉の始まり

 カイトが新しい島を見つけたという報告を行った翌日には、海運ギルドはその事実を公にしていた。

 ギルドで発表された内容は、その日の内に他のギルドでも同じように発表されている。

 そのため、誰もが予想した通りに、翌日までには多くの国から話し合いの場を持ちたいという連絡がギルドを通してきていた。

 その中で一番遅かったのがロイス王国だったというところが、中々面白い事実だったりする。

 ただ、ロイス王国の打診が遅くなったのは、他と比べてもより具体的な内容だったからというのはすぐにわかった。

 何しろ、公爵と話をした内容からさらにプラスαした条件で、話し合いの場を持ちたいと言ってきたのだ。

 当然ながら、そこまで具体的な内容で打診してきたのは、ロイス王国が初めてだった。

 それを見れば、公爵に話をしてからカイトのところに打診してくるまで、既に官僚内での話し合いが進んでいることはわかった。

 

 ロイス王国からの打診の内容を見たカイトは、すぐに海運ギルドへと行って話し合いの場を設けるように手続きを始めた。

 この辺りは、気軽に会える公爵とは違って、きちんとしたやり取りが必要になる。

 もっとも、本来であれば公爵も気軽に会えるような存在ではないのだが、そのことはカイトも十分に認識している。

 もし公爵がきちんとした手続きに則って来るようにと言ってきた場合にはそうするつもりだが、今のところは特に言われていないので口約束だけで通しているのだ。

 

 ロイス王国からの打診を受けたカイトは、すぐに海運ギルドを通して話し合いの機会を作ることを申し出た。

 それに対する王国からの返信は、三日後にはセイルポートで行うということだった。

「――思ったよりも早いかな」

 国からの返信の内容を再度確認していたカイトがそう呟くと、すぐ傍にいたガイルが反応した。

「そうか? 俺としてはもう少し早くてもよかったと思うが?」

「普通に考えれば、こちらが出した条件を精査して、国としての対応を決めて、そこから交渉を行う人選を行って――と、色々とすることがありますから。他の国からの返答がまだないことを考えれば、十分に早いですよ」

 ロイス王国がこれだけ早く対応できているのは、カイトが事前に公爵へと打診をしたからということもある。

 ただ、その打診をきちんと生かして対応したということに、カイトとしても好感触を得ていた。

 勿論、実際の交渉は始まってもいないので、油断するつもりはないのだが。

 

 ガイルがカイトの言葉に納得したところで、今度はメルテが首を傾げながら聞いてきた。

「もうすでにこちらの条件を出しているのに、まだ話し合いをするのですか?」

「それは、俺が公爵と話したときにはまだ公式ではなかったということと、細かいところまで詰めないといけないということがあるからかな」

 今回カイトがロイス王国に出している条件は、『ヨーク公爵に島の管理を任せること』ということだけだ。

 ただ、たったそれだけの条件だとしても、色々と派生してくる問題がある。

 そうした問題をどうするのかというのが、カイトの言う細かいところを詰めなければいけない。

 

 こうした交渉の場合、単純な金銭のやり取りだけで終わればいいのだが、今回のように新しい領地が増えるような場合は、色々な問題が付いて回って来る。

 国としては、そうした問題にいつでも動けるように、出来るだけ懸念点を減らしておくということが重要なのだ。

 もっとも、今回カイトが出している条件は、完全に権利を放棄する内容になっているので、そこまで細かい話し合いが必要だとは考えていない。

 普通、新しい領地を見つけた場合には多くの権利を主張してくるのが当たり前なので、カイトが出しているたった一つの条件だけで済むとは思っていない可能性もある。

 いずれにしても、カイト自身も最低でも一度は話し合いの場が必要だろうと考えているので、その時が来るのを待つだけであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ロイス王国との一回目の会談は、予定通りの日程で開かれた。

 カイト側の出席者は、カイト、ガイル、メルテといつものメンバーだ。

 それに対して、王国側の出席者はやや多めの五人となっている。

 そして、この話し合いは、これまで仲介役となっていた海運ギルドが中立的な立場として取り仕切っていた。

 

「――それでは、お互いの準備が整ったようなので、話し合いを始めるとしましょうか」

 仕切り役のレグロがそう宣言すると、話し合いが開始された。

 といっても、いきなりお互いの主張がぶつかり合うわけではない。

 既に、カイト側の条件は示されているので、今度は王国側がどう回答するのかをカイトが待つ形になっている。

 

 王国側がカイトに出してきたのは、いくつかの『付帯条件』が追加された内容が書かれた紙だった。

 先ほどからその内容を確認していたカイトは、一通り眺めてからそれをガイルへと渡した。

 書かれている内容に、いくつか見逃せないことが書かれていたが、それを今口にすることはしない。

 カイトたちが王国側が出してきた条件を確認して、どういう反応を示すかを王国側が見ているということを知っているからだ。

 

 王国側が出してきた付帯条件には、いくつかの王国側がカイト側に差し出す内容が追加されている。

 カイトも自分が自分が出した条件だけで王国側が認めるとは考えていなかったので、これは特に問題はない。

 そもそも、ヨーク公爵への管理を任せるという条件だけで締結してしまえば、ロイス王国の名誉にかかわって来るのだ。

 早い話が、他国から「条件が安すぎる」と言ってくる可能性があるのだ。

 交渉自体は当事者同士のやり取りなので問題はないのだが、王国としては今後の国の士気や運営に関わって来るので、あまり安請け合いはしたくないといったところだ。

 そのために、付帯条件を付けて島の発見者であるカイトに確認を行ってきたというわけだ。

 

 カイトもそうしたことは織り込み済みだったので、金銭の追加などは無視をして気になることを聞くことにした。

「――いくつか気になるところはあるのですが、まずこの『勲章の授与』というのは?」

「あなたが新たな領地となる島を発見したということで、国から与えられる名誉になります」

「そうですか。では、まずこれはいりませんので、省いてください」

「えっ……!? いや、しかし――」

「そちらが何と言おうと、これと名誉職の授与は受け入れることはありません。出来ないということであれば、島の権利の譲渡自体がなかったことになります」

 さらりとカイトが別の条件を付け加えると、王国側の交渉担当者は困ったような表情で他の担当者の顔を見回し始めた。

 

 カイトが勲章と名誉職の授与を拒否したのには、きちんとした理由がある。

 この二つは、早い話がカイトを国に縛りつけるための理由になり得るからである。

 勿論、そこまでの強制力はないにしても、それらを貰うことでカイトが『ロイス王国が管理する人間』と他国に見られてしまう。

 そうなってしまっては、折角海運ギルドに所属した意味が無くなってしまうし、今後の活動も動きづらくなってしまう可能性がある。

 カイトとしては、出来る限り特定の国の関与は受けないということを貫いていきたいと考えているのだ。

 

 交渉担当の役人が戸惑った様子で何やら小声で話を始めているのを見ていたカイトだったが、ここで王国側の席に座っていた一人が突然大き目の声を出して言った。

「貴様は何様のつもりだ! 王国からの名誉ある品の授受に文句があると申すのか!」

 そう言っていきり立っている者が、明らかに貴族然とした態度を取っていることに気付いていたカイトは、内心で大きくため息をつくのであった。

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