彼はいったい?
(あーあ…結局ケーキ、食べ損なっちゃった)
そんなことを思いながら、ティアリスはバルコニーに向かっていた。人のいない所で、のんびり空でも見ていようと思ったのだ。
しかし、そこには人影が…
仕方がない、ほかの所へ行くか…ティアリスがそう思っていると、不意にその人影かこちらを向いた。
ティアリスは心臓が止まりそうなほど驚いた。あまりに美しい彼に、目を奪われたのだ。歳は同じくらいだろうか、漆黒の髪に漆黒の瞳は彼の見るもの全てを吸い込んでしまいそうなほど深かった。
しかし、その彼も、同じことを思っているのをティアリスは知らない…
先に口を開いたのは,彼の方だった。
「誰?」
まさかのタメ口に驚いて、とっさに声が出なかったティアリスは、悪くないだろう…
「わ、私はアイクワーズ王国の姫、ティアリス・フロージュ・アイクワーズです。」
男の目は大きく見開かれた。
「アイクワーズの姫か… ご存知なくて申し訳なかった。私はサウスエア王国の王、シュウスティア・キール・サウスエアだ。」
ティアリスの目も大きく見開かれた。
まさか隣の国の王だったとは…
確かに、ティアリスと同じくらいの歳の王が国をおさめていると、リリアから聞いたことがある。
政治などは成人になってから学ぶため、彼女は隣国の王さえも、知らなかったのだ。
「お、王様がなぜ、こちらにいらっしゃるのですか…?パーティーはあちらでございますよ?」
ティアリスが驚きながらも伝えると、シュウスティアは目を細めて言った。
「それはそなたも同じだ。なぜこんな所にいる?」
「わ、私はダンスに疲れてしまったので、きゅ、休憩をしに…」
「…そうか」
キラキラしているけれど、近寄り難い彼が隣国の王だと知ったティアリスは、今すぐにでも、ここから立ち去りたかった…