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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第3章
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(17)交易品の扱い

「私から話があるといっても、そこまで身構えないでください。交易品のことについてです」

 カイトがそう切り出すと、何事かという眼差しを向けていた代表者たちが、肩の力を抜いた。

「まず先に言っておきたいのですが、交易品というからにはきちんと大陸側で『売れる』ものを揃えるということが大前提になります。いくら平等を期すためといっても、売れない物は買えませんのでご了承ください」

 カイトがそう釘をさすと、一部の代表者たちがこそこそと何かを話し始めた。

 他の者たちもそこまであからさまではないにしろ、お互いの顔を見合わせたりしている。

 

 その様子を見て、カイトは内心でやっぱりかとため息をついていた。

 先ほどの喧々諤々の話し合いの様子からも察することができていたが、それぞれの島の利益になりそうなものを押し付けられそうな雰囲気だったのだ。

 カイトが行っている交易はあくまでも商売なので、儲けが出る物を優先して買い取ることになる。

 その原則を忘れてもらっては困ると、敢えてこの場で釘を刺したのだ。

 

「勘違いしてもらっては困りますが、一応私は大地神の使徒というらしいですが、それ以前に商売人でもあります。利益が出なければ、そもそもこの島に来ることすらままならないのですから、それはご承知ください」

 改めてそう言い直したカイトに、代表者の一人が伺うように視線を向けながら聞いてきた。

「それは、我々を手足のように使って儲けるということですかな?」

「何故そこまで極端に考えるのですか。少なくとも前回の取引で、損をしたという所はなかったと思うのですが? ――買いたたかれたという事実はありましたか?」

 カイトがシモナに視線を向けてそう聞くと、向けられた当人は首を左右に振った。

「いいえ。そのような事実はありませんでした。むしろ、島での相場よりも高く買い取って貰えたと皆が喜んでおりました」

 前回、カイトたちが諸島を去った後に、メルテたちはきちんと調査を行っていた。

 

 ついでにいえば、代表者たちもそのことを知っていた。

 むしろ、そうであるからこそ今回は吹っ掛けてやろうかと考えていたのだ。

 その考えを見抜いたカイトが、それに対して釘を刺したという側面もある。

 もっとも、だからといってカイトは代表者たちにどうこう思うことはない。

 商売というのは、出来るだけ高く売りたいと考える側と出来るだけ安く買い取りたいと考える側の駆け引きだと分かっているのだ。

 今後のことを考えれば、フゥーシウ諸島に住んでいる人獣たちもきちんと駆け引きができるようにならないといけない。

 そうでなければ、もし諸島の全面開放を行った場合には、食い物にされるだけだろう。

 

 シモナの言葉を聞いて再び黙り込んだ代表者たちを見ながら、カイトはさらに続けて言った。

「商売というのは、欲しい者と売りたい者の意見があって初めて成り立つものです。それを考えずに、不平等だと言われても意味がありませんので、勘違いなさらないようにお願いします」

 例えば、○○の島では多くの品物が買われているのに、□□の島では全く買われていないという状況ができたとする。

 それは不公平だから□□の島でも何か買っていけ! ――と、そんなことを言われてもできないものはできないのだ。

 それでも強引に買い取れと言って来るのであれば、今後セプテン号で諸島に来ることはなくなるだろう。

 カイトはフォクレス島に転移ができるようになっているので、最悪の場合は絹糸と絹だけの取引をすればいいのだ。

 

 もし、フォクレス島の巫女たちに他の島の人獣たちが手を出すような事態になれば、間違いなくフア自身が動き出すだろうとカイトは確信している。

 フアにとって大事なのは絹の生産なので、そこに手を出されれば怒り出すだろう。

 折角まいた種を勝手に摘み取るような真似をすれば、神がどのような怒りを示すのか、カイトとしてはできれば知りたくはないところである。

 もし人獣たちに何らかの制裁を下すとなれば、下手をすればカイトが手を出すことになりかねないので、出来ればそれは避けたいと考えるのは当然だ。

 

 黙り込んでいる代表者たちを見てそんなことを考えていたカイトは、成り行きに任せて黙ることにした。

 ここでフアが云々という話をしても、むしろ反発を生む可能性がある。

 もっとも、信仰心を集めているフアを話題に出せば、一気に話が終息する可能性もあるが、それはそれで問題がある。

 できれば、神の意向で言うことを聞かせるのではなく、自らの考えできちんとした議論をしてほしいのだ。

 

 そんなカイトの意図が通じたのではないだろうが、代表者の一人が他の者たちを見回しながら言った。

「俺としては、カイト様が言っていることはまっとうのことだと思っているが、皆はどうだ?」

「――まあなあ。商売と考えれば、それが普通だよなあ……」

「――売れない商品を無理やり押し付けることを考えるよりは、売れる商品を考える方がましだろうて」

 次々とそんな意見が出てきて、なんとなくカイトの考えていた通りに話が進みそうな雰囲気になったところで、熊の人獣の一人が唸るような声を出しながら言った。

「――では、俺たちはどうなる? 売れる商品などない。これから新しく商品を作ろうにも、そもそも魔物の討伐に手が割かれてそっちにまで手が回らない。となれば、今のまま他が富めるところを黙って指をくわえて見ていろと?」

 怒りを我慢しているようなその熊の人獣の言い分に、他の代表者たちは再び黙り込んだ。

 

 多かれ少なかれ人獣というのは、基本的に手先が器用ではないということで知られている。

 そんな人獣たちが住んでいる諸島でも、売れる商品が作られているのは、その中でも手先が器用な種族がそうした商品を生み出しているからだ。

 そして、フゥーシウ諸島の中には、魔物を相手に戦闘を常に繰り広げているような地域も少なからず存在している。

 そうした島では、魔物の肉や素材を売って、周囲の島々から生産品を輸入することで生活を成り立たされているのだ。

 

 それを理解しているからこそ、他の代表者たちも答えをせずに無言になっていた。

 そんな空気を変える言葉を放ったのは、人獣たちの様子を見ていたカイトではなく、フゥーシウ諸島と大陸の両方を知っているメルテだった。

「そこまで悲観される必要はないかと思います」

「――何?」

「先ほどの話にも出ていましたが、今回の調査は商品だけではなく、魔物も対象になっています。調査次第になるのは確かですが、こちらでは見向きもされていない素材が売れる可能性もあります」

 むしろ戦闘の激しい、厳しいところのほうが、そうした希少な素材が取れている可能性が高いとメルテが続けると、代表者たちの期待するような視線がカイトに集まった。

 

 それらの視線を受けて何とか引きつりそうになる顔をこらえたカイトは、一度頷いてからメルテに続けて言った。

「今、メルテが言ったことは事実です。実際、冒険者のチームは、メルテと話をしたうえで、そうした地域を重点的に回ると決めていました」

 あくまでも結果次第ではあるが、戦闘を中心に生活をしている者たちにとっても交易品に出来る物が出て来る可能性はある。

 その言葉を聞いた熊の人獣は、腕を組みながら「……そうか」とだけ返してきた。

 

 結局どういったものが交易品になるのかは、蓋を開けてみなければ分からない。

 カイトがそう締めくくると、代表者たちはそれぞれ納得した様子で頷くのであった。

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