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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第1章
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(8)天使(オプション)

 カイトが笛を吹くことによって現れた帆船は、セルポートの町にあるどの船よりも大きなものだった。

 カイトの前世の記憶にある豪華客船などと比べれば小さいのだが、沿岸貿易を行うためのダウ船クラスの船しかないこの大陸の常識からすれば、あり得ないほどの大きさである。

 そんな船を作る技術がこの世界にあるはずもなく、では誰が目の前にある船を造ったのかと言われれば、考えるまでもなくカイトの頭の中にとある創造神の姿が思い浮かんでいた。

(創造神様、やりすぎじゃないでしょうか……)

 心の中で思わずそんなことを考えていたカイトだったが、足元に何かが当たる感触がしてそちらへと視線を向けた。

 すると、少し前にいたはずのフアが近寄ってきて、カイトの足をペシペシしていた。

「ああ。ごめん。ちょっと、現実逃避を……って、わかったわかった。ちゃんと正気に戻るから。――で、あれをこの笛が呼び出したというのは分かるけれど、あとはどうするんだ?」

 カイトは首を傾げつつそう聞くと、フアは少しだけ首を傾げながら右手に持っている笛を見た。

「……ああ。もう一回笛を吹けばいいのか。どれ――」

 カイトがそう言ってからもう一度笛を鳴らすと、その場から一人と一匹の姿が消えたのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 二度目の笛を吹いた次の瞬間、目の前の光景が変わったことに驚いていたカイトは、すぐに自分の前で頭を下げている女性に気が付いた。

「ええと? これは、どういう状況? ……って、もしかしなくてもあの船の上にいるのか」

 目まぐるしく状況が変わることに慌てているカイトだったが、すぐに大きな船の上に乗っていることが理解できた。

 同時にその船が、先ほど現れた帆船だということも分かった。

 となれば、笛を吹き鳴らしたことで、自動的に船に乗ったということだ。

 

 そのカイトの推測を裏付けるように、女性が頭を上げてから頷いた。

「はい、その通りです。使徒様」

 女性はそう言ったのだが、カイトはすぐにそれに反応することができなかった。

 理由は単純で、下げていた頭を上げたことにより現れた女性の容姿が、前世も合わせてそれまでのカイトの人生の中では見たことのないほどに美しかったためである。

 

 そんなカイトの心の動揺を理解しているのかいないのか、女性はにこりと笑ってから続けて言った。

「使徒様が笛を吹くことによって、あの方の創られた船がこちらの世界に呼ばれました。故に、この船は貴方の持ち物となります。――あの方からの伝言で、この船は好きにしていいので自由にやってみるように、とのことです」

「ああ、はい。……じゃなくて、他にも色々と聞きたいことがあるんだけれど?」

 こんな目立つ船を与えられたこともそうだが、目の前にいて会話をしている女性も含めていろいろと聞きたいことがたくさんある。

「私の分かる範囲であれば、いくらでもお答えいたします」

「ええっと。まずは、その『使徒様』って何?」

「カイト様は、これから彼の方の依頼を受けて行動することになるはずです。であれば、使徒様とお呼びするのは当然のことかと」

 この世界で使徒は、神の使いであったり神の意図を汲んで行動をしている者など、様々な立場の者を一緒くたにして呼ばれている。

 そのため、女性の言っていることは間違いではない。

 

 慣れない呼ばれ方にむず痒さを感じつつ、とりあえず納得したカイトは一度頷いてからさらに質問を続けた。

「それでは、貴方のお名前を聞いても? あと、何故ここにいるのかも。単に俺の質問に答えるだけ?」

「これは失礼をいたしました。私は彼の方の第一位階天使であるアイリスと申します」

「第一位の天使!?」

 とんでもない情報にカイトが驚くと、アイリスは何でもないという様子で続けて言った。

「はい。あの方がおっしゃるには、こちらの船を扱うために私のような立場の者も必要だそうです。それから、私も含めてこの船に乗っている他の天使たちは、船についているオプションのようなものだとお考え下さい」

「オプション?」

「簡単にいえば、船の維持から操作まで、この船に関することであればすべてを行うことができます」

「この船に関することであれば、ね」

「はい。お察しの通り、この船以外のことに関しては、色々と制限がされています」

「まあ、第一位階の天使ともなれば、そうなるだろうな」

 神の使いとされる天使は上から順に第一から第十までの位階があるとされている。

 第一位階の天使ともなれば、その力は大陸ごと消滅させることができるとさえ言われていた。

 そんな存在を一人のヒューマンが簡単に自由にしていいはずもなく、むしろ制限がかかっているのは当然だろう。

 

 そんなことを考えていたカイトに、アイリスは頭を下げてからさらに続けた。

「そう言っていただけるとありがたいです。中には無茶を言われる方もいらっしゃるようですから」

「うん? アイリスさんは、前にもこうやって使徒の人と関係を持ったことがあるんだ」

「いえ。私はないですが、別の者からそういった話を聞いております」

「そうなんだ」

 カイトがいる大陸では、神は多数いるとされている。

 実際に過去、幾人かの神がコンとして世界に関わっていることが伝わっているので、そのことはほとんどの者たちに事実として認識されている。

 ちなみに、過去に神がコンとして関わった具体的な例として知られているのは、色々な国での建国に関わるものである。

 そうした国々の建国に関わった神は、今でも各国の王にコンとして関わっていると言われていた。

 

 さらに、アイリスのような天使はそれぞれの神にいるとされていて、先ほどアイリスが言った位階に関してはそれぞれの神の中での序列になる。

 当たり前だがアイリスは創造神の天使であり、その中でも第一位階にいるということは、天使全体の中でも上位に位置しているということだ。

 たった一度のクエストで、この世界ではあり得ないような船と乗組員を手に入れることとなったカイトは、これから先のことを考えて盛大にため息をついた。

「どうひいき目に見ても騒ぎになる未来しか見えないな……」

「そうかもしれません。使徒さ……カイト様が、もし必要ないとされるのであれば、その時が来るまで存在を隠しておくことも可能ですが、どうされますか?」

「そんなこともできるのか。それは、今すぐに選ばなければ駄目?」

「いいえ、そんなことはございません。ですが、カイト様の懸念を考えるのであれば、今のうちに決めた方がよろしいのではありませんか?」

 アイリスの問いに、カイトは「確かに」と呟きながら頷いた。

 

 これだけ大きな船なので、陸上からは勿論のこと、近隣を航行しているはずの船もとっくに見つけているはずである。

 現時点でこの船とカイトの繋がりに気付く者はいないだろうが、このままこれだけの船を行方不明にさせてしまうは勿体ないという思いもある。

 もしカイトがいずれかのタイミングでこの船を使うことになれば、その関係を隠しておくことは不可能である。

 そうであるならば、見つかるタイミングが早いか遅いかだけの違いしかない。

 カイトの年齢が十二歳ということで侮って来る者も出て来るだろうが、むしろその方が分かり易くて対応がしやすいと捉えることもできるだろう。

 

 船の甲板の上でぐるりと周囲を見渡しながらそんなことを考えたカイトは、気合を入れるように頷いてから言った。

「よし。覚悟を決めた。早いうちから俺の物だと公表することにする。一応、魂使いという立場でもあるから、しばらくは何とかやり過ごせる……と思う」

「そうですか。わかりました」

 最初からそう結論を出すことは分かっていたのか、アイリスは驚くことなく、ただ小さな微笑みを浮かべながら小さく頷き返すのであった。

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