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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第3章
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(16)島の今後

 フォクレス島に着いたカイトたちは、主に四つのチームに分かれて行動し始めた。

 まず『探求の砦』の面々は、用意された人獣たちと一緒に各島で出て来る魔物の調査を行う。

 ただし、一応今回の滞在は長めに予定はしているが、その期間だけで全ての調査ができるわけではない。

 それを見込んだうえで、大まかに四つの地域にわけてそれぞれを調べ始めた。

 その四つの地域というのは、人獣たちが生活習慣や種族の違いで大まかに分けている地域のことである。

 四つの内の一つであるフォクレス島は、他の三つの地域に比べて狭い範囲なのだが、神宮があるので人獣たちの間でも特殊な地域として分けられている。

 それに加えて、そこまで強大な魔物が出て来るというわけでもなく、素材的にはさほど期待ができるわけでもない。

 バーツたちはそのことを事前にメルテから聞いて知っていたので、今回の調査は他の三つの地域を回ることにしている。

 

 残りの三つのチームのうち二つは、セプテン号としての交易品のやり取りと新たな品がないかの調査だ。

 正確には二つのチームがそれぞれの地域を回って交易品を買い取ったり新しい品物を探し回ったりするのだ。

 そして、残りの一つはカイトとガイル、メルテがいるチームで、主に諸島の主要人物たちとの話し合いを行う。

 カイトのチーム以外のチームには、案内人兼護衛役の巫女か聖闘士が付いている。

 案内はともかく護衛役が付いているのは、どちらかといえば島に訪れた際にそこに住んでいる人獣たちに余計な警戒心を抱かせないようにするためでもある。

 セプテン号の乗組員たちはともかく、『探求の砦』に聖闘士がつけられたのは、そちらの意味合いが強かったりする。

 

 これらのことは、事前にセプテン号の中でメルテを中心にして決めたことで、それをもとにシモナが了承をしてメンバーが決められたという流れになる。

 結果として、セプテン号が島についた翌日には、それぞれのチームに分かれて行動を開始したのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 それぞれのチームを見送ったカイトたちは、神宮の一部であるとある神社の一つにある部屋に来ていた。

 そこには、それぞれの地域の代表者にあたる人獣が集まっていた。

 代表の数が三人だけではないのは、それぞれの地域の代表が一人だけとは限らないからである。

 色々な種の人獣が集まっているのを見て、カイトは少しだけ感動していたりするのだが、勿論それを顔に表したりはしていない。

 そんなカイトを前にして、集まった代表たちは最初から喧々諤々の意見を交わしていた。

 ……カイトたちを置き去りにして。

 

 この場に集まっている者たちは、今後の島の未来をどうするのかという視点で集まっているのだが、その意見が全く統一されていないのだ。

 代表たちの意見をカイトなりにまとめてみると、大まかに現状維持、緩やかな変化を目指す、いきなり全面開放の三つになっていた。

 最初から統一された意見ではなく、この三つの意見があるということに、カイトはむしろ安心していた。

 それは、外敵が来た場合に一つになるのならともかくとして、ある程度の自由がある中で意見が分かれるのは当然だと考えているからだ。

 ましてや、長い間外界と隔てられて生活していた人獣たちが、自分たちの持っている価値観だけで判断すると意見が分かれて纏められないのは当たり前だろう。

 

 代表たちの意見をひとしきり聞いていたカイトは、ここらでいいだろうと判断して右手をスッと上げた。

 それに気付いた近くに座っている人獣から合図があり、すぐにその場は静まり返った。

「――皆様の意見は、大体聞いていて分かりました。ですが、まずいきなり結論をどうするかを決めるよりも、聞いてほしいことがあります」

「聞いてほしいこととは?」

「そもそも、皆さまの先祖がどうしてこの海域に来ることになったのかということです。――ああ。勘違いしないでください。別に私は、皆さまの戦闘能力が低かったからと言いたいわけではありません」

 自分の言葉を聞いて一部の者たちがいきり立ちそうな気配を感じて、カイトはそう付け加えた。

 

「そもそも、皆さまのご先祖様も個々の能力は高かったかと思います。ですが、結果としてこの島に来ることになった。その意味を今一度考えてほしいのです」

 カイトがそう言い切ると、皆が黙り込んでしまった。

 その隙を縫うように、カイトの隣に座っていたメルテが口を開いた。

「――代表の皆さま。今この島には、魔物の調査を行うということで、大陸で戦闘を主にしている者たちが来ています。魔物の調査をしている以上は、彼らが戦う場面も必ず出て来るはずです。それをもとに、改めて考えてみてはいかがでしょうか? もう一つ付け加えるとすれば、彼らは大陸でトップクラスというわけではありません」

 Bランクの冒険者であれば上位にいることは間違いないが、メルテが言ったようにトップクラスというわけではない。

 冒険者でトップクラスと判断されるのは、やはりAランク以上になってからということになる。

 メルテが敢えてそういう言い方をしたのは、Bランククラスの冒険者はAランクに比べてそれなりの数がいるので、その数で押されたらどうなるかと言いたかったのだ。

 

 メルテの言葉を受けて、カイトがさらに続けて言った。

「今この場で、私がどうしたらいいのかを言うのは止めておきます。私が結論めいたことを言ってしまえば、それなりに影響を与えそうですから」

 謙遜気味にそう言ったが、この場でカイトが結論を出してしまえば、間違いなくその通りに話が進んでしまうはずである。

 この場に集まっている者たちは、カイトが大地神フアの使徒であることを知っている。

 長い間フゥーシウ諸島を守ってきたフアへの人獣たちの信仰心は他と比べても突き抜けていて、何でも言うことを聞きそうな勢いなのだ。

 流石にカイトの個人的な意見だけでフゥーシウ諸島の未来を決めて良いはずがなく、しっかりと意見を出し合ったうえで決めてほしいと考えているのである。

 

 カイトとメルテの言葉を聞いた代表たちは、お互いに顔を見合わせるようにしていた。

 今の話を聞いて、すぐに結論を出すつもりはないと理解できたので、全体的に落ち着いた雰囲気にもなっていた。

 そして、その様子に気付いたシモナが、これまでの話をまとめるように言った。

「冒険者の皆さまは、これから何日かずつに分けて、それぞれの地域に行くということになっています。まずはその様子を見てからということで、よろしいですか?」

 シモナがそう確認を取ると、代表たちは思い思いに頷き始めた。

 

 その様子を見ていたカイトが、さらに付け加えるように言った。

「今回の滞在中に決めるような勢いで話をされていますが、そこまで慌てる必要もないです。何しろ諸島全体の未来を決めるようなことですから。充分に話し合ってから決めても遅くはないでしょう」

「カイト様は今後忙しくなるので、頻繁に島へは来れなくなると思いますが、ガイル様かまたは別の方を乗せた船が来ることは確定しております。その時にでも方針を決めてもよろしいのではありませんか?」

 カイトの言葉をフォローするようにメルテがそう付け加えると、初めの頃に代表たちの中にあった張り詰めたような空気はほとんどなくなっていた。

 そして、それを確認したカイトは、また別の話を切り出すのであった。

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