第十三話 キス未遂
それは、気温が涼しくなった、10月のある夜の事。
「ねえさん、風呂が湧いたよ〜」
風呂が湧いたので、先に入るように言いに居間に入る。
ちなみに両親は、いつも仕事で遅かった。
父親は勿論だが。
母さんも僕達が中学に入る辺りから、再び働きだし。
最近では、管理職にもなったこともあり、やはりいつも遅い。
なので、僕達が先に入るのだが。
姉さんが女の子だから、出来るだけ先に入れるようにしている。
・・・言っておきますが、決して、やましい理由はありませんので。
そんな訳で、いつもの様に姉さんに、入るよう言おうとしたのだが。
「すー・・・、すー・・・」
「・・・」
姉さんが、居間のソファーで居眠りをしている。
「姉さん、風呂が湧いたよ〜」
「すー・・・、すー・・・」
寝ている姉さんに呆れつつ、起きるように言うが反応が無い。
「姉さん、そんな所で寝ていると。
また風邪引くよ〜」
「すー・・・、すー・・・」
今度は、風邪を引いてしまうと言ってみる。
この間の件があるので、反応があるのかと思ったら。
全然、無反応だ。
「ほら、起きないと遅くなるよ〜」
この後の事もあるから、遅くなるとイケないと思い。
姉さんを起こそうとしたが。
「・・・ゴクリ」
その瞬間、姉さんの全身が目に飛び込む。
姉さんは、ダブダブのプリントTシャツに、紺のミニスカ姿と言う。
普段着に身を包んだ状態で、ソファーに寝ていた。
姉さんは、身内びいきを差し引いても、とても可愛く。
しかも、結構スタイルも良い。
そんな姉さんが。
かなり短いミニスカで、美しく白い脚を晒していた。
キレイな足先から始まり、スラッとした脚から視線が移り。
少し乱れて、捲れたミニスカに視線が移ると。
脚の付け根が見えそうだったので、慌てて逸してしまうが。
移った先には、大きな胸があった。
姉さんが冗談でよく、”これでも、クラスで大きい方よ”と言う様に。
結構、大きな胸であった。
知らない内に、姉さんの胸を凝視してしまっていた僕は。
慌てて、視線を動かす。
これを姉さんが知ってしまったら。
“ケンちゃんも男の子なんだね、そんなにオッパイが好きだなんて”と、からかわれるだろう。
次に、姉さんの顔を見るが。
姉さんは少しタレ目気味の、見た目通りのおっとりとした。
可愛い系の美人である。
その姉さんの唇を、思わず見てしまう。
姉さんの唇は、濃いピンク色の唇である。
その唇を見ている内に、なぜか顔が近付いて行く。
自分の意思ではなく。
どう言う訳だか、姉さんの唇に引き寄せられる様に近付いて行く。
”ダメだ! ダメだ!”
心の中で、必死で抵抗するが。
しかし、体が勝手に近付いて行く。
そして、姉さんの唇に接触する直前になり。
「(パチッ)」
「(!!!!〜)」
姉さんの瞳が開き、僕は内心で盛大に驚く。
「ふあ〜。あれ、ケンちゃんどうしたの?」
「あ、ああっ。
姉さん風呂が湧いたから早く入ってよ」
アクビをしながら、何事の無く、姉さんが起きた。
そんな姉さんを見て僕は慌てて、そう言いながら。
急いで、居間を後にした。
*********
「・・・」
私が目を覚まし、ケンちゃんを見ると。
ケンちゃんが、慌てたようにして居間を出ていった。
「ケンちゃん・・・。
今、キスしようとしたんだよね・・・」
私は、目前まで迫ったケンちゃんの顔を思い出し。
自分の唇を、人差し指で押さえながら呟く。
さっきから私は、寝ていた訳では無かった。
だが、完全に起きていたと言う訳でも無く。
ただ、微睡んでいた状態であった。
「(バッ! ババッ!)」
何気なく足元を見ると、スカートが捲れて中が見えそうだった。
それを見て、私は慌てて両手でスカートを押さえた。
「(うわ〜。ケンちゃん、見てないよね〜)」
私は、熱くなった顔を俯かせる。
「(これで、ケンちゃんが欲情したのかな・・・)」
微睡んだ状態だが。
何となく感じるケンちゃんの視線を思い起こし、そう思う。
熱い視線が、スカートから胸を経て、唇へと移っていく。
しかし、不思議と不快感は無かった。
他の男の子だと、そんなイヤらしい視線を受けただけで。
とても、嫌な気分になるのだけど。
ケンちゃんだと、そんな気分にはならない。
むしろ何だが、嬉しい気持ちにすらなってくる。
”私の事を、女の子として見ていてくれている”
つまり、そう言う事であるから。
だから、ケンちゃんがキスしてくれなかったのは、残念だった。
私をそう見ているのなら。
キスだけなく、最後までやっても、私は構わなかった。
そんな残念な気分もある、一方。
もう一方では、ホッとした気持ちもあった。
恐らく、キスまでしたら、間違いなく最後まで行ってしまい。
その結果、家庭が崩壊するだろう。
小さい頃、お母さんが苦労してきたのを見てきて。
せっかく掴んだ、この幸せを壊したくはない。
それに、仮に最後まで行って恋人同士になっても。
多分、二人の関係は、今とは変わらないはずである。
互いに、甘えたり可愛がったりして、マッタリ過ごしていくのだろう。
ただ、Hをするかしないだけで。
そんな一時の気の迷いで、得たものと天秤に掛けるなら。
無くしてしまう物の方が、余りにも多過ぎるのだ。
性的な満足を得る代償としては。
「もう少し、格好に気を付けないと・・・」
ケンちゃんを惑わせた、自分の不用心ぶりに反省しつつ。
お風呂に入る準備をする為、自分の部屋と向かったのであった。