第四話 白い日のお返し
それから一ヵ月が経過した、3月14日のホワイトデー。
その日、僕は自分の部屋で準備をする。
「さ〜て、準備はいいな」
僕は、前もって買っておいたクッキーを用意した。
今日は、あの時の"お返し"をしないとなあ・・・
・・・
「(コンコンコン)」
「姉さん、入って良い〜」
「良いよ〜」
姉さんのお許しが出たので、姉さんの部屋へと入る。
「どうしたの? ケンちゃん」
姉さんは、コタツに入り本を見ていた。
見ていた本をコタツに置き、僕の方を向く。
「ジャ〜ン」
「わあ〜。
そっか、今日はホワイトデーだったね」
擬音を口にしながら、後ろ手で隠していたクッキーを出すと。
姉さんが、そう言って喜ぶ。
「ねえ、早くちょうだい」
「あっ、ちょっと待って」
「?」
両手を出して、クッキーをもらおうとする姉さんを待たせ。
僕は、コタツに座っている姉さんの背後に行き。
それから、自分の脚の間に姉さんを入れる形で、コタツに入る。
「(ガサガサガサ・・・)」
「えっ、ちょっとダメだよ〜」
「(ガシッ!)」
それ自体は、時々やっている事だから、不審には思われてなかったが。
しかし、持っていたクッキーの包を開けようとした途端、僕の意図を理解したみたいで。
慌てて逃げようとする姉さんを、僕はガッシリ抱いて逃さなかった。
「ダメだよ〜、ケンちゃん〜」
「ダ〜メ、バレンタインの時の"お返し"をしないとね」
嫌がる姉さんに、ちょっと意地悪な笑みを見せてそう言う。
「はい、あ〜ん〜」
「・・・」
「はい、あ〜ん〜」
「・・・あ〜ん」
クッキーを取り出し、姉さんに”あ〜ん”をする。
初めの方は嫌がっていた姉さんも、その内、渋々ながらも口を開けた。
「おいしい?」
「(コクン)」
「良かった」
恥ずかしそうに頷く姉さんに、僕は一種の達成感を覚えた。
・・・
「(なでなで・・・)」
いくつか食べさせた後、流石に可哀想になった僕は。
その時点で食べさせるの止め、後はマッタリとしていた。
姉さんは体を預ける様に、僕に寄り掛かる。
僕は、そんな姉さんの髪を撫でていた。
「(コチョ、コチョ、コチョ)」
「・・・ケンちゃん、私、猫じゃないよぉ・・・」
撫でている内に、何となく姉さんが、喉を鳴らす猫に見えた僕は。
次に、姉さんの顎の下を、指先でくすぐってみる。
「猫だよ、気まぐれで、甘えたい時に甘えてきて」
「・・・もお・・・」
ウットリした声の姉さんに、僕はそう言う。
文句は言うが、この状況が満更でもないようだ。
こうして僕は姉さんを、まるで猫を可愛がる様に。
頭はもちろん、喉の下や、耳の裏を撫でて愛でていたのであった。
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今、ケンちゃんが私の顎をくすぐっている。
「(コチョ、コチョ、コチョ)」
さっきは、ケンちゃんから”あ〜ん”されたけど。
・・・まさか、ケンちゃんが。
こんな形で仕返ししてくるなんて、夢にも思わんかった。
しかし恥ずかしかったけど、同時に、とても嬉しかった。
流石に途中で、ギブアップはしたけど・・・。
「(コチョ、コチョ、コチョ)」
ケンちゃんの指は、まだ動いている。
・・・私、猫じゃないのに。
くすぐたいのと共に、ゾクゾクする様な感触もしているが。
決して不快ではない。
不快ではないけど。
その感触を受けている内に、何だか体の奥が少しばかりムズムズしてきた。
「(カリ、カリ、カリ)」
「・・・んっ」
顎の下にあった指が、今度は耳の裏を軽く掻き出すけど。
ゾクゾクする様な感触は変わらない。
そんな、少しHな感触を感じながら。
私は、猫の様に扱われていたのだった。