第三話 チョコの日
それは、バレンタインデーでの事であった。
「(コンコンコン)」
「いいよ〜」
僕は、自分の部屋で、ベッドに座って本を見ていた所。
ノックがされたので、返事をした。
「(ガチャっ)」
「どうしたの? 姉さん」
「ケンちゃん、今日はバレンタインデーだよね〜。
はいっ、どうぞ〜」
入ってきて姉さんは、そう言いながら僕に包に入ったチョコを見せた。
「あっ、ありがとう」
「ちょっと待って、ケンちゃん」
「?」
僕が受け取ろうとするけど、姉さんが待つように言う。
「ねえ、今日は、他に誰からもらった?」
「ん? まさか〜、誰からももらわなかったよ」
当然の如く、そう答えると。今度は安心した様な表情になる。
今日どころか。
毎年もらうのは、姉さんだけであるの知っているはずなのに・・・。
そんな姉さんを、僕が不審に思っていると。
姉さんがイキナリ僕の右隣に座り、持っていたチョコの包を開ける。
それから、チョコを一つまみ取りだし、僕の目の前に出した。
「はい、あ〜ん〜」
そう言って姉さんが、僕の口先にチョコを突き付ける。
しかも逃げられないよう、僕の右腕に抱き付きながら。
「あ〜ん〜」
逃げられないと観念した僕は、しかたなく口を開く。
「(パクっ)」
「うふふっ」
僕が素直に食べたことに、姉さんが満足するように笑った。
・・・
「もお、いいでしょぉ〜」
「だ〜めっ、まだ残っているから♡」
あれから、何個もチョコを食べさせられたが。
それでも、姉さんは満足してないらしい。
「あれっ、口の横にチョコが付いてるよ」
「(ペロッ)」
「良かった、このチョコ美味しいね」
「(チロっ)」
僕の頬に、チョコのかけらが付いているの見つけた姉さんが。
舐めて取った後、恥ずかしそうに言いながら、舌をチロリと出す。
姉さんの舌の感触に、僕の頬は熱を帯びだした。
*****
「ん? まさか〜、誰からももらわなかったよ」
ケンちゃんのその言葉を聞いて、私は安心した。
ケンちゃんは、自分が女の子から意外と人気があるのを知らない。
確かに、相手が大抵の場合、大人しくて控えめな娘ばかりだから。
ニブチンのケンちゃんは、気付かないだろう。
元々から、身内びいきを差し引いても。
ケンちゃんは、結構イケている方だと思う。
ただ優しく、穏やかな性格のせいで、余り目立たないだけで。
しかし、男の子が怖い娘達にとっては。
逆にそれが、恐怖心を持たず、安心出来る様である。
・・・私もそうだから良く分かるし。
特に私と同学年の娘には、年下という事もあり。
私と同じく、”優しい大型犬のみたい”との声もあって。
理想の弟として、結構、人気がある。
だから、一緒にいる時とかでも。
遠くの角から、ケンちゃんへの視線を感じる事が、時々あった。
でも大人しい娘ばかりだから、遠くから見る事しか出来ないみたい。
もっともそれは、ケンちゃんが重度のシスコンとしても有名だから。
それもあるかもしれないけど。
ケンちゃんの呑気な答えに、安心すると共に。
“こんなにヤキモキしていたのに〜”と言う、感情も起きていた。
「はい、あ〜ん〜」
気が付くと、私はケンちゃんの隣に座り。
包を開け、チョコを一つまみ取り出して、ケンちゃんの口元に突き出していた。
心の中で、”こんな事ができるのは私だけ”と言う。
特別な存在だと言うのを、示したかったのかもしれない。
・・・
「あれっ、口の横にチョコが付いてるよ」
ケンちゃんにチョコを食べさせ続けていたら。
ホッペタに、チョコがくっついているのを見つけた。
「(ペロッ)」
「良かった、このチョコ美味しいね」
「(チロっ)」
それを見てマーキングするかの如く、私はワザとそのチョコを舐め。
“ケンちゃんは私の物”だという事を、アピールするが。
舐めた後、何となく照れくささを感じたので。
それを誤魔化すかの様に、舌をチロリと出した。
舐めた後、ケンちゃんの顔が真っ赤になるのを見て。
私の顔は、思わず緩んでしまうのであった。