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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第2章
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(14)機能の拡張

 見ようによっては土下座をしているように見える巫女たちに、事情が分からないガイルが若干唖然とした表情を浮かべていた。

 それを見つけて苦笑したカイトは、フアへと視線を向けて言った。

「フア、どうにかして」

『どうにかと言われてもの。吾が強要したわけじゃないからの?』

「それは分かってる」

『ふむ。まあ……良いか。ガイルもそこまで驚く必要はなかろう? 我が神だということは、元から分かっていたことじゃろう?』

「いや、それはそうだが……ですが、ここまでとは……」

 慌てて言葉遣いを変えたガイルを気にすることなく、フアは顔をカイトへと向けてきた。

 

 狐の姿で表情などは分かりにくいはずだが、カイトはその視線の中に呆れをしっかりと感じ取った。

『なんじゃ。吾が大地神であることは、まだ言ってなかったのか?』

「別に隠し続けるつもりはなかったんだけれど、何となくタイミングが無かった」

『カイトらしいの。――ほれ、其方たちもいつまでそうしているつもりじゃ? いい加減にしないと、話がいつまでたっても進まないからの』

 フアがそう促すと、ようやく三人の巫女たちは恐る恐るといった様子で頭を上げた。

 

 それを見ていたカイトは、ふと疑問に思ったことを口にした。

「それにしても、何故巫女の皆さんは、フアが大地神だと分かったのですか? 大陸では聖職者でも見抜けなかったのに」

「私どもはあちらの神職がどういう修行を行っているかわかりませんが、恐らく我々は普段から主の気に触れているからかと思われます」

「主の気?」

「まさしく、使徒様が目の前にしているそれです」

 シモナが言った『それ』を目にしたカイトは、納得の表情で「なるほど」と頷いた。

 シモナの視線は、部屋の中央に僅かに浮かんでいる多面体の物体に向いていたのだ。

 カイトも言われて分かったのだが、その物体からは確かにフアの神気と呼べるような力を感じ取ることができた。

 

 カイトがその力を感じ取ることができたのは、いまでも続けている魔法の訓練のお陰だ。

 テイマーやサモナーとしての能力の一つに、相手の力を感じ取るというものがある。

 その能力を鍛えているおかげで、フアの神気も普段から感じるようになっていた。

 それと同じものが、目の前の多面体からも発していることが分かったのである。

 

「あー、なるほど。何となく想像したけれど、もしかしてこれがこの辺りの海域を守っている結界を作っているのですか?」

「その通りです。はるか昔、私たちの祖先にあたる者が、フア様からこれを頂戴したと伝わっております」

『そうだの。あれは、時間にして…………千年ほど前のことだったかの』

「千年って、随分前じゃない?」

 カイトが少しだけ驚いて聞くと、フアは狐の姿のままゆっくりと首を左右に振った。

「そうでもなかろう。其方が知る世界でも、差別やらなにやらが無くなるまでは、相当の時間がかかっていたと思うがの?」

 フアからそう言われてカイトは少しだけ考えこみ、やがて首を縦に振った。

 

 そもそも今いる世界で人獣たちが差別を受けていないのは、過去からの長い年月をかけてお互いに信頼関係を築けていたからだ。

 信頼を築けた理由の一つに、人獣たちの数が減りすぎたというものもあるのだが、それも要因の一つに過ぎない。

 過去には完全に消えてしまった種族もあるのだから、人獣に限って言えばいくつもの要因が重なってのことだということがわかる。

 

「なるほどね。じゃあ、それはいいや。……それで、ガイルはいつまで驚いているんだ?」

「いや、だが、大地神………………」

「いやもう、フアはそういうものだと思って諦めた方が早いから」

 いつまでもそのことを引きずられると今後の活動に支障をきたすと考えたカイトは、敢えて割と軽めの調子で言った。

 

