姫様とダンスを…
「皆の者、こちらが我が娘、ティアリス・フロージュ・アイクワーズだ。」
「皆様にお目にかかれまして、大変嬉しく思います。どうぞ、お見知りおきを…」
はたからみれば、大変美しい姫が優雅にお辞儀をしているようにしか見えない。しかし、ティアリスの心臓はバックバクだった。
(お辞儀って、こうでいいんだっけ?あれ、挨拶の言葉って、どうするんだっ…
あー、今はお父様がご紹介してくださるからいいけれど…、成人したらどうしよ…)
ティアリスは現在17歳。アイクワーズ王国では、18歳から成人として扱われる。彼女の誕生日は約半年後…
チラリと右を見ると、威厳のある、昔はイケメンだったであろう白髪の父
左を見ると、父と大恋愛の末に結ばれたティアリスにそっくりの美しい赤い目の母
姫であるティアリスはあまり両親と接する機会が無い。それは王族として仕方の無いことだった。
そのためか、彼女は両親に挟まれると、その美しさと雰囲にとても緊張してしまうのだった。
(き、緊張する…)
そんなことを思うのもつかの間、目の前にはすでに、ティアリスと踊りたいという貴族達が列を作っている。
誰にもバレないようにこっそりとため息をついたティアリスはとっても憂鬱だった。
「この度はアイクワーズ王国の姫様のお目にかかれたこと、大変光栄でございます。どうか私と一度ダンスのお相手を…」
「えぇ、喜んで…」
このくだりを何回行なったことだろう…
ティアリスはくたっくただった。
しかし、列は一向に途切れそうにない…
そんなティアリスからしたら地獄のような空間から救ってくれたのは、お手伝いのメイドとして来ていた、リリアだった。
「皆様、姫様は大変お疲れだと思われますので、一度ご休憩を…」
この一言にどれほど救われたことか…
心の底からリリアに感謝して、ティアリスはひとけのないバルコニーへ向かった。