Chapter1-7
「オーケー、詳しいことは分かったわ。明日の朝に久の家に集合すればいいのね」
笑い続けていた久とハチ、疲れ果てたタケ。その両方が落ち着き始めた頃から、久らは明日の予定について話し合っていた。
結局、明日朝に久の家に集合し、全員が揃い次第、オーディション会場が設けられているカルドタウンまで出発するということになった。
「おう、それでいこう」
久がそう返答する。
「よっし! タケ! 絶対十億取ろうな!」
一人だけ違う方向に盛り上がっているハチ。そのハチを精一杯の苦笑いで流すタケ。もう今日はこれ以上疲れさせないでくれといった面持ちだ。
と言うよりもそろそろ気づいてほしい。ただのエキストラに十億も出るわけがない。と。
「それじゃあまた明日会おう」
「えぇ。私もそろそろ帰るわ」
久はタケと共に席から立ち上がると。ジョゼも同じく立ち上がり、三人は玄関へ向かった。
「おう。それじゃ、おやすみー」
玄関まで見送りに出てくれたハチと別れると、三人は夜のストラグを歩いていき、久とタケは街の入り口付近でジョゼと別れた。
外はもう暗くなっており、姿を消した太陽とバトンタッチするかのように月が空に昇り始めている。随分とハチの家にお邪魔になっていたようだ。
久とタケはストラグシティーから出て、セシリスへと繋がる山道を登っていた。頭上には綺麗な夜空が広がっている。漆黒の布にダイヤが散りばめたかのような、そんな星空だ。
「なぁ、タケ」
夜空を見ながら歩いているタケに、久が話しかけた。少し元気が無い。
「うん?」
タケはやや上を向けていた首を久の方へ向けた。やはり久に少し元気が無い。どうしたのかと様々な原因をはじき出すタケだったが、結論が出る前に久が話し出した。
「今回はその、ありがとうな。んでもって、ごめん。やっぱりいきなり過ぎた誘いだったな……」
「!」
タケは驚いた。この発言は予想のかなり斜め上を行くものだった。久がまさかこんなことをバカ正直に言うなんて。
「おいおい、いきなりなんだ? らしく無いじゃないか」
タケは驚いていたが、同時に心配した。久が消沈しながら詫びるなど、タケでもあまり経験したことが無かった。
「いやまぁ、ちょっとな」
久は笑っていたが、明らかに元気が無い。この笑顔がわざと作っている表情だということはタケにはまるわかりだ。
はて、これはどうしたものか。とタケ。この間が長く続くのは好ましくない。何とか言いださないと。と頭をフルに回転させる。持ち前の頭脳もこういう時にはうまく働かない。
頭を掻きながらタケはただ一言、親友の名を呼んだ。
「?」
久はタケを見た。タケは久を見ておらず、夜空を眺めるような体勢で歩いていた。
「今から神社に行かないか? ちょっと小腹が空いてるんだ。付き合えよ」
タケは視線を夜空から久へと戻すと、にかっと口角を上げ、大きな笑みを見せた。いたずらっぽく子供のように笑うタケは、腹に手を当てて見せた。
セシリスから少し離れた場所に、茸神社と呼ばれる屋台や夜店が軒を連ねる賑やかな神社がある。タケはそこへ今から行こうと、久に提案したのだ。
「……へへっ、そうだな! ラーメンでもいくか!」
久はタケからの提案に、満面の笑みで答え返したかと思うと、一気に駆け出した。久の言うラーメンとはその神社屋台の名物であり、大好物だ。
「おう。お前はそうじゃないとな」
「早く行こうぜ!」
久は早く来いとばかりに大きく手招きをしながら、今にも本気で走りだしそうな雰囲気を全身から漂わせた。
タケも久の元へ走り出す。久が先頭を切り、その後ろをタケが続く。この構図は幼い時から何も変わっていなかった。
(久、お前には本当に感謝してるよ)
タケはいきなり走り出さず、自分と歩調を合わせながら走ってくれる久を見ながら、心からそう思ったのだった。