第十四話 秋風に吹かれながら
秋も深まった、11月のある日。
「はあ〜、だいぶん涼しくなったね〜」
「そうだね」
今、僕と姉さんは、枯れ葉の舞い散る歩道を歩いていた。
姉さんは気分が良いのか、浮かれるようにして僕の前を歩いていて。
そんな姉さんを、僕は頬を緩ませて見ている。
・・・
歩いている歩道は、林の中にあり。
今の時期、葉が枯れ、落ちて始める落葉樹もあった。
ちょうど日曜日の、この日。
僕達は、近くの運動公園へと、一緒に散歩にきたのである。
この公園は、少し歩けば行けるほど近く。
気が向いたら、二人で来ることもあった。
日曜日とは言え、賑やかなのは開けた広場などで。
今いる、林の中などは、静まり返っている。
「風が気持ち良いね〜」
そう言いながら、前の姉さんが振り返った。
今は、午後だからそうでも無いが。
もう冬も近いから、さすがに夜や朝は寒い。
そう言う姉さんは、灰色のユッタリしたセータ。
紺色のロングスカートに、濃い茶色の起毛したショートブーツと言う。
出で立ちであった。
シンプルな服装であるが。
却って、姉さんの穏やかな雰囲気に合っている。
そんな、冬の気配がする空気の中。
姉さんが、風で流れるウエーブが掛かった髪を撫でた。
「ねえ、ケンちゃん・・・」
姉さんが何かを言おうとして、僕に近付く瞬間。
「ああっ!」
「危ない!」
「(ポスン)」
姉さんがイキナリ躓き。それを僕が受け止める。
姉さんの感触は、着ているセーターの所為か。
何だかモフモフしていた。
「大丈夫?」
「ええっ・・・、痛っ」
最近珍しく、姉さんが躓いた。
以前は、ネタになるくらい、よく躓いたり転んでいたのが。
最近、なぜか余り転ばなくなったと思ったけど。
それが今日、久しぶりに躓くのを見た。
「どうしたの?」
「ん・・・。何か、足を挫いたみたい」
「歩ける?」
「チョット、無理みたい・・・」
足元に石があるので。
どうやら靴を石に引っ掛けて。足を挫いたと言う事か。
しかし、ここには休ませるベンチどころか、適当に座るところが無い。
どうしようかと考えたが、方法は一つしか無い。
少し恥ずかしいが。
どうせここには誰も居ないので、腹を括ることにする。
「姉さん、ちょっとゴメンね」
「きゃっ」
僕は一度腰を落とし、それから左手で姉さんの膝裏を持ち上げ。
そうすると、当然後ろに倒れる姉さんの、背中を右手で受け止める。
要するに、姉さんをお姫様抱っこにしたのだ。
「・・・ケンちゃん」
「姉さん、少し落ち着ける所まで歩くよ」
抱いた姉さんは、少し瞳を潤ませ。
それを見た僕は、姉さんにそう語りかける。
・・・
「・・・ケンちゃん、重くない・・・」
お姫様抱っこをした姉さんが、そんな事を尋ねる。
「(ヒョイッ)」
「きゃっ」
体重の事を言う姉さんを、少し放り上げた。
すると、可愛らしい悲鳴が聞こえた。
「姉さん。姉さんは、食が細いからとても軽いよ。
逆に、もっと食べないと心配になるくらいだよ」
「う、うん・・・」
実際、姉さんは見た目以上に軽い。
女の子の体重なんて分からないが、それでもこれは軽すぎる。
だから、もっと食べるように言うと、嬉しそうな恥ずかしそうな。
そんな物が、綯い交ぜになった表情を見せる。
*********
「(しまったなぁ〜)」
今日私は、ケンちゃんと運動公園へと来ていて。
そこで私は躓き、足を挫いたので。
今、ケンちゃんに、お姫様抱っこされていたのである。
「(調子に乗りすぎちゃった・・・)」
そして彼に抱っこされた状態のまま、私は気まずい思いをしていた。
何だか気持ちの良い風が吹いていたので、調子に乗っていたら。
躓いてしまったのだ。
最近、転ばなくなったので、油断していたのも悪かった。
しかし、ケンちゃんに、お姫様抱っこされるのは嬉しいし。
それに、
”姉さんは、とても軽いよ”(都合の良い部分だけ切り取り)
って、ケンちゃんが言ってくれたの♪
でも、”もっと食べたほうが良い”って、乙女に失礼じゃない。
そうは思うものの、ケンちゃんに抱っこされた状態では。
そんな事は言えなかった。
・・・
「こんなのしか無いのかな〜」
ケンちゃんが立ち止まり、目の前にある腰掛けを見る。
結構歩いたのだが、なかなかベンチらしき物が無く。
あったのが、石で出来た、この腰掛けだけである。
しかも、何だか薄汚れていて、座ったら服が汚れそうだ。
「姉さん、これに座る?」
「ううん」
「そうだよね。じゃあ、しょうが無いか。
姉さんゴメン」
「?」
服が汚れるのが嫌だと、私が断ると。
どこかに座らせないといけないケンちゃんが。
突然、私に謝り。
「(えっ)」
それから、私を抱いたままのケンちゃんが、腰掛けに座る。
丁度、私をお姫様抱っこ状態だったから。
そのまま座ると、私は横座りのまま、ケンちゃんの膝の上に座った形になった。
「姉さん、服が汚れるからこうするけど。いい?」
「(コクッ)」
ケンちゃんが、そう言って謝るが。
私は、彼の心遣いが嬉しくて、頷いた。
・・・
「・・・ケンちゃん、気持ち良い」
気持ちが良くなった私は、思わずそう呟く。
私は、ケンちゃんの膝の上で、横座りでしなだれていた。
一方、ケンちゃんの方は、肩に乗った私の頭を撫でている。
緩やかに吹き抜ける、秋風が心地良い上。
それにケンちゃんの愛撫が加わって、気持ち良い。
「ねえ、もう少し休む?」
「・・・うん」
そんな私を見て、ケンちゃんが提案し。
私が、呟くように返事をした。
結局、帰りは私を抱えたまま帰る事になったが。
もう少し甘えたい私は、そんな彼に賛成する。
こうして私は、緩やかな秋風に吹かれながら。
ケンちゃんの、愛撫を受け続けていたのである。