(40)騎士たちの謝罪
クワモリ商会が立ち上がりカイトの入学準備も順調に進む中で、カイトは再び三隻の船長たちから再び相談を受けていた。
ただし、今回は前回とは違って何やら戸惑いのようなものが混ざっているように見える。
そして、それぞれの船長から話を聞き終えたカイトは、一度だけため息をついてからこう言った。
「――つまり、前に文句を言ってきた騎士たちが、今度は謝罪をしたいということか?」
「そうなりますなあ。少し都合がよすぎる気もしますが……どうします? 会うのはやめますか?」
確認するような視線を向けてきた船長の一人に、カイトは首を左右に振った。
「いや、会っておこう。前の時から態度が変わったのは、理由があるはずだからな。それに、最近はきちんと学ぶ者としての姿勢になっているんだろう?」
「まあ、そうですね」
一人がそう言って頷くと、残りの船長たちもほぼ同時に頷き返してきた。
その様子を見るだけで、現在の騎士たちの態度が以前と比べて、良い方向に変わっているということがわかる。
騎士たちの目的はわからないが、わざわざ船長たちが会ってほしいと言ってくるということは、それなりの意味があるということだろう。
そう考えたカイルは、船長たちと予定を合わせて、騎士たちとの話し合いに応じた。
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セイルポートにあるクワモリ商会の本部にある部屋が、今回の騎士たちとの面会の場所である。
本部ができたことで海運ギルドの建物を借りる必要がなくなったのは、秘密の保持という意味でも進歩したといえる。
それに、いつでも自由に使えるということは、それだけでも時間の制約がなくなってより自由に動けるようになった。
カイトが本部の会議室に入った時には、すでに三隻の船に乗っている騎士の代表が集まっていた。
部屋に入って彼らの顔を見たカイトは、すぐに前回と違っていることに気が付いた。
以前あったとげとげしさはすっかりなりを潜めていて、むしろ恐縮するような雰囲気さえあったのだ。
彼らのその様子に気付いたカイトは、上層部を含めてある程度の情報開示がされたのではないかと推測した。
「――それぞれの船長から話をしたいということで聞いているが、どんな話だろうか?」
カイトがそう切り出すと、騎士たちのうち三人が前に進み出てきた。
彼らは、それぞれの国ごとの騎士をまとめている立場にいる者たちだ。
そして、事前に誰から話を切り出すかを決めていたのか、その中の一人が話し始めた。
「まずは謝罪を。以前は、学ぶ身でありながらあり得ない態度をとってしまい、申し訳ございませんでした。こちらにいらっしゃる船長たちも含めて、改めて申し訳ございませんでした」
代表の騎士がそう言うと、残りの騎士たちは、ここで一斉に頭を下げてきた。
この場にいる騎士たちは、三隻の船に乗っている全員ではないが、それでも今の対応は騎士たちの総意だということになる。
平民であるカイトに向かって頭を下げるということは、そういう意味を含んでいるのだ。
「謝罪を受け入れるかどうかは、私ではなく、こっちにいる船長たちに聞いたほうがいいだろう」
「船長たちにはすでに謝罪をして、受け入れてもらっています。今のこれは、先の会長に対する態度へのものです」
「そうか。それなら、まあいいだろう。それで? 今回は、謝罪をするためだけに来たのか?」
何度か頷きながらカイトがそう聞くと、騎士代表は首を左右に振った。
「いいえ。それ以外にも、それぞれの国から報告すべきことを預かっています」
「国からの報告?」
「はい。会長から預かった船の設計図ですが、第一号の完成目途が付いたようです」
「おや。その話を聞いてきたんだ」
以前の騎士たちは、あくまでもカイトから新しい航海術を学ぶという目的だけを知っているようだった。
だが、設計図の話を持ち出してきたということは、予想通りにある程度の情報が解禁されていることが証明されたようなものだ。
そんなカイトの読みに気付いているのかいないのか、目の前にいる騎士は一度頷いてから再び話し始めた。
「はい。知らなかったこととはいえ、そのような大事に関わっていたとは存じずに……」
「いや、そのことで謝る必要はないよ。どうせ、情報制限されていたんだよね?」
あえて先取りしてカイトがそういうと、騎士は何と答えたものかという微妙な表情になった。
騎士も含めて軍人が情報制限をされた中で行動するのは当然のことだとカイトも考えているので、そのことを追求するつもりはない。
それよりも、折角の機会なので、カイトとしては彼らの言っておきたいことがあった。
「あなたたちにも立場があるだろうから、ここでそれについて何かを言う必要はないよ。それよりも、一つだけ言っておきたいことがあるかな」
「……なんでしょう?」
「上からの命令に従うというのは、軍人である以上は絶対に必要であることは間違いない。けれども、自分たちで仕入れられる情報だけでも、防げる事故というのはあるんじゃないかな?」
カイトがそういうと、騎士のうちの何人かがぽかんとした表情になった。
残りの騎士は軍人らしく無表情のままだったが、カイトの言葉の意味がどういうことなのかを考えているということがわかる。
やがて、三人の代表のうちの一人がハッとした表情になって言った。
「――会長の……いえ、カイトさんの例の噂について、最初からただの噂だと決めつけるのではなく、独自に調べる必要はあったのではないか、ということでしょうか?」
「そういうことだね。ただ、俺の場合は容易に信じられないと言われても仕方ないけれどね」
苦笑しながらそう言ったカイトに、騎士たちはどういう顔をしていいか分からないと言いたげな顔になった。
「いや、別に困らせるつもりで言ったわけじゃないんだ。そうじゃなくて、一般的に最初からけんか腰だとまともに受け入れられることなんてないんじゃないかな」
最初からけんか腰になって、あえて嫌われるようなことをするというのも作戦の一つといえるだろう。
ただ、神のコンを得ているという噂のある人物に対してとっていい態度なのかどうかは、いくら上からの指示だといっても多少なりとも疑問に思うべきだろう。
少なくともカイトが見ていた限りでは、彼らは最初から見下すような態度をとっていた。
「――こんなところでうだうだ言っても、軍人である以上は従わざるを得ないこともあるか。今のは平民子供の戯言だと思って、聞き流してくれればいいよ」
「いえ。参考にさせていただきます」
「そう。――とにかく、あなたたちの謝罪は受け入れた。それで、ほかに言いたいことはある?」
「いいえ。私からは、特にありません」
「わかった。それじゃあ、今回はこれで解散でいいかな?」
カイトがそう聞くと、その場にいた全員が頷き返してきた。
今回の話し合いが実りのあるものだったかどうかはカイトには分からなかったが、少なくともこれを機に各船の船長たちと騎士たちの関係性がいい方向に変わっていくことになる。
そして、それぞれの船で新しい航海術を学んでいった騎士たちは、それぞれの国の海軍で重要なポストについていくことになるのだが、それはまた別の話だ。
いずれにしても、これでカイトにとっての懸案は、これでまた一つ減ったことになる。
そして、カイトはルタ学園の入学に向けて、より一層準備に励むことになるのであった。
これにて第三章は終わりになります。
第四章開始は少々お時間をいただいての更新になります。
しばらくお待ちください。
m(__)m