(12)フォクレス島へ
最初の話し合いを終えて案内された部屋に入ったメルテたちは、一つの部屋に集まり話し合っていた。
勿論、船に乗り込む前にいくつかの打ち合わせをしていたのだが、実際にカイトたちに会ってから方針を変えなければならないこともある。
その中で一番大きいのは、代表者の人となりを知ることだ。
まずはきちんと対面した上で人となりを知って、フォクレス島の神宮へ連れて行っても大丈夫かを確認したのである。
いくら相手が神の使徒とはいえ、人同士の関係ではどんな態度を取っているか分からない。
それをしっかりと見極めるのが、メルテの役目の一つなのだ。
そして実際にカイトを目の当たりにしたメルテは、部屋に備え付けられた椅子に穏やかな気持ちで座っていた。
そんなメルテに、ダンが確認するように聞いてきた。
「いきなり島に案内するように言っていましたが、よろしいのですか?」
この部屋にいるのは船に来た五人のうち四人だけで、残りの一人はフォクレス島を案内するために操舵室に行っている。
そもそもの話では、別の島に滞在をしてもらいながら様子を見て、問題ないと判断されればフォクレス島に案内するということになっていたのである。
ダンの問いに、メルテはコクリと頷いてから答えた。
「問題ないでしょう。むしろ、直接お連れしない方が問題になる可能性があります」
「それは、デボラ様も同じお考えでしょうか?」
いくらメルテに最終的な権限が与えられているとはいえ、デボラも同じフォクレス島の巫女である。
デボラが反対であれば、メルテを説得するつもりでの問いだ。
だが、ダンの意図に反するように、デボラはしっかりと頷き返した。
「ええ。私もこのまま島へ行っても構わないと考えております」
「そうですか。――その理由を伺っても?」
付け加えるように聞いてきたダンに、メルテとデボラは同時に首を振った。
フアが神の一柱であることは二人とも確信しているのだが、それを表に出して良いかは判断が付かないためだ。
それは単に、カイトがそのこと隠しているようだからというだけではなく、神宮の巫女だからこその理由がある。
フォクレス島の巫女は、フゥーシウ諸島全体を守る結界を維持する存在として、一定以上の発言権がある。
特に神に関わることならば、それぞれの地域をまとめている者たちよりも強い権限があるといってもいい。
普段の生活で神が関わってくることなどほとんどないのでそれほど目立たないのだが、島々で暮らす人獣たちにとっては不可侵の領域といってもいいほどである。
そんな巫女であるメルテとデボラが、ここでカイトの連れているコンが神の一柱であると発言すれば、それだけでも大きな混乱を与えることは間違いない。
今はまだそんな不用意な発言はできないと、メルテとデボラが考えるのは当然のことであった。
それに加えて、カイトを不用意に他の島に行かせてしまうと、島の住人の中でその正体に気付いてしまう者が出て来るかも知れない。
各島には、現在は巫女を引退して普通の生活を行っているという者も少なくないのだ。
そうした者たちの口からフアの正体が伝わる可能性を考えると、まずはフォクレス島へ連れて行くというのが一番なのだ。
メルテとデボラが同時に頷いたことでダンは納得していたが、ここでガザルクが口を挟んできた。
「おいおい。そんなんでいいのか? どうやら二人は、あのガキが使徒らしいと思っているらしいが、島に対して何もしないと何故言える?」
「黙りなさい、ガザルク。私とメルテが巫女として判断した。それが重要なのであって、あなたの意見は関係ない」
「何を……!?」
デボラの予想外に強い口調に、ガザルクは思わずといった様子で反発しようとしたが、それをダンが割って入って止めた。
「ガザルク、よせ。この場合はメルテ様のほうが正しい。今のはお前が言いすぎだ」
いつもは二人の痴話げんか(?)を見守るだけのダンも、巫女の存在を否定するような言い方は看過できなかったようだ。
三人のやり取りを見ていたメルテは、内心で自分の判断が正しいと確信をしていた。
ガザルクはともかくとして、ダンのような考え方をする者は、島の中でも少数派というわけではない。
また、だからこそガザルクが一緒に着いて来るような状況にもなっているのだ。
カイトたちをフォクレス島へ連れて行くのは、そうした者たちから一定の距離を置かせるという意味もある。
いずれにしてもフォクレス島に着くまでは、色々な意味で安心はできない。
ダンに説得されて不貞腐れているガザルクを見ながら、メルテはそんなことを考えるのであった。
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フォクレス島への航行は、順調すぎるほど順調に進み、予定通り翌日の午前中には目標の島が見えてきた。
ここに来るまでに何度か話し合いの場を持ったが、基本的にはカイトたちがした質問をメルテたちが答えるという形になっていた。
カイトたちが聞いてきたことが、島での暮らしの様子だったりしたので、メルテたちにとっては特に隠すことも無かったということも大きい。
これがもし、諸島全体を覆っている結界に関する問いだったりした場合は話が変わっていたのだろうが、カイトたちが聞くことは一切なかった。
傍から見るとメルテたちに誘導されながら動いているように見えるカイトだが、実際にはフアの助言があったりもする。
セプテン号がメルテたちを乗せた日に神域に行ったカイトは、少しだけフアと会話を行っていたのだ。
そこで言うとおりに動いてくれないかというお願いがあったので、案内されるままに船を移動させているのだ。
目的の島について何をするのかは聞いていないが、フアにとっては大切な何かがありそうなので敢えてそこには触れていない。
というわけで、カイトは諸島全体の情報を集めることに専念していた。
メルテたちにとっては特に隠すようなことはないので、聞かれたことには全て答えるということが続いている。
「――ということは、こちらでは塩は岩塩を使っているということですか」
「はい。海水から採取する方法もありますが、やはり効率が良くないようです」
「ああ、なるほど」
その昔、海水から塩を作るのが夢物語だと言われていたのは、効率が良くなかったからと言われている。
勿論それだけが理由ではないのだが、岩塩のほうが手軽だったことだけは確かだ。
頷いているカイトを見ながら、メルテは小さく首を傾げて聞いた。
「カイト様は、良き方法をご存じなのですか?」
「うーん。どうかな? 海水から塩を取る方法は知っているけれど、やっぱり岩塩のほうが手軽なのは確かだよ。ただ、岩塩の取れる場所が限られていて問題になっているんだったら、使えるとは思えるかな」
フゥーシウ諸島は、カイトが見た感じでは山が多くて平地が少ないように見える。
それらの山々のいくつかで岩塩が取れているのであれば、わざわざ海水から作る塩にこだわる必要はない。
カイトの言葉に、メルテは顎に右手を当てて考え込むようにわずかに首を傾けた。
「問題……ですか?」
「例えば、一つの勢力だけに握られているとか、かな」
「そういうことですか……」
カイトの答えを聞いたメルテは、そう返答してから考え込むように黙りこんだ。
そして、話をしながらメルテと周囲の様子を見ていたカイトは、塩が問題の一つになっているのかなと考えるのであった。




