Chapter8-12
織葉の目に入る、武器をなくし、片腕で顔半分を覆うゆい。
今しかない。ほかの誰よりもゆいに近く、直接的な攻撃が出来るのは自分だけだ。
織葉は久の発言に行動で答えた。織葉は太刀を構えなおし、もう一度ゆいとの距離をダッシュで詰める。
ゆいとの距離を着実に詰めながら、織葉は自分の太刀の向きを静かに変え、峰を前へ向けて構えた。
今のゆいが本来のゆいではないと分かっていても、どうしても織葉は親友に刀を向けることができなかった。
「うおりゃああああああ!」
織葉は太刀を振りかぶった。峰打ちで逆に沿った刀身が露わになる。刃は無くとも当たれば強打。ましてや体力と防御力の低い魔導師では防ぎきれない。
(ゆい、ごめんな。痛いけど、一回だけ、我慢してくれ!)
それは、本当にその場の空間を切り裂いたかのような斬撃だった。振り下ろした織葉の氷焔が銀の残像を残し、ゆい目がけてスラリと流れ落ちた。
「つっ……! 防御結界、物理反転っ!」
だが、ゆいも粘りを見せた。手元から魔法具である杖が離れていながらも、間一髪、口早に防御結界を詠唱、展開した。
ゆいの詠唱に呼応し、一瞬で構成される赤い壁。流れるような織葉の太刀筋はゆいの体に届くことは無く、防御壁に阻まれ、織葉はその壁で跳ね返された太刀の反動で大きく体をのけ反らせた。
「なっ? 防御結界?」
崩れ行くバランスの中、ひびの入った防御壁を見て愕然とする織葉。ゆいも無傷ではなく、よろめいてはいるが、決定打にはならなかった。
峰打ちでなければ打ち破れていたであろう後悔が一瞬、頭の中をよぎった。
「踏ん張れ!織葉! 体勢を整えろ!」
誰かの声で本能的に体が動いた。
織葉は瞬時の判断で左手を地面に突き立て、肘をばねにして飛び上がった。奥歯を食いしばりながら空中を舞う。動きに合わせて靡く長髪の隙間から、自分の前に立つ三人の姿が微かに目に入った。
空中で体勢を立て直す織葉の目に、タケ、ジョゼ、ハチの三人が、凄まじい速度で現れた。声の主は、タケだ。
「ジョゼ! ハチ!」
「任せて!」
「任せろ!」
タケの一声で、盗賊二人がナイフを腰から引き抜いた。タケも腰からダガーナイフを一対引き抜き、ジョゼとハチは一本ずつナイフを手にした
ガギィィン!
瞬時に引き抜かれた三人のナイフは、鋼鉄の煌めきを僅かに空中に残像として残したかと思うと、岩にぶつかったかのような低く、耳に残る鈍い音立てながら、赤い防御壁に直撃した。
三人の息の合った、超至近距離の攻撃。物理反転の結界を展開したゆいですら。これを完全に防ぐことは出来ず、攻撃を受けてさらにふらついた。
重心が後ろにずれ、後ろに倒れ込んでいく。ゆいのバランスを失っていくのに合わせて、防御壁の崩壊も一気に進んだ。
「ハチっ! 今だ!」
「よっしゃ任せろ!」
ふらつくゆいを見て、タケが最後にもう一度声を荒げる。
その声に反応したハチは結界に突き立てる片腕の力を全く緩めずに、空手だった左手を上着の中に突っ込んだ。そして、流れるような動作で、自分の上着の中からもう一本のナイフを取り出した。
「ゆいちゃん! 今助けるぜぇっ!」
ハチは勢いよく上着からナイフを引き抜くと片手で素早く構え、ゆいの防御結界のど真ん中へ渾身の一撃を食らわせた。
「くっ!」
ふらついた状態で、ハチから強力な一撃を浴びせられた結界は、流石に攻撃を受け流しきれず、バリンと音を立てて消失した。その赤いガラスの後ろでは、今まさにゆいが大きくバランスを崩し、尻もちをつく寸前だった。
「織葉ちゃん! 今よ!」
ジョゼが後方にいる織葉に向かって声を張り上げた。
「分かったっ!」
結界を破った三人は四方に散開し、倒れ行くゆいへの道を織葉に示した。
自分からゆいへと延びる、一本の直線。織葉はジョゼからの合図を受け、今一度刀を握る手に力を込めた。僅かに織葉の魔芯内に残った魔力が反応し、太刀と両腕を魔力でより一層輝かせた。
(これが最後……! この全てぶつけて、ゆいを……斬る!)
織葉は残りの魔力全てを全身に纏い、再び残像を残すほどの速さで、今にも床に腰を着きそうなゆいへと向かっていく。
堂内の地面が赤く熱され、直後、急激に冷やされて次々にバキリバキリと割れていく。
隙は尻もちをついてから、立て直すまでの十分すぎる時間。織葉は一瞬のうちにゆいの目の前へと移動していた。
炎と氷のシュプールを生み出しながら、織葉は太刀を振りかざした。両腕に纏う二つの魔力が一気に太刀に駆け上がり、その刀身を何倍もの大きさに変貌させ、赤い輝きを放った。
「ゆい! 今度こそ、あたしが一撃で!」
織葉は赤と白の輝きを放つ太刀を、ゆいへと、振り下ろした。




