(43)ギルドへの報告
メルテからの手紙に書かれていたのは、フゥーシウ諸島を取り巻いている現在の情勢と周辺国の状況などだった。
その情報をもとに、シモナは各島にいる長たちを話し合いをするそうだ。
その後がどうなるかは分からないが、少なくとも今すぐに全面開放をしても良いことが起こらないということだけは確定している。
少なくともフゥーシウ諸島の利権を巡って、各国が様々な駆け引きを行うことだけは確実だろう。
これまで結界に守られて権謀術策などにはほとんど無縁だったと言っていい島の人獣たちが、どのような結論を出すのか、カイトにとっても興味深いところだ。
カイトとしては、基本的にフォクレス島で作られる絹の取引ができればいいので、それ以外の余計な口を出すつもりはない。
ただし、求められれば力を貸すことも厭わないだろう。
そのことをシモナに伝えたカイトは、セプテン号へと転移を行うのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
カイトがシモナへとメルテの手紙を渡してから一週間後、セプテン号はセイルポートの港に戻っていた。
港に戻るまでに一週間という時間がかかったのは、途中で他に島が無いかを確認するために回り道をしていたからだ。
残念ながら新しい島が見つかることはなかったのだが、それでも今回通った航路上には島がないという結果が得られたのだから、それはそれで良しとしている。
いずれにしても新しい島が見つかったのは事実なので、まずはその報告をしなければならない。
――というわけで、カイトはガイルとメルテを連れて、海運ギルドのギルドマスターを訪ねていた。
「――まさかと思っていたが、本当に見つけて来るとはな」
「運が良かったです」
「運だけで見つかるようなものではないはずなのだがな」
カイトの言いように、レグロが少し呆れたような視線を向けた。
新しい島を見つけるということは、領地が増えるということにも繋がるので、各国が軍を使って探している。
そのため、一介のオーナーが新しい島を見つけるなんていう機会は、ほとんど訪れないはずなのだ。
その常識を覆してあっさりと見つけてきたカイトに対して、レグロがこんな反応になるのは、ある意味で当然のことといえた。
むしろ、レグロだからこそこの程度で済んでいるといっても過言ではない。
自分の視線を受けてもいつもの調子でしれっとしているカイトに、レグロは一度ため息をついてから続けた。
「まあ、いい。ともかく、隠すことなくこうして報告に来たということは、公にするということでいいな?」
滅多にないことだが、船のオーナーで未登録の島なり陸地を見つけた際に、国にもギルドにも報告せずにいる者もいる。
その場合は、プライベート領域的な感じで楽しんだりするのだが、別の者が見つけて報告を済ませてしまうと、たとえ自分が先に見つけたと主張しても認められない。
「そういうことになりますね」
レグロの確認に、カイトはそう答えながら頷いた。
カイトがきちんと報告をすることにしたのは、たとえこの場で自分が報告しなかったとしても、必ず誰かが見つけることになると思っているためだ。
今回見つけた新しい島は、確実にフゥーシウ諸島への補給地として役に立つことになる。
それならば、自分が責任をもって管理者を決めることによって、フゥーシウ諸島へ与える影響を出来る限りいい方向にしたいと考えている。
ただし、自分自身が領地を管理する領主のような立場になるつもりは全くない。
カイトの答えに、レグロはギルドマスターの顔になって頷いた。
「なるほど。では、手続きをしてしまおうか。といっても、こっちですることは簡単なんだが」
「そうなのですか?」
「そうだ。とりあえずお前さんにしてもらうことは、書面を一枚書いてもらうくらいだ。あとは、俺が本部に連絡をして、そこから各国に連絡する形になる」
「そういうことですか。随分ときっちりとした形式があるのですね」
「だな。最近ならいざ知らず、海運ギルドができたばかりの頃は、新しい島が見つかりまくっていたからな」
海運ギルドができたばかりの頃は、北大陸と南大陸の間にある内海で、それこそ船を出せば島が見つかると言われるくらいに新しい土地が見つかっていた。
むしろ、そうした煩雑な手続きを冒険者ギルドで賄うのが限界になってきたので、新しい組織として海運ギルドができたと言われているくらいだ。
そうした経緯があるために、今では新領域の手続きは簡素になっているのである。
「ただ、簡単なのはこの場での手続きだけだ。この後で各国との交渉が待っているから、これからは忙しくなるぞ。それこそ、海に出る暇がない位にな」
「それは……非常に面倒ですね」
顔をしかめてそう言ったカイトに、レグロはガハハと笑った。
「仕方ないだろう。新しい土地を申請した者の義務だと思って、諦めるんだな」
「そうですね」
レグロの言葉に、カイトは一応納得した表情で頷いた。
ここで面倒くさがって適当にしてしまうと、フゥーシウ諸島とってはろくでもない未来が来る可能性もあるので、手を抜くわけにはいかない。
「それから、これは別に義務ではないが、きちんとあの方への報告もしておけよ?」
「あの方……? ああ、公爵様ですか」
「そうだ」
「それは勿論です。公爵様には、随分とお世話になっていますからね」
「ほう。お前さんも、殊勝な態度を取ることがあるんだな」
「何ですか、それは?」
「そう言われても、仕方ないだろう? お前さんが俺に、というよりもギルドに対して最初にやったことを考えれば」
レグロの突っ込みに、カイトは無言のまま肩を竦めた。
ギルド登録の際もそうだが、セプテン号に関しての報告をした時も、カイトはガイルを使って強気すぎるくらいに強気に交渉を行った。
そうしなければ甘く見られて足元を見られただろうと考えてのことなので、突かれても特に反論するつもりはない。
ここでスルーをしても、もうレグロから甘くみられることはないという確信があるからだ。
「とにかく、公爵様のところにはこれから向かうつもりなので、問題ありません」
「そうか」
「それはそれとして、例の問題はどうなりました? ここに来るまでは特に何もありませんでしたが」
カイトは敢えて具体的に何のことかは言わなかったが、レグロはすぐに分かったのか頷きながら言った。
「あの馬鹿どもか。セプテン号がいなくなってからしばらくは何やら動いていたみたいだが、半月もするといなくなっていたぞ。ただ、それで諦めたかどうかは分からないが」
「そうですか。となると、船が戻ったのを見て、また何かやらかすかも知れないということですね」
「かもな。ただ、前ほど警戒はしなくてもいいかもしれないがな」
「というと?」
「例の件で一番の罰を受けたミニッツ商会があるだろう? あれのトップだった奴が――ロットとか言ったか? あいつは、いまもうセイルポートにいないみたいだからな。例の件で責任を取って商会内でも処分を受けたようだな」
「そうでしたか」
「処分といってもどういうものかまでは、まだ情報は来ていないがな」
海運ギルドも巨大な組織であるがために、普通の組織ではありえないくらいの情報網を持っている。
その組織が掴めていないのだから、本当に表舞台からは消えてしまった可能性もある。
だが、まだまだ油断はできないと続けたレグロに、カイトも頷き返すのであった。




