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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第3章
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(37)商会始動

 新しい商会――クワモリ商会がすんなり作れたのにはヤーナの知識が役に立ったということも勿論あるのだが、もう一つの理由もあった。

 むしろ、ヤーナはそっちの方が理由としては大きいだろうと主張している。

「――例の船のオーナーが、公爵様のお気に入りという噂は聞いていましたが、まさか本当だったとは思いませんでした」

 ヤーナがそう言いながら向けた視線の先には、商会を作る時に商業ギルドに見せた公爵の推薦状(のようなもの)が置かれていた。

「まあ、普通はそんなことあるはずないと思うよなあ……」

 カイトもヤーナに同意するように言ったが、普通の常識で言えばこちらの認識のほうが正しいはずなのだ。

 カイトも養蚕のことがなければここまで親しくなれなかったとは考えているが、その後にやらかした色々のせいで公爵の方も繋がりを持ちたがっているというのは事実だ。

 公爵と最初に繋がりを持てたのは確かに幸運でもあっただろうが、その後も飽きられずにいるのはカイト(フアともいう)のお陰でもある。

 

 同意しながらも公爵から貰った手紙を仕舞ったカイトを見て、ヤーナはため息をついた。

「その程度の言葉で済むはずがないのですが……神のコンを得ている会長を相手にそんなことを言っても仕方ないですね」

 クワモリ商会を作った後、カイトはしっかりと業務を果たしてくれたお礼(?)として、ヤーナに自分のコンが神の一柱であることを打ち明けていた。

 その際にも色々と言っていたりしていたのだが、今ではヤーナもその事実を受け入れている。

 

 ただ、今はまだ常にまとわりついているフアが、その名の通りに五大神の一柱であることを伝えてはいない。

 五大神が一人の人間のコンになることなどほとんどないので、ヤーナは名前は同じでも五大神ではあるとは思っていないようだった。

 もしくは、同じ名前の低位の別の神だと考えているようだ。

 ちなみに、この世界では上位の神と同名の神というのは存在しているので、ヤーナの感覚は一般的にそこまでおかしいことではない。

 

 諦めの表情になっているヤーナにカイトが何かを言おうとするよりも先に、同じ部屋にいたガイルが何度か頷きながら言った。

「そういうこった。カイトを相手に常識で考えても仕方ないぜ」

「ですから『カイト』ではなく、会長と呼んだ方がいいと……」

「おっと、すまんな。つい癖で」

 すでに名目共に商会の会長となっているカイトだが、ガイルは変わらずに呼び捨てのままで呼んでいる。

 以前揶揄い気味にヤーナと同じように会長呼びにするかと言われていたが、カイトが拒絶したのだ。

 それでもヤーナは商会としての体面があると常にガイルに訂正をしているのだが、今では二人にとってはほとんどただの挨拶のようなものになっている。

 もっと言えば、ガイルが訂正することがないことを分かってうえで、敢えてヤーナが注意することで外の人間に見せつけているのだ。

 ガイル(というよりもカイト)とヤーナが、それぞれ妥協した結果、今の形に落ち着いているともいえるだろう。

 

 いつも通りの二人のやり取りにカイトが意識を向けていると、ヤーナがごく普通の態度でガイルに問いかけた。

「それで、事務所で船のスケジュールを組む船乗りは決まったのでしょうか?」

「ああ、それな。色々と考えた結果、二人付けることにしたぜ」

「それは……」

「経費が掛かると言いたいんだろうが、こっちにも事情があってな。そもそも将来的に持ち回りにすることを考えれば、メインと補佐が必要だろうということになったんだ」

 補佐役の者はいずれ昇格してメインに行き、新しく補佐役を入れて次のメインに昇格させる人材にするというわけだ。

 たった三隻の船のスケジュールを作るために二人も使うのは無駄という考え方もあるだろうが、クワモリ商会が管理する船は今以上になると考えているガイルにとっては今のうちに人材を育てる必要があると考えたのだ。

 

 船のスケジュールを管理するのは、船速を考えて依頼や交易で向かう場所との往復や移動日数を計算するだけだ。

 ただ、やはり帆船は自然を相手にしているだけではなく、距離と船速だけでは測れない経験から来る知識も必要としているので、専門の者は必要になるのだ。

 そうした人材を育てるには、どうしても時間と費用をかけるべきというのがガイルの考え方だ。

 勿論、ガイルのその考えは、カイトも同意できる部分である。

 

 そのためカイトは、すぐにガイルの主張に理解を示した。

「予算という観点から見ればガイルの言うことは無駄だというのもわかるけれど、今回のこれは必要なことだ」

「わかりました。ですが……」

「うん。今後も船が増えるたびに無駄に人を増やしていくつもりはないよ」

「そういうことでしたら、私も今回は賛成いたします」

 現状のクワモリ商会は、独占している交易ルートを持っているおかげで、一人や二人無駄な人員を雇ったところで潰れることはない。

 それでも無駄を出来る限りは減らしたいということは、予算を管理することになるヤーナとしては気になる部分なのだろう。

 カイトとしてもヤーナの考え方は理解できるが、今回は必要なこととしてガイルの案に賛成したのだ。

 

 

 ガイルがスケジュールを作る人員を決めたことで、クワモリ商会を動かす最低限の体裁は整った。

 申請して実際にそれが認められた時点で商会は動いていることにはなっているのだが、これで書面上でも実働面でも動き出すことになる。

 今のところセプテン号プラス三隻の船の分だけの運用になるので、そこまで大きな商会になるわけではない。

 とはいえ、これはセイルポートにある商会ではという観点に絞った見方で、ロイス王国まで広げると上から数えた方が早いくらいの中規模商会である。

 そもそも船を四隻持っている時点でかなりの商品量を輸送できることになり、それだけでもそれなりの額の金額のやり取りが発生することになる。

 同じ量の荷物を陸路で輸送するとなると、相当大規模な商隊を作った上で、それを数隊編成しなければならないのだ。

 

 今のカイトは、多くの商船を抱える大きな商会にすることにはこだわりを持っていない。

 だが、公爵を始めとして今回関わりになった国王たちが、カイトに対して期待を抱いていることも理解している。

 その期待が大きな商会を持つことかどうかは別として、神のコンを持つカイトに期待を寄せるのは為政者としては当然のことだろう。

 勿論、カイトがそれに対して全て応えていく必要はないのだが、何かの形を見せていく必要はあるだろうと考えている。

 

 いずれにしても、カイトがまず考えなければならないのは、二柱の神々の注文に応えることが最優先である。

 それに応えていくことが、この世界の文明にとって、ひいてはそれぞれの国にとって利益になることだと考えているカイトであった。

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