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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第2章
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(17)交易品(後)

 蔵元へと向かう途中、ガザルクが再び悪態のようなものをついていた。

「それにしても、なんだってわざわざフォクレスの酒なんだ。他にも美味い酒はたくさんあるだろうに」

「ガザルク!」

 折角カイトとガイルが前向きになっているのに、それを邪魔するような意見を言われても困ると、デボラが再び声を荒げる。

 だが、カイトとガイルもそんなに気分を害したような顔にはなっていない。

 

 普通であれば、ここまで何度も悪態をつかれれば気分が悪くなりそうなものだが、カイトとガイルがそうなっていないのには理由がある。

 それは、ガザルクは悪態をつきつつも結構重要な情報をぽろぽろと流してくれるのだ。

 その頻度は真面目な態度で言葉を選びつつ会話をしているダンよりも多く、カイトとガイルにとっては有益な情報源となっている。

 これから先もずっと付き合わなければならないとなると気も滅入って来るだろうが、何日かの付き合いと分かっていれば、デボラとの関係も相まって笑ってやり過ごせる。

 

 今回も自分たちにとって重要な情報をくれたガザルクに、ガイルが何気なさを装って聞いていた。

「例えば、どんなのが美味いんだ? 是非とも俺も飲んでみたいがな」

「そうだな。俺が好きなのは月誉つきほまれなんかをよく飲むが、月華や日華なんかもよく飲まれているぜ」

「確かに昨日は出てこなかった名前だな。こっちでは造られていないのか?」

 ガイルは、昨夜の歓迎の席では出てこなかったことを思い出しつつ、後半をダンに視線を向けて聞いた。

 重要な情報を話してくれるガザルクだが、時折自身の感情が混ざることがあり、客観的な情報を仕入れたいときにはダンに聞いたほうがいいのである。

 

 ガイルから問われたダンは、一度だけ頷いてから続けた。

「そうだな。今上がった三つはこの辺りでも飲まれているな。というよりも、諸島全体で飲まれている。昨日出されていた酒は、この辺りの名品だった」

「なるほどな。ということは、どちらかといえば今上がった三つは皆が買えるような値段の酒ってことか」

「そうなる」

「なんだよ。安酒だからって甘く見ているのか……!?」


 自分が名を挙げた酒が軽く見られたと思ったガザルクが抗議するように言ってきたが、ガイルは首を左右に振って否定した。

「いや、そういうわけじゃないさ。飲んでみないと何とも言えないが、売る対象が違ってくるだけだ」

「……どういうことだ?」

「値段が安いのに人気があるということは、平民たちに売れるということになる。逆に高い酒は、それこそ値段を上げて貴族やなんかに売ればいいだろう? まあ、その辺りのことを考えるのは商人の仕事だが」

 交易品を扱う船乗りは、時に商人としての目利きも必要になることもある。

 だが、消費者エンドユーザーに売るのはあくまでも商人なので、最終的にどのくらいの値をつけるのかは商人次第ということになる。

 

 ガイルの説明に納得したのか、ガザルクは適当に相槌を打って頷いていた。

 それに対してまたデボラが軽く突っ込んでいたが、これは全員がスルーをしていた。

 そんなやり取りを横目で見つつ歩みを進めていた一行だったが、ついに目的地であるフォクレス島の蔵元に着いた。

 そして、そこで同じような考えを持った乗組員を見つけて、お互いに苦笑をすることになるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 カイトたちが訪ねた蔵元では、島内に卸している分だけではなく、他の島への取引分も作られていた。

 フォクレス島に唯一ある蔵元で作られているお酒は、神宮で使われるお神酒として、島外の他の島でも一定の需要があるのだ。

「正直なところ、うちで作られているものは儀式用の色が強いので、輸出用とするなら別のものがいいかと思いますよ」

 蔵元の責任者が隠すことなくそう言った言葉を聞いて、カイトたちは顔を見合わせてお互いに苦笑した。

 この蔵元では、儀式で使うお神酒ということもあって、昔からの変わらない味のものを作るということにこだわっていることが良くわかる。

 

 そんな責任者に向かって、いくつかのお酒を試飲していたガイルが言った。

「それならそれで売り方というものがあるからな。珍しい地域で作られている神のための酒となれば、それなりに需要はあるだろうさ」

 ガイルが言っているのは、一種のブランドのようなことを指している。

 それに、そもそも一口にお酒といっても様々な種類があり、人によっても好みは分かれる。

 ガイルが自分自身で口にした限りは、不味いというわけでもないので普通に売れるだろうと見込んでいる。

 これは、蔵元で会った他の乗組員も同じ意見だった。

 

 どちらにしても、米のお酒は一定数の需要があると見込んでいいということになる。

 となれば問題になるのは、どのくらい仕入れればいいのかということになるのだが――。

「――こんなものでいかがでしょうか?」

 カイトがそう言いながらそろばん(のようなもの)をはじくと、責任者は目を丸くした。

「い、いや、ちょっと待ってください。いくらなんでもうちだけでそれほどの量は……」

「いや、言葉が足りなくてすみません。いきなり全部を今回持ってくわけではないですよ。……勿論、用意できるのであれば、持って行きますが」

 責任者は、前半で安心したのを見て敢えてそう付け加えると、後半で首をぶるぶると振った。

「むむ、無理です! 勘弁してください!」

「まあ、そうでしょうね。ですので、今回は出せる分だけで構いません」

 フゥーシウ諸島での全ての生産品に言えることだが、そもそも諸島内だけで出回る分だけしか作っていないというのが実情である。

 これまで閉鎖された海域のみで貿易を行っていたのだから、それも当然なのだ。

 むしろ、それなりの量の在庫をいきなり用意してくれるというだけでもありがたい話である。

 

 結局、この蔵元ではさほど多くの量を仕入れることはできなかった。

 ただし、次に来るのがいつになるかは分からないが、それまでには量を増やしてもらうように約束をしてもらった。

 恐らく数か月後にもう一度来ることになるとカイトが言うと、それまでには在庫を調整できると言ってくれたのだ。

 数か月というのは、それくらいまでには絹の生産に目途がついているだろうと予測してのことである。

 

 

 これらの話をしてから蔵元を離れたカイトたちは、その後も精力的に島の中を見て回った。

 そして、交易品になりそうなものを探し回り、少なくとも今回の航海の予算を大きく上回りそうな利益を見込むことができそうな品々を手に入れることができた。

 勿論それはあくまでも予測であって、実際には予想の額よりも下回ることは普通にあり得る。

 とはいっても、フゥーシウ諸島というこれまで交易どころか人の出入りさえなかった海域からの品になるので、物珍しさから売れることになるはずだ。

 

 中には人獣たちにとってはただの日用品という部類の製品もあって、特にガザルクなどは本当に売れるのかと首を傾げていた。

 今回仕入れた物のすべてが利益を見込めるとはカイトも考えていない。

 まずはそれらの品々を持ち帰って、しっかりと利益になると判断した物だけを次回以降は取引することになるはずだ。

 そのためにも今の滞在中に、出来るだけ多くの珍しい品を見つけるのが重要だとカイトは考えているのであった。

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