『何やら最近、そなたの吾に対する扱いが軽いと思うのだがの?』

「嫌だったら改めますが? 大地神様」

『……いや、そなたは今のままで構わぬ』

 フアは、軽く身震いをしてからカイトにそう答えて、さらに視線を巫女たちへ向けた。

『それはともかく、このカイトが吾の使徒であることは、今更念を押さなくてもいいであろ?』

「はい。勿論です」

 たまたま最後に視線があったメルテがそう答えると、フアは満足気に頷くのであった。

 

 

 何となく話がひと段落したと考えたカイトは、視線を多面体へと向けた。

「それで? わざわざここに誘導したってことは、俺にやってほしいことがあるからだろう?」

『うむ。そういうことだの。クエストのクリアアイテムは持ってきておるかの?』

「ちゃんと持ってきているよ」

 カイトはそう言いながら服のポケットに手を突っ込んで、中から何の変哲もないその辺に転がっているような小石のようなものを取り出した。

 このアイテムは『人獣たちの住む島を見つけよう』のクエストで貰ったアイテムで、いつでも持ち歩いておくようにフアから言われていた物だった。

 

「――それで? これをどうすればいいんだ?」

『そなたが、小石ごとあれに触れればよい』

「小石ごとって……ああ、押し付けるようにすればいいのか」

『そういうことじゃ』

 フアからお墨付きを得たカイトは、一応巫女たちに確認を取ってから多面体に近付いて行った。

 フアの言うことを巫女たちが反対するはずがないと分かっているが、それでも確認は必要だと考えたのだ。

 

 

 巫女三人組とガイルが見守る中、カイトはフアから言われたとおりに、小石を持ったままの右手で多面体にそっと触れた。

 すると、カイトの右手と小石が触れた瞬間に、多面体が強い光を発して持っていた小石は無くなっていた。

 その光にカイトは数秒目を閉じてしまったが、次に目を開けた時には多面体を囲むように七色の光の輪が浮かんでいた。

 

「――今のは?」

『一言で言えば、これの機能を拡張したのじゃ。これから先、いつでも外から許可を得た船だけが入って来られるようにの』

 現在、セプテン号だけがフゥーシウ諸島へと入ってきているが、他の船も来られるようにするためにわざわざカイトにここまで来てもらって機能の拡張を行ったのだ。

『一応言っておくが、今まで通り誰も通さないようにしておくこともできるからの。カイトは例の笛があればいつでも入って来られるからの。特に其方たちが必要ないと思えば、使わなくてもよい』

 フアが機能を拡張しようと考えたのは、カイトがフゥーシウ諸島との取引のすべてを担うことになってしまっては困るからだ。

 フゥーシウ諸島では、これまで外部とのやり取りなしに生活することができていた。

 島の者たちが、カイトがたまに来るくらいの貿易以外を望まないというのであれば、それで構わないというのがフアの考えだった。

 

 そして、フアが何故カイトをここまで連れてきたのかといえば、勿論理由は一つである。

「もしかしなくても、人獣たちに絹の生産をさせるつもり?」

 カイトがそう聞くと、フアもその通りと言わんばかりに首を縦に振った。

『そう言うことじゃ。今のカイトには、人手が必要であろう?』

「そうなんだけれど……随分と豪快な方法を取るなあ」

 カイトは、若干呆れた様子でそう言ったが、ある意味で神様らしい方法に納得もしていた。

 

 フゥーシウ諸島にいる人獣たちが絹を作ってくれるのであれば、カイトは自由にそれを大陸に持ち込んで売ることができる。

 人獣たちがどの程度蚕の育成に人手を割けるかは分からないが、見込みがあるからこそフアはここまでカイトを誘導してきたはずである。

 ある意味では公爵よりも信頼できそうな取引相手ができそうなことに、カイトはフアに感謝しつつどういうことかと首を傾げている人獣たちを見るのであった。

多面体の名前……どうしましょうか。

(再登場するかは不明です)

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