Chapter9-2
「一時はどうなるかと思ったわよ」
天凪校長の校長室に辿り着き、備え付けられたソファーに腰掛けながらジョゼが肩の力を抜いた。
ゆいは負傷はしたものの、救い出せてよかったと心底安心しているようだ。
「しっかし、この時計塔が校長室だったとはなぁ」
ハチが身近な窓から外を眺めながらそう言った。
セピスに入る前からでも見える大きな時計塔。魔法学園のシンボルともなっているこの時計塔に、天凪桃姫校長の校長室が設けられていたのだ。
長い螺旋階段を上がりきった先、その高い場所に位置する部屋からの景色は、どれだけ立地の良い海辺の高級宿であろうとも、敵わないだろう。校長室からは広い学園全体と、セピスの街全体が一望できた。
「中々素敵な街でしょ? こんなことにならなければ、もっと綺麗なんだけどね」
外を眺めるハチに対し、コーヒーを淹れながらそう天凪校長が答える。校長は顔は笑っていたが、街の崩壊を誰よりも悲しんでいた。
セピスは被害を受けた直後だ。家々は崩壊し、お世辞にも美しい街とは言い切れない。
海に面したセピス。穏やかな潮風と共に、幸運も流れてきますようにと、ジョゼは眼下に広がる街を見て祈っていた。
「先生、織葉と霧島を寝かせてきました」
校長室の扉が開き、タケと久が戻ってきた。
二人はこの部屋の更に上の階、普段は天凪校長が寝室として使っている場所に、傷の手当てを終えた織葉とゆいを寝かしに行っていたのだ。
「お疲れさま。コーヒーでも飲もうか」
校長は机に五つのカップの乗ったお盆を置き、四人をテーブルへと招いた。
カップからは美味しそうな湯気が上がっている。
「いただきます」
四人が各々椅子に着き、コーヒーカップを手に取る。口元に近づけるとより一層よい香りがし、一口すすると、適度な苦みと甘さが口いっぱいに広がった。本当においしいコーヒーだ。
「このコーヒーすごく美味しい!」
「お! うめぇ!」
何の気なしに口をつけたジョゼとハチが思わず声を上げる。タケの家でコーヒーを振る舞われることは何度もあるが、そこで飲むコーヒーとは何かが違う。
「嬉しいけど、どこにでも売ってる普通の豆だよ?」
校長は棚からコーヒー豆の瓶を取り出し、ジョゼへと見せた。
瓶の中でさらさら揺れ動くコーヒー豆は、見た感じどこにも変わったところは無い。ジョゼはコーヒーに詳しくはないが、どこにでもある普通の豆と変わらないように見えた。
「桃姫先生のコーヒーは最高だからな。オレがコーヒー好きになったのもこのせいだ」
毎日数えきれないほどのコーヒーを飲むタケ。
様々な豆や淹れ方のコーヒーを味わって来たタケですら、校長が淹れるコーヒーに勝るものに出会っていなかった。
「天凪家に口伝で伝わる淹れ方だからね。安くはないわよ~?」
校長も席に着いて冗談をめかす。
コーヒーを飲みながら笑い、五人は少しながら落ち着きを取り戻し始めていた。




