第七話 春の陽溜まりの中で
「はあ〜、キレイだね、姉さん」
「うん、満開だね」
僕と姉さんは平日の休校日に、二人で近くの小高い山にやって来た。
二人で山にある、満開の桜を見て声を上げる。
この山は、道沿いに桜が植えられていて。
この季節は、桜を眺めながら歩くことが出来るのだ。
そして今、二人は山の上り口に立っている。
桜があるのは道沿いだけなので、当然、ウルサイ花見客などは無く。
また午前中の、この時間帯は人が居ないらしく、誰も見かけない。
「ねっ、来て良かったでしょ〜」
「そうだね」
ここに来たのは、姉さんに誘われてからで。
“せっかく晴れて、桜も満開なのに”と、言う事である。
「じゃあ、行こうか」
「うん♡」
僕がそう言うと、姉さんが機嫌よく返事をする。
こうして二人は、山を登り始めた。
・・・
「・・・はあ、キレイ・・・」
道を歩きながら、桜を眺めていると。
満開の桜の間から溢れる、日差しを浴びて。
姉さんがそう呟く。
この山は高さが20m位で、山と言うには少々低い。
その山を、螺旋状に登る様に、歩道が整備されているので。
少し急な、坂道を登る様な感じで歩ける。
「(ギュッ)」
二人並んで歩いていたら。
急に姉さんが、僕の左腕に抱き付いた。
「ねえ、良いでしょ・・・」
姉さんの方を見ると。
姉さんが、上目遣いで甘えるように、そう言う。
姉さんと二人っきりの時は、こうして腕を組んだり。
抱き付いて来たりしている。
特に僕達は、義理の姉弟なので。
極力、人前で、そう言った事を避けるようにはしているけど。
それでも、ついついやってしまう時がある。
「(コクリ)」
「うふふふっ♡」
僕が頷くと、姉さんが嬉しそうに微笑んだ。
・・・
「は〜あ〜・・・」
山の頂上に着くと、姉さんが周囲を見渡し歓声を上げた。
山の頂上は見晴らしが良いが。
今日は、絶好の快晴で、特に景色が良かった。
「ねえ、姉さん、あそこのベンチで休まない?
「うん、良いよ」
しばらく歩いてたので、チョット休憩の為。
僕は、見晴らしの良いベンチを指差した。
・・・
「〜♪」
ご機嫌な様子でベンチに座り、風景を眺めている姉さん。
一緒に座っている内に、何だか眠くなってきた。
今日は快晴な上に、風も無く、とてもポカポカして温かい。
そんな状況な上。
昨日の夜、少しばかり夜ふかしをしてしまったので。
余計に眠くなってくる。
その内、瞼も重くなり。
だんだん意識も薄らいで行った。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・
*********
「(コテッ)」
「ん?」
「すー・・・、すー・・・」
突然、右肩に重さを感じたと思い、隣を見ると。
ケンちゃんが眠り込んでしまったみたいで、私に寄り掛かっていた。
確かに昼近くになり、程よく温まった空気でとても気持ち良いもの。
眠ってしまうのも分かる。
「(クスクスクス)」
そんなケンちゃんを見て、内心笑っていたら。
「(ゴロン)」
「あっ」
「(ギュッ)」
今度は前のめりで、私に覆い被さるように倒れた。
慌てて、ケンちゃんを受け止める。
そうすると、ちょうど胸でケンちゃんの頭を抱いた形になった。
「(もう、こんなに大きくなったんだね)」
久しぶりに抱いたケンちゃんの頭は、とても大きかった。
昔は、甘えてくるケンちゃんの頭を抱いていた事もあったが。
もう、あの頃とは全然違う。
そして私の、ケンちゃんに対する思いも、あの頃とは全然違う。
あの頃の頃のケンちゃんは、とてもとても可愛い弟と言う思いだったけど。
いつの間にか、一人の男の子として見てる自分が居た。
広い胸、大きな背中を見ると、体の奥が熱くなったり。
ふんわりした微笑みを見ている内に、胸が高鳴った事もある。
ハッキリ言って、私はケンちゃんに欲情していた。
恐らくケンちゃんも、同じ気持ちを持っているだろうから。
彼が望めば、私は最後まで許してしまうだろう。
でもそうすれば、せっかくの家庭が壊れ、だれも幸せになれないし。
ケンちゃんとの関係が、どう変わるの?と言う疑問もある。
ただHをするだけで、そんなに変わらない気がする。
「ケンちゃん、愛してるよ」
「(ギュッ)」
”今だけは良いよね”
そんな事を思いながら。
私はそう呟いて、寝ているケンちゃんの頭を抱き締めた。
・・・
足元に、満開の桜の花が見える山で。
私は陽溜まりの中、秘めた思いと矛盾を考えつつ。
ケンちゃんの頭を抱き締めながら、遠くの風景を眺め続けていたのである。