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第二話 初めて出会った日(姉篇)



 「(優しい人なら良いんだけど・・・)」




 前々から、お母さんに再婚するかもれないと聞いていた。


 母は、私が小さい頃に離婚してから、色々と苦労していたので。

その事については、とても安心している。


 ただ、相手の人が良い人ならとは、思っているが。


 その日は、その再婚相手に会うために。

私はおめかしして、母に連れられ知らないホテルにやって来た。


 その頃の私は、ツインテールがお気に入りで。

いつもその髪型にしていたので、いつの間にかトレードマークになっていた。




 「ほら、この人だよ」


 「よろしくね、美緒ちゃん」


 「初めまして、健一くん」




 お母さんがそう言うと、恐る恐る母の後ろから覗いてみた。


 母の前で男の人が、私に向かいニコやかに挨拶(あいさつ)をする。


 穏やかな笑みを浮かべた、とても優しそうな人だったので少し安心した。




 「は、初めまして・・・」




 相手の男の人の連れられた、一人の男の子が緊張した面持(おもも)ちで、母に挨拶する。


 確か一つ下で、弟になる子がいるって聞いた。




 「お母さ〜ん、この子が私の弟になるの?」




 男の子の様子が、余りにも可愛らしかったので。

思わず、そう母に(たず)ねた




 「こらっ、挨拶は」


 「初めまして〜」



 

 母に怒られ、慌てて男の人に挨拶を返した。




 「そうよ、健一くんって言うのよ」


 「へえ〜」




 それから続けて、期待していた答えが返ってくる。




 「(この子が私の弟になるんだ・・・)」




 生意気だったり、乱暴な子だったら嫌だったけど。

思っていたよりも穏やかで、優しそうな子だったので良かった。


 いや、むしろ、こんなに可愛らしい子が弟なら、とても嬉しい。




 「私、美緒って言うの。よろしくね、ケンちゃん!」




 可愛い弟が出来た喜びに、私は笑顔になりながら彼に挨拶をした。




 ・・・




 「おねえちゃ〜ん!」


 「(ギュッ)」




 それから私達母娘は、新しく父親となる相手の家へと引っ越す。


 そこで弟となったケンちゃんは、いつも子犬の様に後を付いてきて。

私に抱き付き、甘えてきた。




 「ケンちゃん、可愛い」


 「(なで、なで)」


 「えへへっ〜」




 甘えるケンちゃんが可愛くて、頭を撫でてやると。

目を細めて嬉しそうに笑った。


 そんな生活が、しばらくの間続いた。




 ・・・



 しかし、子供っぽくと思い、ツインテールを止めた頃。

同時に、私の胸が膨らみだし。

それとともにケンちゃんは、私に抱き付くのを恥ずかしがり。

だんだんと、くっつかなくなった。


 何だか寂しくなってきた上。

それからしばらく経ち中学に上がった頃、私の事を”姉さん”と呼び出す。


 しかし。その代わり、甘えん坊の面は影を(ひそ)めるようになり

私の事をいつも気に掛けて、優しくしてくれるようになった。




 ・・・




 ケンちゃんの背丈が、私を追い抜いた頃。

周囲の男子も大きくなり、だんだん他の男の子達が怖くなったが。


 ケンちゃんは、私よりも大きいけど全然怖くなく。

いつも穏やかな表情で、いつでも私を気に掛けてくれたから。

例えるなら、アイリッシュ・ウルフハウンドやグレートピレニーズの様な。

優しい大型犬のように、安心できる存在になった。


 昔は、子犬のように後を追っていたのに・・・


 と同時に、ケンちゃんの広い胸と、大きな背中を見て。

時々、胸が高鳴る様にもなっていた。



 そんなある日。




 「キャッ」




 そそっかしい私は、転びそうになった。


 私は何も無いところで、(つまづ)く事がよくある。


 友達からは、”一種の才能ね”と、半ば呆れられているが。




 「(ぽすん!)」




 しかし、ケンちゃんが私の事を受け止めてくれた。




 「(ギュッ)」



 と同時に、私もケンちゃんに反射的に抱き付く。




 「(気持ち良い・・・)」




 私の背中に廻された腕と、頬に当たる胸の感触に。

私は、とても良い気持ちになった。


 幼い頃、遊園地で大きな着ぐるみに、ハグされた時の事を思い出す。




 「(スリスリスリ〜)」




 余りの気持ち良さに、思わず頬ずりを始める。




 「クスッ」


 「(スーーッ・・・、スーーッ・・・)」




 そんな私の様子に、ケンちゃんが苦笑いしつつも。

私の背中をユックリ撫で出す。




 「はぁ・・・」




 ケンちゃんの手の動きに、(かす)かに声が漏れる。


 抱き締められながら、背中を擦られるのは気持ち良い・・・。


 そう言えば昔は、私がケンちゃんにしてあげていたなあ。


 なぜケンちゃんが、あんなに私に甘えていたのか、今なら良く分かる。




  「(スーーッ・・・、スーーッ・・・)」




 ケンちゃんの手の、余りの心地良さに。

私はしばらくの間、その広い胸に顔を(うず)めていたのである。




 *****




 「ケンちゃ〜ん!」


 「おっと!」


 「(ぽすん!)」


 「えへへっ〜」




 それから私は、よくケンちゃんに抱き付き甘えるようになっていた。


 ケンちゃんに受け止められた私は、照れたように笑う。


 完全に、昔とは立場が逆転したのだ。




 「(なでっ・・・、なでっ・・・)」




 しかしケンちゃんは。

そんな私を文句一つ言わずに、抱き締め撫でてくれる。


 そんな優しいケンちゃんに、私は今日も甘えるのだった。


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