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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第3章
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(36)ヤーナの業務

 セプテン号内にヤーナを連れてきたカイトは、そこで具体的に彼女が行う業務についての話をした。

「――ということは、私は各船から上がって来る収支をまとめて、カイトさん……いえ、会長に報告をすればいいということでしょうか?」

「……会長?」

「まだ名前は聞いておりませんが、商会のトップなのですから間違っていないかと」

「そうだけれど……まあ、いいか」

 何とも慣れない呼び名でむず痒く感じたカイトだったが、ヤーナが言ったことは間違っていない。

 むしろ外部に対してはそう呼んでもらった方が、色々な面で正しいと言える。

 個人的な感情を抜きにすれば一番いい呼び名なので、カイトも訂正するのを止めた。

 

 呼び名はともかく、今はヤーナの確認のほうが大切だ。

「――大まかな認識はそれであっているかな。もしかしたら、国からくる依頼の受理なんかも後から発生するかも知れないね。その場合には、各船のスケジュールの管理も必要になるかな」

「国からの依頼……と、船のスケジュールですか?」

「そう。国の方はたぶん来るかなって考えているだけだけれど、船のスケジュール管理は確実にやってもらうかな。といっても、基本的には元船乗りとか専門職が作ったスケジュールを依頼と合わせて最終確認してもらう感じだけれど」

 細かいところは専門職が行うと聞いたヤーナは、ホッと安心した様子で息を吐いた。

 

 ただ、ヤーナにとっては聞き逃せないもう一つの大事なことが説明されていない。

「あの、国からの依頼というのは……?」

「あれ? 言っていなかったっけ? セプテン号以外の三隻の船には、航海術を学ぶという名目で各国の騎士が乗っているんだ。だから、それぞれの国から何かの依頼が来てもおかしくはないと思っているんだ」

「……それは、ほぼ確定と言いませんか?」

「どうだろう? 国だってむやみやたらに小さな商会に依頼を出すなんてことはしないと思うんだよね。……まあ、希望的観測だけれど」

「……希望的観測なんて言葉、その年でよく知っていますね」

 ジト目でそう言ってきたヤーナに、カイトは誤魔化すように肩を竦めた。

 

 新しい商会を正式に作ったことにするには、きちんと商業ギルドに登録を行わなければならない。

 税金などのややこしい手続きなんかも発生するので、商業ギルドへの登録だけはどうしても避けて通れない。

 商業ギルドの登録せずに商会を作ることは可能なのだが、ほとんど世間には見向きもされない上に、お上(国)から目を付けられやすいという不利な点ばかりが目立つ。

 逆にいえば、商業ギルドに未登録のまま商会を名乗ると、世間からは後ろ暗い商売をしていると見られてもおかしくはない。

 税金逃れなどするつもりもないカイトは、当然だが商会の登録をするつもりでいた。

 

「――というわけで、今まで商会を作っていなかったから二の足を踏んでいた国も、ここぞとばかりに依頼をしてくると思うんだよね。船にいる騎士たちを鍛える目的も含めて」

「ほぼ間違いないでしょうね。国も騎士たちに、ただ給金を上げるわけには行かないでしょうから」

「いや、航海術を身に着けている時点で、ただ飯喰らいではないんだけれどね」

「そうでしょうけれど……いえ、今はこんな話をしていても仕方ないですね。とにかく、国からの依頼も来ることが前提として考えておきます。私自身が海運ギルドからの依頼をとって来る必要などはありますか?」

 

 打てば響くではないが、カイトが何も言わずに自分のやるべきことを理解しているヤーナを見て、よくぞこんな人材が埋もれていたとカイトは内心で感嘆していた。

 亡くなった旦那と合わせて、その能力の高さもセイルポートの各商会から睨まれる一因になっていたのだろう。

 カイトにとっては、まさしく棚から牡丹餅という状態なのだが。

 ヤーナの言葉を聞きながらカイトはそんな感想を持ちつつ、首を左右に振った。

 

「いや、その必要はないよ。スケジュールに空きができれば、それぞれの船の船長が適当な依頼を見つけて来るだろうし、そうじゃなくても別に構わない」

「それだと、さぼる船が出て来るのでは?」

「それはない……と思いたいけれど、出たら出たで別にいいかな。船員の給料はそれぞれの船の儲けから出すことになっているし」

「そうですか」


 そもそも、帆船を動かすための大部分の人員である騎士たちへの給料は、カイト側から出すことになっているわけではない。

 指導役に付いている船長を含めた三人の船乗りは、カイトが給料を出すことになっているのだが、それくらいは大した金額ではないのでセプテン号で行う予定のフゥーシウ諸島の貿易で十分稼げる。

 つまりは、カイトとしては新しく加わった三隻で儲けが出なくとも大した問題にはならないのだ。

 三隻の船の貸与が終わって、新しい設計の元に作られた船が加わった時からが、カイト――というよりも新しい商会にとっては勝負の時だと考えている。

 

 カイトの大体の方針が分かったのか、ヤーナは納得した顔で何度か頷いた。

「私は、商業ギルドの手続き関係と船のスケジュールの関係を見ればいいということでよろしいですか」

「今のところはそんなものかな。後から増える可能性もあるけれど……」

「業務が増えすぎて手に負えなくなればきちんと申告しますので、大丈夫です」

「そうだね。そうしてもらえると助かるよ。……変に気負って潰れたりしないように」


 カイトがそう付け加えると、ヤーナは呆れた顔になった。

「そうなる前にきちんと報告するつもりですが……まさか、十三歳の子供にそんな心配をされるとは思いませんでした」

「ああ~……うん。もう、俺についてはそういうもんだと諦めて」

「そうですね。お互いにとってその方がよさそうです」

 カイトの提案に、ヤーナもあっさりと認めて頷いた。

 薄々そうした方が楽だろうとは感じていたのだが、本人であるカイトから言ったことで色々と吹っ切れたのだ。

 

「うん。それじゃあ、あとはもう、実際に業務をやってもらいながら覚えてもらう感じがいいかな」

「そうですね。細かい疑問は後から色々と出てきそうですが、よろしいですか?」

「勿論。ただ、一応大体の業務ができるようになるまでの期限はあるから気を付けて」

「期限、ですか?」

「そう。来年の春になったら俺が学園に通い始めるから、今みたいに付きっ切りになるというのは無理だから」

「そういうことですか。分かりました。それまでには、回せるようにしておきます」


 カイトがルタ学園に通い始めると、笛の転移機能の仕様上、セプテン号と学園にしか転移できなくなる。

 今はセイルポートに転移地点を決めているので、いつでも来ようと思えば来れるのだが、それができなくなってしまうのだ。

 セプテン号をセイルポートにおいておけばその問題はなくなるのだが、ただ泊めておくだけにするのは無駄にしかならないので、そんなことはしない。

 何よりも、セプテン号にはやってもらいたいこともやりたいこともまだまだあるので、無意味に泊めおくだけということをしたくはないのだ。

 

 カイト側の事情を話したところで、今回のヤーナとの話し合いは終わった。

 あとは、実際に商業ギルドへの申請などの業務からやってもらうことになるのだが、ここでヤーナが早速役に立つことになる。

 旦那と共にセイルポートで商会を開いたことがあるヤーナは、大体の手続きの仕方を覚えていたのだ。

 カイトやガイルの知識では知らなかったことも知っていて、予想以上に手続きがスムーズに終わり、新しい商会は認められることになるのであった。

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