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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第3章
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(6)王との直接の対面

 王国の一部の者たちとの会食は、特に波乱の展開があるわけでもなく、ごく普通の会食という感じで終わることができた。

 参加者たちは色々と質問をしたりしていたが、カイトがそれに対して一般に噂の補完をするような回答をしたりして、普通にやり過ごしていた。

 カイトにとって一番隠しておきたいことは、契約しているコンが神であるということだけなので、あとは普通に話せるということも大きかったのだろう。

 そのことはカイト自身もよくわかっているので、貴族を相手にした会話に慣れたというわけではない。

 そもそも、貴族たちから聞かれていた問いは、前もって予想できていたものだけだったので、特に慌てることなく過ごせたということもある。

 それでも参加者たちにとっては、カイトとの直接会話ができたことは実りのある時間だったようで、それぞれが満足した様子で会食を終えた。

 

 そして、会食を終えたカイトたちは、ようやく王城から解放された――わけではなく、次の部屋でこの日一番の緊張を強いられていた。

 その最大の原因が、カイトの前で笑みを浮かべながら座っていた。

「なんだ。そなたでも緊張することがあるのか?」

「……勿論ですよ、ファビオ王」

 悪戯っぽい笑みを浮かべて聞いてきたファビオに、カイトは若干引きつった顔になりながらなんとか答えた。

 ちなみに、ファビオの両隣には、王妃とヨーク公爵が座っている。

 

 カイトがこれほどまでに緊張しているのは、国王と少数の人数で対面することになるとは全く聞いていなかったためだ。

 いくらカイトと言えども、いきなり一国の王が目の前に来れば緊張しないわけがない。

 さらに、会食では姿を見せていなかった公爵が、会心の笑みを浮かべていることもカイトの緊張に拍車をかけている。

 どうみても何かを企んでいます(した?)という顔なので、これから先なにがあるのかという警戒も強くなっている。

 

 そんなカイトの心情を見抜いているのかいないのか、公爵が笑いながら言った。

「そこまで警戒することはないだろう。私がやったのは、この場を整えることだけだ」

 飄々とした表情でそんなことを言ってきた公爵に、カイトはジト目を向けることしかできなかった。

 流石のカイトも王を前にして公爵を相手に、いつもの調子で突っ込みを入れることはできない。

「うむ。考えていた通りに、中々に仲がよさそうだな。他の者たちが知れば、色々と邪推がはかどりそうだ」

 島の権利の譲渡でカイトが出してきた条件を考えれば、王が言っている通りに他の貴族が攻(口?)撃をしてくる要因になり得るだろう。

 もっとも、公爵がそんな隙を見せるはずもないだろうし、見ている限り王もそのことで突いてくることはなさそうだった。

 

 王が口外することが気がないということは、何となくその表情を見ていればわかる。

 王とは初対面のカイトだが、それくらいのことは公爵の態度を見れば察することができる。

 そして、黙ったまま次の言葉を待つカイトに、ファビオが少し真面目な表情に戻って言った。

「わざわざそなたにこうして会いに来たのは、一つ確認したいことがあったからだ」

「確認したいこと、ですか。それは、なんでしょうか?」

 そうでなければわざわざ個人的に会おうとするはずもないと分かっていたカイトは、特に驚くこともなく平時のまま聞き返した。

 

「うむ。では、早速……と言いたいところだが、実はそれを行うのは私ではなくてな」

 ファビオがそんなことを言い出すと、カイトたちは勿論のこと、話を聞いていた王妃と公爵が怪訝そうな表情になった。

「……どういうことでしょう?」

「疑問に思うのは当然のことだな。少し待ってもらえるか?」

 ファビオがそう言うと、近くにいた近衛と侍女たちに目配せをした。

 その合図が、彼らがこの場から下がるための指示だとカイトが分かったのは、驚いたような表情になりながら実際に去って行ったからである。

 

 カイトたちのような平民と同室になっている国王が、護衛を傍から離すなんてことはあり得ない。

 それでもそうするということは、逆にいえば護衛や侍女たちに知られたくない何かをするということになる。

 だからこそそれを為した王以外のほとんど者が、驚いた様子になっているのだ。

 そして、王自身もその効果を分かった上で、敢えて関係者以外の全員をこの場から下がらせたのだ。

 

 カイトたちが驚いている中で、ファビオは無言のまま懐から何かを取り出した。

 それはファビオの手の中にあるため、どんな形をしているかまでは見極められなかったのだが、どんな効果がある物かはすぐに分かった。

 何故なら、ファビオがそれを握って一分もせずに、カイトたちがいる部屋の窓から一羽の鷲が現れたからである。

 それを見るなり、勢いよく王妃と公爵、それにメルテが立ち上がって頭を下げたため、その鷲がどんな存在であるかはカイトにもすぐにわかった。

 王妃や公爵と違ってすぐに反応できなかったのは、驚きが強くて動くことができなかったためである。

 

 気持ちが落ち着いて来てようやく立ち上がろうとしたカイトだったが、その前に鷲――ロイス王国の守護神が話しかけてきた。

『大地神様の使徒であるあなたに、そこまでしていただく必要はありません』

 そう先に言われてしまったカイトは、どう答えていいのか分からずに一瞬まごついてしまった。

 そのカイトを見かねたのか、もともとそうするつもりだったのかは分からないが、その言葉に反応したのはそれまでほとんど注目を集めていなかったフアだった。

『それは同意するがの。少し驚かせすぎではないかの?』

『おや。それをあなた様が仰るとは思いませんでした。使徒様とそちらの巫女以外が、驚いているようですが?』

 守護神のその言葉通りに、それまで普通の狐のようにしていたフアが、いきなり話し出したことにカイトとメルテを除く皆が驚いていた。

 ちなみに、公爵はフアが神の一柱であることは知っていたが、大地神であることまで知らなかったのでその驚きも加わっている。

 

 一国の王城とはいえ、二柱の神が会話をしだしたという異常事態に皆がついていけなくなっている中、カイトが最初に気持ちを取り戻した。

「えーと、フア? こっちでは話ができないんじゃなかったか?」

『なんだ。この事態に一番に聞くのがその質問かの?』

 若干呆れたように言ってきたのはフアで、残りに者たちは心のなかで『そうじゃないだろう!』と突っ込み、守護神は何故か笑いだしていた。

『なるほど。流石は大地神様の使徒ということでしょうか』

『そう揶揄ってやるな。だがまあ、確かにそれもカイトを気にいっている理由の一つではあるがの』

 二神の笑いを含むような口調にカイトがやらかしたという表情になるが、周囲の反応を見れば時すでに遅しということがわかる。

 

『それからカイト。先に言っておくが、今この場で話が出来ているのは、こ奴がそういう場を整えておったからだからの。勘違いしないようにの』

「あー、なるほど。そういうことか」

 王国の守護神をやっているのであれば、そういうこともできるようになるのかと納得したカイトは、そう言いながら頷いた。

 これまで全くそのそぶりを見せていなかったので、フアがいつから話せるようになったのかはわからない。

 それでも、突然の守護神の登場に動揺を隠せなかったカイトのために、わざわざ話をしてくれたフアには感謝しかない。

 二柱の神を前にして、やはりそんな多少ずれたことを考えるカイトなのであった。

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