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第六話 電車の中で



 「ねえケンちゃん、はや〜く〜」


 「うん、今行くよ」



 それは暖かさにはまだ程遠い、早春の朝の事。


 いつもの様に、私とケンちゃんは一緒に家を出た。


 私達は、一緒の高校に通い。

通学も当然、いつも一緒である。




 「ほらっ、時間が無いよぉ〜」


 「急ぐから待って〜」




 厳寒の峠は、とっくに過ぎたとは言え、まだまだ空気は冷たく。

コートまでは必要ないとは言え、マフラーと手袋、ストッキングは欠かせない。




 「はやく、はやく〜」


 「ちょっと、待って・・・」




 寝坊をしたケンちゃんが、制服を着ながら、慌てて私の後を追う。


 ちなみに、ウチの学校の制服はブレザーである。


 まだ冷たい空気の中。

寒さに震える余裕の無いまま、私達は急いでバス停へと駆けていった。




 ********




 「はあ〜、何とか間に合ったね〜」


 「う〜っ、疲れた〜」



 

 何とか間に合ったことに、私は安堵(あんど)し。

一方のケンちゃんは、疲れたような表情になった。


 その後、急いでバス停に着いたところで、ちょうどバスがやって来た。


 私達は急いでバスに乗り込み、バスが駅に着いた後。

電車に乗ってから、何とか一息付くことが出来た。


 乗ったバスが、ギリギリの便だったので、(あせ)っていたのだ。




 「(ガタンゴトン・・・)」


 「・・・今日は、妙に人が多くない?」


 「ほんとだね」




 ケンちゃんがそう言い、私もそれに同意する。


 私達は学校までは、バスから電車に乗り換えての通学である。


 確かに、この時間帯の電車なら多いんだけど。

今日は、いつもよりカナリ多かった。


 後から分かった事だが、ある路線で電車が止まり。

そこを迂回した人の為に、この日は特に多かった。




 「(ガクンッ!)」


 「きゃっ!」


 「(ギュッ)」




 とりあえず何に捕まろうとしたら、いきなり電車が大きく揺れる。


 その拍子に、後ろから押されてしまい。

私は思わず倒れそうになったが、ケンちゃんが受け止めてくれた。


 私達は、車両後部ドアすぐの、連結部の角に居て。

ケンちゃんは壁を背にした状態で、私を受け止めてくれ。

反射的に、私もケンちゃんに抱き付いていた。


 入ってきた時は、乗客が奥へと詰めて(ゆず)ってくれたが。

列車が発車して、その乗客がまた元に戻った上。


 カナリの数の乗客だった為。

少しの振動でも、いつも以上の圧力が(おそ)ってくる。


 カバンは、何とか壁側の床に置けたけど。

周りに掴まりそうな物がないので、私はそのままの状態になるしかなかった。




 「姉さん、ちょっとゴメン」


 「うっ! んっ!」




 ケンちゃんが、私を抱いたまま体を回転させるが、半回転しか出来ず。

私は周りからの圧力に、自然と苦しい声が出てしまう。




 「んっ・・・!」




 それを見たケンちゃんが。

私を角の方に入れてから、包むようにして腕を壁に着き、(かば)ってくれる。




 「・・・姉さん、・・・大丈夫?」


 「私は良いだけど、ケンちゃんの方は大丈夫なの?」


 「大丈夫だよ」




 見てて苦しそうだけど、そんな素振りも見せないで。

ケンちゃんがいつもの様に、私にそう言ってくれる。


 あの、ふんわりとした微笑みを見せながら。




 ・・・




 「くっ・・・」




 あれからケンちゃんは、私を庇い続けている。


 電車が揺れるたび、少し苦しそうになっていた。




 「ケンちゃん、大丈夫?」


 「うん、大丈夫だよ」


 「・・・」




 心配になって、もう一度そう言ったが。

ケンちゃんは、相変わらず微笑みながら返事を返してくれる。


 しかし、見ていても無理をしているのが分かる。


 それでも、私が苦しくないように庇ってくれていた。


 小さい頃は、あんなに甘えていたケンちゃんが。

こんなに、(たくま)しくなっているんだ・・・。


 私はその事に感動する。




 「・・・ケンちゃん、ありがとう」




 この状況では、何も出来ないけど。

私を庇ってくれるケンちゃんに、少しでも感謝の気持ちを伝えたくて。

そう言って私は、ケンちゃんの広い胸に密着した。




 「・・・大好きだよ、ケンちゃん・・・」




 私は、ケンちゃんに寄り添ったまま、そう(つぶや)く。




 ・・・




 そして私は、この状態のまま。

目的の駅まで、ケンちゃんに庇われていたのだった。


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この作品同様、姉弟のイチャイチャした作品です。
手をつなぎながら
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