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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第2章
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閑話2 それぞれの反省

「――――何? カイトが私に報告した方がいいと言ったというのか?」

 クリステルから言われたことをそのままもう一度モーガンが確認すると、クリステルは小さく頷いた。

「はい。カイトが言うには、キョウボウしている可能性があると」

「ふむ……」

 クリステルの言葉に、モーガンは顎に手を当てながら少し考える様子を見せた。

 

 その時間は一分にも満たなかったが、クリステルにとっては何故か長い時間のように感じられた。

 そんな娘の様子を見て、モーガンは家族にしか見せない優し気な笑顔を見せながら言った。

「なるほど。報告自体はわかった。調査するかどうかはともかくとして、とりあえず教えてくれて助かった」

「いいえ」

 自分の言葉に短く答えて首を振るクリステルに、モーガンは近づいて行ってからその頭に右手を置いた。

 

「お父様……?」

 戸惑った様子で見て来るクリステルに、モーガンは目をわずかに細めながら言った。

「カイトの言葉をきちんと報告してくれたこともそうだが、以前からの報告に気付いてやれなかったのは、済まなかったな」

 モーガンは、クリステルから商会との交渉が上手くいかないという報告を何度か受けていた。

 その報告をきちんと聞いていれば、カイトから指摘をされる前に気付けたかもしれないのだ。

 クリステルからの報告をまともに受け止めなかったのは、どこかで娘のことを子供だと見ていたということになる。

 

 突然の謝罪を受けて、クリステルは一瞬目を大きく開けてから首を左右に振った。

「いいえ! 謝っていただく必要はありませんわ! 私がきちんと報告できればよかったのですから」

 そう言いいながら悔しそうな表情をするクリステルに、モーガンは頭に乗せたままだった手を動かしてそのまま撫でた。

「そこまで自分を卑下する必要はないよ。今回は、むしろ私の責任のほうが大きい。――――それにしても、そうか……」

 モーガンは、最後は小さく呟きながら言ってもう一度黙り込んだ。

 

 モーガンの表情を見ていたクリステルは、それ以上かを言うことはなかった。

 その時に出ていたモーガンの顔は、まさしく公爵としてのものだったからだ。

 モーガンがどのような行動を取るのか、その後のことはクリステルが口を出せるようなことではないのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「何故だ? 何故、今になって……」

 ミニッツ商会セイルポート支部長のロットは、商会宛に届けられた一枚の手紙を見て呆然とした様子で呟いていた。

 たかが一枚、されど一枚。

 たった一枚の紙に書かれたその内容は、ミニッツ商会セイルポート支部にとって命運を左右するほどのことが書かれていた。

 それが商業ギルドから届けられたものであったならば、あるいは袖の下を使うなりして無視をすることもできたかも知れない。

 だが、その紙の右下にしっかりと押された判とサインを見れば、握りつぶすことなど不可能だということが理解できる。

 右下に押されたその判とサインは、紛れもなく公爵家の印であり、公爵本人のサインだったのだ。

 

 領内における取引の全面停止に近い内容が書かれているそれは、支部に対する罰則だということだ。

 その罰則は、ミニッツ商会だけではなく、セイルポートで活動をしているいくつかの商会にも適応されている。

 それが何の原因による罰なのかは、しっかりと手元にある手紙の中に書かれている。

 セイルポート内で行われる商取引の独占を戒めるためと書かれたその内容に、ロットとしては口惜しさと怒りしか湧いてこない。

 

 そもそも商売においては、利益を求めることが肝心で、その利益を独占しようと商会が動くのはごく当たり前の行為である。

 これが他領であれば、咎められることなどなかったはずだ。

 実際、ミニッツ商会のほかの支部では、同じようなやり方で一部商品の独占販売を行っている所もある。

 他では通じるその方法が、セイルポートでは逆に罪になると言われても納得できないのは、当然といえば当然だろう。

 

 そもそもロットは、セイルポートに赴任して以来、独占しようともせずに漫然と業務を行っている従業員に活を入れてきた。

 さらに、他の上位の商会にも働きかけを行って、ようやく独占ができる形が整ってきたのだ。

 その間も、昔からセイルポートで商売を行ってきた従業員には、諫められたりしていた。

 だが、常に独占することを心掛けてきたロットは、その忠告に耳を傾けることはなかった。

 

 さらに、ロットにとっての誤算だったのは、自分の意に直接賛同してくれていたのが、セイルポートにとっては新興の商会だったことだ。

 確かにロットの意見に賛同してくれたのは、大手の商会だと言える。

 それゆえに、上手いこと新規の船からの交易品の購入ルートを独占できるように仕向けることができるようになっていた。

 従業員の尻を叩いてどうにか他の商会との密約を結んで、ようやく形になった独占ルートが、実はセイルポートにおける爆弾だったということには気づかなかった。

 さらに、自分の意見に賛同してそれぞれの分野での独占ルートを確保した大手の商会が、セイルポートにとっての新参者だという意味もよくわかっていなかったのだ。

 そして、その結果が、現在ロットの手元に届いている一枚の紙きれというわけだ。

 

「――やはり、あの公爵家の娘を適当にあしらったのがまずかったか……? いや、だとすればタイミングが合わない」

 公爵家の娘を名乗っていたクリステルは、この結果が届く一月以上前には現れて、絹とかいう商品の取引を行おうとしていた。

 それが原因だとすると、公爵家にしては動きが鈍すぎる気がする。

 だとすれば、ロットにとって今回の原因に思い当たるのは、一つだけである。

 その原因が、公爵家と距離が近いという情報も、当然のように掴んではいた。

 

「セプテン号のカイト……だったか。あれが、余計なことを公爵に吹き込んだに違いない」

 ロットの中でどういう思考を辿ったのかは不明だが、最終的にはそういう結論に至った。

 ロット――というかミニッツ商会にとって最悪だったのは、これまでの経緯からロットが部下の言うことにほとんど耳を傾けなくなっていたということだろう。

 そして、自らの考えと行動が正しいと信じ込んでいるロットは、その足を冒険者ギルドへと向けることになった。

 その結果、支部内だけではなく、商会内においても立場どころか身の置き所が無くなることになる未来が待っているとも知らずに…………。

これにて第2章は終わりになります。


第3章は少し間を空けて4月4日からのスタートになります。

お待たせして申し訳ありませんが、少々お待ちください。

m(__)m

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