顔
翌日、静香は集中出来ないでいた。
どんなにキーをタップしても思い通りの文章が書けず、映画でも見ようかと思ったが、ストーリーに集中出来ずに冒頭ですぐに消してしまう。小説を読んでも同じことだった。
それに加えて膝が痛い、医師から処方された鎮痛剤はだんだんと効果が薄くなっているのか、あまり効かなくなっていた。
「もう、イライラする。」
血液検査をしてみるとだいぶマイナスに下がっている。もう少しで危険レベルに達してしまうほどだ。
眠ってしまおう、そう思った。
どんな体調不良も眠ってしまえばスッキリするはずだ。静香はベッドへ潜り込んだ。
起き上がってスタンドを付けようとした。
何度スイッチを押してもスタンドが付かない。そこで自分が夢の中に居るんだと分かった。
周りは暗くてどこか不気味さが漂っている。
「嫌だ、早く目覚めなきゃ。」
無理に瞬きをして目覚めようとしたが、効果が無いと分かって諦めた。
「君も今の世の中に不便さを感じているんだろ?」
どこからともなく声がした。
何ともガラガラとした不気味な声で不快さが増して嫌な気分が上がった。
「誰?」
訪ねてみたが声は話の先を続けた。
「ずっと馴染めなさを感じていたはずだよ。感情は抑制され、薬まで服用しなきゃいけない、この世の中がどこかおかしいのは分かっていたはずだ。」
それは静香が普段感じていながらも、考えないようにしてきた気持ちだった。
「誰なの?何が言いたいの?」
「目が覚めたら分かるはずだよ、君がもう逃げられない事を。」
目が覚めた。
気持ち悪い夢だった、多分今血液検査をしたら数値が悪いだろう。
「今日調子悪かったからかしら…薬飲まなきゃ…」
また右膝がズキッと傷んだ。
「もう何よ次から次へと。」
膝を見ようとズボンを上げて
静香は悲鳴をあげた。
赤黒くなっていた所が盛り上がってぱっくりと割れている、まるで切り傷みたいだ。
切り傷の上には2つの黒い点があり
よく見ると顔があるみたいだ。
「何よこれ!気持ち悪い!」
自分の体の一部である事が信じられなかった。
その時
「君は私から逃げられないんだよ。」
傷口から声がした、あの夢で出てきた声だった。
「きゃあああーーーーーー!!!」