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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第1章
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(10)精霊機関と二つ目のクエスト

 カイトの人格の変化についての話をした後は、その他の細々とした船の運航・運用方法について確認をした。

 基本的に操船は天使たちがやってくれるとはいえ、カイトが知らないといけないことはたくさんある。

 それに、カイトが知っている以前の世界の帆船とは違うところもたくさんある。

 その中でも最たるものは、精霊機関という動力が備わっているということだ。

 

「精霊機関って、なに?」

 初めて聞く単語にカイトが驚きつつアイリスに聞いた。

「こちらには内燃機関がありませんので、その代わりに当たるものです。デンキの力を使えるわけではありませんが、代わりに魔力によって魔道具が使えるようになっています」

「……ってことは、もしかして無風でも動けるとか?」

「可能です。その分多くの力を必要としますが」

 精霊機関を動かすためのエネルギーは、天使たちが補っている。

 その天使たちはカイト以外の指示を聞くことはないので、こちらの意味でもこの船がカイト専用ということができる。

 もっとも、「船を動かす」ということに限って言えば、帆を張って風の力だけで動かすことができるので、精霊機関に頼る必要はないのだが。

 

 

 そして、精霊機関について一通りの説明を聞いたカイトたちは、とある部屋に来ていた。

「こちらが船長室になります」

「おー、随分と広い……って、何、あれ!?」

 カイトは、部屋の一角にある机の上に置かれた見慣れた、けれどこちらの世界では見たことのないある物に驚いた。

 特徴的なフォルムをしたそれは、どこからどう見てもモニターとその傍に置かれているマウスとキーボードに見えた。

 さらによくよく見れば、机の陰に隠れるように四角い箱の形をした何かも置かれている。

 

 どこからどう見ても転生前に使っていたパソコンにしか見えないそれに、カイトは確認するような視線をアイリスに向けた。

「パソコンにしか見えないんだけれど、あれは?」

「ご想像通りにパソコン……のようなものです。ご期待のソフトも入っております」

「はー、何から何まで至れり尽くせりだな」

「それだけあのお方も期待されているということでしょう」

 多少引き気味になっているカイトに、アイリスは平常通りといった様子で頷いていた。

 

 二人とも敢えて言葉にしていないのだが、アイリスが言ったソフトというのは、いわゆる船を一から設計することができるものだ。

 転生する前、船乗りとして現役を引退してからも船の設計を趣味ライフワークとしていた海人カイトは、そのソフトを駆使していろんな船を作り出していた。

 そのソフトの優れたところは、あの世界では豪華客船や輸送船さらには帆船までと、あらゆる船の設計ができたところにある。

 さらに、環境のことまで加味して設計ができたので、海人が愛用していたのである。

 ちなみにそのソフトは、もとは業務用に開発されたものを一般売りにできるまで落とし込みをして売り出し、さらにマニアック向けに高度に開発したソフトである。

 そのため新卒の一月分の給料では全然足りないくらいの値段になっているが、普通に船を開発できるくらいのレベルになっていた。

 

 カイトが転生した世界では、精霊や魔法の存在があるため以前のままでは使えないところもあるが、その辺はきちんと調整してあるとのことだった。

 アイリスからそう話を聞いたカイトは、すぐにそのパソコンを起動してソフトが入っていることを確認した。

「これはありがたいな。お陰で設計がはかどる……うん?」

 以前使っていたソフトと似通っていた作りに感動していたカイトは、モニターのデスクトップに「!」がど真ん中に表示されているアイコンを見つけた。

 更に、その名前が「クエスト」となっていることに気が付いたカイトは、そのアイコンを指しながらアイリスを見た。

「このアイコンは?」

「その名前の通りです。魂使いとしてのコンからの依頼(クエスト)をこちらからでも確認することができます」

「はー、なるほどね」

 クエストはプロンプターのようなところからでも確認できるので、わざわざパソコン上に用意しておく必要があるのかは疑問だが、あればあったで便利であることには間違いない。

