Chapter13-5
突如突拍子もない話を振られ、反応に困ってしまう。
ゆいも当然、手助けがしたい。雹たちより早く杖の位置を探し当てたい。
だが、そんなに強大な杖の位置を、私のような一学生が本当に見つけられるのか?
ゆいの表情には不安が滲み始めた。
「大丈夫、ゆいになら出来るよ。それに、見つけられなくても誰もゆいを責めはしない。もしそんな奴がいたら、あたしがぶっ飛ばしてやるよ」
織葉は今、ゆいが失敗した時のことを考えているのだと見抜いていた。
そんなゆいを見て、織葉はそう声を掛けた。
太陽のような笑顔を向け、真っ赤な髪の毛を揺らして笑う織葉。
その後ろには他の四人の笑顔もあった。それぞれ違う笑みの表情。誰一人として同じ顔は無い。
みんなゆいの仲間。失敗を笑うような人たちではない。ゆいはそんな全員を見て、自分の中で答えを出した。
「ありがとう、織葉ちゃん、みんな―― 村長さん、私、やってみます」
しっかりと村長に向き直るゆい。
今度はこっちが真剣な眼差しを向ける番だ。ゆいは全力で村長に答えを示した。
「ありがとう。霧島さん、あなたならこれが使える筈じゃ」
ゆいの意思をしっかりと受け止め、柔らかな笑みで感謝をするティリア。
白を纏う上級魔術師の老人は、上着のポケットから手の中に納まる程の小さな巾着袋を取り出した。
縦に長い長方形の形をした、黒い布で作られた巾着袋。その袋をゆいに手渡した。
「これをあなたに託そう。巾着の中の物から杖の在り処を聞いておくれ」
手渡された巾着袋。その大きさからは想像できなかったが、手にすると、しっかりとした重みを感じる。
ゆいはその袋の紐を解き、入っていた物を取り出した。
「これは――炎のクリスタル、ですか?」
巾着の中には、燃えるように赤く、それでいて透き通る色をしたクリスタルの欠片が一つ入っていた。
手に収まるサイズながら、それに似つかない重さがある。この重みはクリスタルの魔力純度が高い証拠だ。
紅いクリスタルはそれ越しに自分の手相がはっきりと見えるほど透き通っており、不純物が含有されていない。 この透明度の高さは、まるで純氷だ。
ゆいはこれほどまでに純度の高いクリスタルを手にしたことは愚か、見たことすら無かった。
校長先生の迅雷輝星ですら、ここまでの純度では無かった筈だ。
「そうじゃよ。魔法使いの武神が手にしていた究極の杖、劫火煌月のクリスタルの欠片じゃ」
「えっ? そんな、大切なものではないのですか?」
特別なクリスタルであることは手にした瞬間から感じていた。
だが、まさかこのクリスタルが武神の杖の物だとは考えてもいなかった。
村長しか場所を知ることが許されず、年に一度しか触れることのない究極の杖、劫火煌月。
いくら欠片とは言え、クリスタルは杖の心臓部には変わりない。そう簡単に手にしていい物ではない筈だ。
「“あなたにだから”渡せるものなんじゃよ」
その問いに笑顔で答えるティリア村長。
ティリアはゆいのが今、どう思っているのか全て分かっているようだ。
ゆいの考える通り、そう簡単に渡すどころか、見せていいものでもない。
コンパスの次、いや、それ以上に存在を知られてはいけない代物だ。
だが、ゆいには託すことが出来る。その証拠は何よりも、クリスタルが証明していた。
「……分かりました。大切にお預かりします」
「使い方は簡単じゃ。そのクリスタルの魔力の波長に耳を傾けてくれればよい。そうすればクリスタルが教えてくれる筈じゃ」
クリスタルを巾着袋へと戻しながら村長の話をしっかりと頭へ入れていく。
ティリアからの話も、受け取ったクリスタルも、どちらも重要すぎるものだ。
「分かりました。あの、村長。この村で一番良い風の吹く場所は何処でしょう?」
腰に巻いているポーチにしっかりと巾着を仕舞うと、ゆいはティリアに尋ねた。
「ふむ。それならこの家の屋上じゃ。村で一番高い住居だけあってよい風が吹いてくれるの」
「ゆい、そんなこと聞いてどうするんだ?」
話とは全く逸れた質問をしたゆいに、今度は織葉が質問を投げた。
「うん。私、その場所でクリスタルの声を聞こうと思う。風の魔力だって感じたいし、そこでなら落ち着いてやれると思う」
あぁなるほど。と頷いて見せる織葉。
魔力だのクリスタルだの、あまりよく分からないが、落ち着いた場所で試したい気持ちはよく分かる。




