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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第2章
56/134

(9)それぞれの対応

 フゥーシウ諸島と呼ばれる海域は、フォクレス島を中心にして三つの大きな地域に分けられている。

 三つの大きな地域にはそれぞれ三つの大きな島が存在していて、カイトが乗るセプテン号はその一つであるタイガラス島の近くに航行することになった。

 勿論この時点でカイトたちは、目の前に見えている島がなんと呼ばれているかは分からず、ただ思った以上に大きな島が存在しているなと思っただけだった。

「ぐるりと周回しても、一日じゃ回り切れないかな?」

「無理だろうなあ」

 カイトが漏らした感想に、ガイルも同意するように頷いた。

 

 二人がそんな感想を言い合っている間も、セプテン号はゆっくりと進んでいる。

 船の進みが今までよりも遅いのは、海図を作るために敢えてそうしているのだ。

 乗組員たちの測量の技術を上げるためにも、きちんとした海図を作って今後の航海に役立てるためにも絶対に必要な作業である。

 それに加えて、恐らく外部からの侵入に警戒しているであろう島の住人たちに気を使っているということもある。

 不用意に近づいて、現地の住人から襲撃を受けてしまっては元も子もないので、まずは様子を見ているのだ。

 出来ることなら向こうから接触をしてきて欲しいところだが、数日待っても変化が無いようであればこちらから上陸するつもりでいる。

 

 話に聞く人獣は、身体能力に優れているというが、実際のところはわからない。

 ただ、人獣たちの身体能力が高かろうが低かろうが、そもそも数で攻められたらどうしようもない。

 そうなった場合にカイトたちができることは、セプテン号に逃げ込むことだけである。

 もっとも、そんなことを考えているカイトだったが、一方でそんな最悪の事態にはならないだろうとも考えていた。

 クエストで人獣たちがいる島を探すように指示を出している以上は、フアにとって利があるようになっているはずなのだ。

 お互いに敵視しあうようなことになれば、その利が無くなってしまう可能性が高い。

 そんな状況になるのをフアが黙ってみているはずもない、というのがカイトの予想だった。

 

 

 セプテン号がフゥーシウ諸島の海域に入ってから二日目の午後。

 そのカイトの予想が正しかったことが、ついに証明されることとなった。

 相変わらず海域調査を行っていたセプテン号に、一隻の船が近づいてきたのだ。

 ただし、船といってもそちらは筏よりもましだという感じのオールで漕ぐタイプの小さな木造船だった。

 幸いにも海は穏やかだったので沈没するということはなさそうだが、その頼りなさにカイトは近づいてい来る小舟を見ながら冷や冷やしていた。

 

 そんなカイトの様子に気が付いたガイルは、いつものように豪快に笑いながら言った。

「我らが船長は、お優しいことだな。もしかしたら俺らが襲われるかもしれないってのに」

「「「違えねえ!」」」

 ガイルの言葉に、傍で様子を見ていた他の乗組員が声を揃えて同意してきた。

「いや、だって。どう考えてもあれだけの人数で、この船をどうこうできると思う?」

「無理だろうな」

 カイトの疑問に即答したガイルは、真面目腐った表情になってさらに続けた。

「んで? あのお客さんをこの船に迎え入れるってことでいいんだな?」

「そのつもり」

「了解。よし、野郎ども聞いたな? きちんと迎える準備を始めろ。あと、変な気合を入れるなよ!」

 そう釘を刺したガイルに、乗組員は「うっす!」と妙に気合の入った返答をしてきた。

 

 割といつものノリといえばいつものノリなのだが、多少不安になったカイトは自分からも念を押しておくことにした。

「本当に、余計な手出しはいらないから。そもそもこの船で戦闘行為がほぼ不可能だということを忘れないように」

「「「ういっす!」」」」

 一応船長という立場が効いているのか、今後は真面目な答えが返ってきた。

 そして、これ以上を求めても仕方ないと気持ちを切り替えたカイトは、自身もお客を迎える準備を始めるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 目の前に迫って来る巨大船を見ながら、メルテは感嘆した様子で呟いた。

