違和感
インターネットであらゆる症状を見ていた。この気味の悪い病気は何なのか、徹底的に調べても似た症状は出てこなかった。
右膝に触りたくも見たくもないから布を巻いていた。
「助けて、助けて、誰か助けて。」
泣きながら夢である事を祈ったが、何度見てもその異常な右膝は現実だった。
「何を見ても答えはないよ、これは君だけに起きてるんだ。」
傷口がまた喋り出した。
「辞めて!黙ってて!黙っててよ気持ち悪い!」
パニックを起こしながら自分の担当外科医に連絡を取る事にした。
自宅で画面を通して話が出来るので、触診や細胞の摂取は出来ないが、何か似た症状の病気があるかも知れない。
「無駄だよ、君にはもう分かってるはずだ。診察に行けたとして、私を体に付けたまま外出ができるかい?」
静香は言葉に詰まってしまった。
元々外出をあまりしないのに
この不気味な物を人に晒すのはありえない。
「不思議だと思わないかい?」
声は先を続けた。
「なぜ近所に行くにも洋服を決められなきゃいけないんだろうね、感情だって喜怒哀楽を自由に表せない。薬やサプリメントまで使って感情を抑制する事が良しとされている世の中なんて、つまらないじゃないか。」
「辞めて!それは考えたらいけない事なのよ、私達は法に則って暮らしてるの、正しいも間違いもなくてそうしなきゃいけないのよ。」
「本当にそうかい?」
声は尚も続けていく。
「女は痩せてなきゃ愛されないとでも言いたげな広告、年齢がある程度行ったら結婚出来ないというプレッシャー、男は高学歴を暗に求められる。我々は針の穴に通るような条件が揃わないと生きていけないんじゃないのだろうか。」
静香はまた言葉を失った。
それは静香も辛いと思っていた事なのだ。
「知ってるかい?我々の世界は自殺率が高くなっているという裏の事実を。」
「え…。」
「政府は発表してないけどね、正しい正しいという感覚に殺された人達はたくさん居るんだよ。君だって夢見が悪かっただけで薬を飲んでしまう。そうやっていつの間にか薬に溺れてしまうとも限らないじゃないか。」
「辞めて…辞めて…怖い…」
「本当に怖いのはこの世界だよ、君も薄々分かっていただろう?だから私が現れたのさ。」
「辞めて!」
静香は膝に布をきつく巻くと耳を塞いだ。
誰かと話をしなければおかしくなってしまう。
静香は結菜に助けを求めた。