 何よりも、見慣れないプロンプター画面よりも、パソコンのモニターから確認できるほうが使いやすいという利点もある。

 もっとも、プロンプター画面も慣れてしまえばいいだけの話なのだが。

 

 

 マウスを使って画面内のカーソルを動かしたカイトは、そのままアイコンを開くようにクリックをした。

 すると、予想に違わず、プロンプター画面の時と同じようにクエストの内容が確認できた。

「あれ? 新しいクエストが増えているな」

 先ほどは《船乗りになろう》しかなかったのだが、今はその下に《鍵をゲットして、船長室の扉を開こう》というクエストが増えている。

 さらに、ご丁寧にも前者のクエストの右側には『達成済』と書かれていた。

 

 新しいクエストが増えていることに気が付いたカイトは、様子を見ていたアイリスを見た。

 するとアイリスは、首を左右に振りながら答えた。

「残念ながら私はクエストに関しては、何も存じません。あくまでも船に関することしか……」

「そうか。それなら仕方ないか」

 アイリスの担当はあくまでも船のことだけで、それ以外は何も知らないということらしい。

 アイリスが嘘をついている可能性もあるのだが、すぐにカイトはそれを否定した。

 アイリスは、会ったときから船に関することだけにしか力が及ばないと言っていた。

 となれば、クエストがアイリスの力の及ばない範囲だとしても、何の不思議もない。

 

 改めて画面に向き直ったカイトは、クエストの二つ目にある《鍵をゲットして、船長室の扉を開こう》をクリックして詳細を開いた。

「あれ。随分と単純だな」

「そうですね」

 思わず拍子抜けしたように言ったカイトに、隣で同じように内容を確認していたアイリスが頷きながらそう答えた。

 そのクエストの詳細は、タイトルそのままに鍵を使って船長室に扉を開けて中に入ると書いてあったのだ。

 

 二つ目のクエストの中身は、タイトルの通りにクエスト画面から鍵を受け取って、今いる船長室のカギがかかった扉を開くという内容だった。

 確かに船長室には、先ほど入ってきた時に使った扉とは別の扉が付いている。

「アイリスは、あの扉の先に何があるかわかっている?」

「いいえ。残念ながら。ただ、他の部屋の配置などを考えると、さほど広くはないと思います」

「ふーん。随分と思わせぶりだけれど、何なんだろうかね?」

 カイトが不思議に思いつつそう言うと、アイリスも分からないと言いたげに首を振った。

 

 ここで、アイリスとそんなやり取りをしていたカイトが軽く頭に衝撃を感じて、その原因を軽くにらみつける。

「あたっ!? なんだよ、突然」

 そう抗議の声を上げたカイトの視線の先には、それまで黙って話を聞いていたはずのフアがいた。

 そのフアは、カイトの視線もどこ吹く風で、何やらモニターをペシペシとしだした。

「あー。もしかしなくても、次のクエストはフアに関係することか?」

 カイトがそう問いかけると、フアはその通りだと言わんばかりに一度だけ頭を上下させた。

 

 それを見ていたカイトは、フアがクエストを早くクリアするように急かしているのだと理解して、一度だけため息をついてから画面内のとある個所をクリックした。

 すると、パソコン一式の傍にあった上部が空いた箱のようなものが、突然光を発した。

「うわっ!?」

 それに驚いたカイトは思わず目をつぶってしまったが、光ったのが一瞬だけだと分かってすぐに目を開ける。

 そして、そのまま光った箱の中身を確認してみると、そこには確かに鍵らしきものが入っているのが見てとれた。

「なるほど。クエスト関係のアイテムは、こうやって受け取ればいいのかな?」

 カイトがそう確認を取ると、フアはコクリと大きく頷いた。

「もしかすると、クエストでアイテムを要求された場合は、こちらに入れればいいのかもしれませんね」

「そうか。そういう使い方もできるか」

 アイリスの言葉に、カイトは納得した表情で頷くのであった。

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