最終話 いつまでも一緒に・・・
「ねえ、ちょっと待って・・・」
クリスマスのイルミネーションが瞬く、商店街。
そんな、きらびやかな中、僕の後ろから呼び止める声が聞こえる。
「ケンちゃん、歩くのが少し早いよ〜」
「ごめん、ごめん」
後ろから、姉さんが抗議する。
何か、どこかで見たような光景だな。
これから僕達は、駅前広場へツリーを見に行く所であった。
その途中、商店街を通っている内に、足が早くなり。
知らぬ間に、姉さんを置いて行ったみたいだ。
「(タッタッタッ)」
「えいっ!」
「(ガシッ)」
僕が立ち止まり、姉さんを待っていると。
姉さんが掛けてきて、イキナリ僕の左腕に掴んだ。
「えへへへっ〜」
突然の行動に、僕がビックリして姉さんを見たら。
姉さんがイタズラが成功した、イタズラっ子みたいに笑う。
「ねえ、早く行きましょ〜♪」
「(グイ)」
姉さんが、僕の肘を自分の豊かな胸に押し当てながら。
そう言って僕の腕を引っ張る。
・・・この光景も、見た事があるなあ。
「ケンちゃん、早く、早く〜」
「(グイグイ)」
姉さんは、待ちきれない様子で僕を引っ張っていく。
こうして僕は、はしゃいだ姉さんに引っ張られて。
目的地へと向かったのである。
・・・姉さんが転びそうになりながら、僕の腕を掴んだ事は。
内緒にしておこう。
・・・
「わあ〜」
それから僕は、姉さんに引っ張られてまま、駅前広場に着く。
ツリーを仰ぎ見る位置まで近付いてから、立ち止まり。
すると、姉さんがツリーを見上げ歓声を上げる。
「今年もキレイだね〜」
「うん」
ツリーのイルミネーションに照らされて、姉さんがそう言う。
しかし、どちらかと言うと。
僕はツリーではなく、姉さんの方を見ていた。
輝くイルミネーションに照らされて、姉さんも煌めいて見える。
それは普段の、のんびりオットリとした彼女とは違った。
まるで清らかな、侵しがたい物の様にも思えてしまう。
「・・・ねえ、ケンちゃん。ギュ〜ってして・・・」
「うん・・・」
「(ソ〜っ)」
呟く様にねだる姉さんを、後ろから抱いた。
姉さんの背後から腕を廻し、彼女の腰を抱く。
そうすると体の前面から、姉さんの柔らかい感触がした。
何回味わっても、決して飽きることが無い。
あの、温かで柔らかい感触である。
「(姉さん、愛している・・・)」
彼女のキレイな横顔見ながら、柔らかな感触を受けていると。
心の底から、言いしれ様も無い感情が溢れて。
その感情に引きずられ、彼女に対する思いが口を吐こうとした。
「(ダメだ! それは言ってはイケナイ)」
思わず口が滑り、その言葉を口から出そうになるが。
自制心を働かせ、何とか我慢した。
「どうしたの、ケンちゃん?」
気付くと、姉さんが僕の方を見ていた。
姉さんは首を傾け、不思議そうな表情で僕を見ている。
姉さんの方を見ながら、僕は・・・。
*********
「姉さん、ずっと一緒に居ようね・・・」
さっきから、私を後ろから抱きながら、コチラをジッと見ているケンちゃん。
何だか、不思議になって尋ねてみると、そんな言葉が帰ってきた。
優しい瞳で、私を見詰めるケンちゃん。
その優しい瞳で見詰められている内に、胸の鼓動が高鳴っていく。
いつも私に笑い掛けてくれるケンちゃん。
優しい瞳で笑い掛けられると、いつも同じ感情が湧いてくる。
「(ケンちゃん、愛している・・・)」
そんな感情と共に、この愛の言葉を言い合い。
お互い強く抱擁しながら、熱いキスを交わす光景を空想していた。
この時も、その場面が頭に浮かび。
それを実現させようと、無意識の内に口に出そうとする。
「(ダメ! それを言ったらダメ!)」
しかし、その言葉を言ったら。
もう歯止めが効かなくなり、最後まで行ってしまうだろう。
私は、その言葉を心の中で押し殺しつつ。
「うん、ずっと一緒に居ようね」
ケンちゃんに、そう答える。
・・・
それから私は。
ケンちゃんから後ろに抱かれた状態で、ツリーを見続けている。
ケンちゃんに抱かれながら、心の中では。
決して、彼に伝える事が出来ない言葉に、思いを寄せていた。
恐らく、ケンちゃんもそうだろう。
私達は、恋人にはなれない。
でも離れ離れになる訳で無く、姉弟であることには代わりはない。
多分、これからもそうであろう。
ならば、出来るだけ一緒に居よう。
「ねえ、ケンちゃん・・・」
「うん? なに」
「ケンちゃん、ずっと一緒に居ようね・・・」
「うん、ずっと一緒に居よう」
私は腰に廻された彼の手に、自分の手を重ねる。
こうして、私達は。
しばらくの間、何も話すこと無く、同じツリーを眺めていたのであった。