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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第2章
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(8)使徒への対応と光の輪

 朝の務めで全体に周知されることになったメルテが聞いた『声』は、集まった巫女たちに衝撃をもって広まっていった。

 それもそのはずで、長年結界で守られてきた聖域に、よそ者が来るのだ。

 さらに、その結界を通って来るのが、結界を造ったはずの主神の使徒というのだから騒ぎにならないはずがない。

 この内容を島々に広めれば、間違いなく巫女たちと同じような反応か、それ以上の騒ぎになるはずだ。

 だが、巫女たちにこの『声』を周辺に広めないという選択肢はない。

 様々な『声』を聞いて、人々に伝えるのが自分たちの役目だという誇りがあるのだ。

 それに、今回の声の主は彼女たちが崇めている主神なので、それを裏切るような行為ができるはずがなかった。

 それらの理由から、一度は騒めいた巫女たちは、それぞれの島にこの情報を伝えることになったのである。

 

 フゥーシウ諸島の情報伝達は主に人の移動で行われているが、場合によっては魔法的な方法も使われる。

 今回に関しては、緊急を要するということもあって、まずは本宮に設置された通信の魔道具で各大島に伝えられた。

 大島というのは、フゥーシウ諸島にある三つの大きな島のことであり、勢力的にもそれらの島を中心にして三つに分かれている。

 ただし、あまり人獣が国を作るという意識を持っていないため、他の人族が作るような強固な集団になっているわけではない。

 良く言えば集団での争いが発生しづらく、悪く言えばまとまりがない脳筋の集団ともいえる。

 フゥーシウ諸島にいる人獣たちは、外敵にさらされることも無く長い間過ごしてきたこともあって、内での争いを繰り広げるとそれこそ種の存続に関わるということを理解しているのだ。

 

 

 朝の務めを終えて各島に連絡をしたシモナは、残るように言っていたメルテに言った。

「貴方はこれからタイガラスへ向かいなさい。間に合うかはわかりませんが、直接声を聞いた者が行った方がいいでしょう」

「わかりました」

 何となくそう言われる予感はしていたので、メルテはすぐにシモナの言葉に頷いた。

 それに、大地神が選んだ使徒がどんな人物なのかにも興味がある。

 なので、自分が接待役に選ばれたことに対しては、なんの不満もない。

 

「それから、同行者としてデボラも連れて行くように。何かあったときのために、タイガラス出身の彼女がいた方がいいでしょう」

 デボラは、メルテが『声』を聞いた時に一緒にいた同僚のことだ。

 巫女に出身地による差はないが、それぞれの地域で微妙に違っている常識などがあるので、それを知っている同僚がいた方が心強い。

 シモナがそう考えてデボラをつけることを提案してきたことは、すぐにメルテにもわかったので、これもまた素直に頷いた。

 

「彼の者と話をする上で気を付けるべきことはあるでしょうか?」

「さて。下手に探りを入れてしまえば、使徒様にご迷惑をお掛けすることもあり得ます。変に来訪の目的をお聞きするなどは止めたほうがいいでしょう」

「はい」

「ただ、どうやって結界を乗り越えてきたのかは、確認したほうがいいかも知れません。単に、主神の力を借りただけかも知れませんが」

「そうですね」

 フゥーシウ諸島に住まう者たちにとって一番の関心事は、どうやって海域に侵入してきたかということだ。

 もし、他の船も簡単に出入りできるようになるのであれば、それに対応する策を諸島全体で考えなければならない。

 この時点で、シモナが言った言葉が的を射ていたなんてことは、二人には確認する術がなかった。

 

 一番の問題は、主神の使徒がフゥーシウ諸島に侵入してきた時点で、住人たちが勝手に探りを入れることだ。

 一応先ほどの連絡で、ゆめゆめ乱暴な扱いをするなと釘を刺しておいたが、人獣には気性の荒い者たちもいる。

 特に、侵入してくると『声』で教えられた場所――タイガラス方面は、そうした者たちが多く暮らしている地域でもある。

 巫女頭の通達を簡単に無視する者はいないだろうが、使徒の対応によっては暴挙に出るものがいないとも限らない。

 そのためにも、メルテとデボラは出来るだけ早く使徒と会う必要がある。

 

「周囲に聞かれてしまう可能性を考えると、他人がいない場所でお聞きするというのもいいかも知れません」

「はい。無理のない範囲でやってみます。もし駄目だった場合は……」

「その場合は、こちらで確認すればよろしいでしょう。とにかく、無理をして使徒様の不興を買わないようにすることが最優先です」

「かしこまりました」

 くれぐれも丁寧な扱いを心掛けるようにと念を押すシモナに、メルテも多少緊張した様子で頷いた。

 巫女が、神の――それも主神の使徒を乱雑に扱っては、周囲に示しがつかない。

 もし使徒が気難しい性格の者だとすれば、非常に気を使った対応をしなければならないだろう。

 

 そんなことを出発まで打ち合わせしていたメルテとシモナだったが、この時の二人は思いつきもしていなかった。

 使徒が、これらの打ち合わせをまったく意味をなさなくする存在を連れて歩いているなんてことは。

 メルテは、使徒に会うなりそのことに気が付いて冷や汗を流すことになるのだが、そんなことになるとはつゆ知らず、フォクレス島を出発することになるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 カイトが笛を吹くことによって現れた光景――それは、まるで虹が目の前に現れたかのように、船の前に光の輪が出現したのだ。

 その光の輪は、どうぞお通りくださいと言わんばかりに、ちょうどセプテン号が通過できるくらいの大きさになっている。

「――あれを通れということか?」

「そうだろうねえ……」

 唖然とした様子のガイルに、カイトはいろんな思いを込めて頷いた。

 

 光の輪はセプテン号のちょうど目の前に出ているので、進路を変更する必要がないのは助かるが、大きさから言ってそこまで余裕があるわけではない。

 輪をくぐった後にどうなるかわかっていない以上、最初の一回目は色々な意味で緊張する瞬間となりそうだ。

「船の操作、変わったほうがいいかな?」

 チラリと操舵室へと視線を向けて言ったカイトに、ガイルは少し考えてから首を左右に振った。

「いや、いらんだろ。この風向きであれば、修正が必要だとしても少しだろうし、これくらいで緊張していては小さめの港に泊まることもできないからな」

「それもそうか」

 ガイルの言い分に納得したカイトは、頑張れという意味を込めて操縦者に視線を送るだけで、交代するような指示を出すことはしなかった。

 

 カイトとガイルがそんな会話をしている間にも、セプテン号は光に輪に近付いて行った。

 そして、船の先が輪の中に入っていくのを見ていたカイトは、何事も起きないのを見て拍子抜けしたような顔になった。

「なんだ。もう少し何かあると思ったのに……」

「まったくだな。まあ、何かあったらそれはそれで面倒だから、これはこれでいいが」

 カイトの言葉に、ガイルも苦笑をしながらそう言ってきた。

 拍子抜けなのは確かだが、船に何の損害もなかったことは、喜ばしいことには違いない。

 

 そんなこんなで、セプテン号は特に何事もなく光の輪を潜り抜けた。

 そして、光の輪をくぐった先には、ある意味で予想できた光景になっていた。

 先ほどの結果だと全く別の場所に出るはずが、きちんとした物理法則(?)にしたがって海の上を進んでいたのである。

 より具体的に言えば、目の前に見えていた島がきちんと近付いて来ている。

 それが意味することは、セプテン号は光の輪を通ってフゥーシウ諸島の海域に入ったということであった。

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