「さすがは主神の使徒様と言ったところでしょうか。このように大きな船は、見たことがありません」

「はっ! 流石は巫女様だ。お気楽な考えでいいことだ」

「ガザルク! いい加減になさい!」

 メルテの呟きを拾った虎族の人獣が呆れをにじませた様子で言うと、メルテの隣に立っていたデボラが怒りの声を上げた。

 神の使徒を迎えるために来ているメルテを揶揄したことが、同郷のデボラには許しがたい行為だったのだ。

 

 だが、そんなデボラに対して、ガザルクはただ肩を竦めるだけで特に堪えた様子は見せなかった。

「へいへい。お偉い巫女様に対して、不遜な態度を取って申し訳ありませんでした……っと」

 そのあからさまに小ばかにしたような態度に、デボラは益々いきり立――とうとしたところで、メルテが止めた。

「デボラ、放っておきなさい。今は、使徒様のことを考えるべきです」

「で、でも、こんな態度じゃ、いざ使徒様の前に立ったら……」

「そういう時のために、わざわざ聖闘士セイントのダン様にも来て頂いたのです。ガザルクさんのことが心配なのはわかりますが、今は使徒様のことを考えるべきです」

「べ、別に! こんなやつのことの心配なんて……!!」

 慌てた様子でそう言ってきたデボラに、メルテはハイハイと軽く流した。

 

 メルテはデボラの同僚だが、ガザルクというデボラにとっての幼馴染である存在は知らなかった。

 ついでに、ガザルクのとがった態度は、多分にデボラのことを心配してのことだということも丸わかりである。

 ここに来るまでに何度も似たようなやり取りを見てきただけに、メルテと他の同行者たちは多少食傷気味になっている。

 

「――どうやらあの船の動きが止まったようだな」

 それまで我関せずといった様子で無言だった豹族のダンが、巨大船を見ながらそう言ってきた。

 その言葉で、メルテは慌てて確認して、それが事実であることがわかった。

「こちらに気付いたということでしょうか?」

「さて。そこまでは分からないが……いや、どうやらこちらを迎え入れてくれるようだな。梯子の用意がされている」

「本当ですか……?」

 残念ながらそこまでは分からなかったメルテは、目を凝らして巨大船を注視した。

 すると確かに、巨大船の中間あたりで、男たちが縄梯子を降ろしている様子が見て取れる。

 

「さて。私としてはあの梯子は使ってほしくないと言いたいところだが、そうもいかないようだな」

 梯子で上に登っていくとなれば、無防備になるどころではない。

 護衛としてはそう言ってくるのは当たり前のことなので、メルテはただ単に頷き返すだけで収めた。

「はい。私自身が話をする必要がありますから。ですが、ダン様の心配も分かりますので、まずは聖闘士の方の一人を先に行かせるというのはどうでしょう?」

「……なるほど。確かに、それが無難なようだ」

 メルテたちが乗る小舟には、ダン以外にも聖闘士は乗っている。

 そもそもこの小船を漕いでいる犬族の男も聖闘士の一人なのだ。

 

 メルテの提案に従って、巨大船の上に登っていく順番が決められていった。

 まずは聖闘士の一人が最初の交渉役として向かい、その後了承が取れればメルテ、ダン、デボラ、ガザルクの順番に上っていく。

 それ以外の者たちは、小舟で留守番となる。

 もし巨大船に乗る者たちが攻撃的であれば、逃げるための手段はきちんと用意しておかなければならない。

 メルテが聞いたという『声』がこの船のことであるならばそんな心配は本来いらないのだが、人獣たちにとっては大事な存在である巫女を守るためにはそれ位の対処をするのは当然のことなのであった。

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