Chapter8-2
五人は河川敷の道を最後まで走り抜き、とうとう川の最終地点、海まで辿り着いていた。
疲れた体に潮風と波の音が心地よい。潮風が汗を吹き飛ばし、波の音が疲れを少しずつ拭ってくれているようだ。
砂浜まで辿り着いた五人は少し歩速を遅め、息を整えながら進んでいた。
ここまでくると、セピスまではあと残り僅か。数分かからず調子をいつも通りに戻した五人は、再び織葉を先頭に、足を進めていく。
白い砂浜と青い空、青い海。そして、砂浜に沿うようにして生える針葉樹の緑。その林に繁茂する針葉樹のたくましさは、この海の潮風の強さを物語っていた。どれも天高くまっすぐに延び、時として牙をむく海の脅威を防ごうとしているのが見て取れる。
天凪魔法学園が存在するセピスは、この針葉樹の林の先に存在している。この林沿いに進めば街には一本道で到着する。
五人は目的地に近づいていることを改めて感じ、歩く速度を速めていく。少しでも早く目的地に辿り着きたい一心だった。
全員がそれぞれ、何らかの理由で訪れたことのある地、セピス。その場所がどうにも遠い。
歩速は決して遅くない。長く続く砂浜の先、針葉樹の林の奥にある、まだ見えぬ街の場所を見ながら、ハチが痺れを切らした。織葉に向かって「まだ着かんのか?」と、口を開こうとする。
「――⁉」
しかし、開いた口から声は出なかった。ハチはその言葉を言い出せなかった。
ハチを含む、五人の嗅覚に、異様な臭いが流れ込んできたのだ。
涙を誘う、独特な匂い。――間違いない。これは何かが焼ける臭い、
――これは、火事の臭いだ。
突如として煙の臭いが飛び込んだ五人は、思わず鼻を押さえてしまう。しかし、その異様な匂いは、火災というだけでなく、もう一つの事も全員に知らしめた。
遅かった!
何としてでも、セピスが襲撃される前に街に辿り着きたかった。
しかし、それは叶わず、五人より早く、魔の手がセピスに到着してしまっていた。
五人は鼻を押さえていた手を退け、煙の漂う先、街の方向へと一気に駆け出した。今までの疲れなどもう感じない。砂浜の砂が舞い上がる勢いで五人は駆けた。
「見えた! 学園の時計塔!」
走る織葉が林の先、頭を少し見せた塔を指さした。
学園のシンボルともなっている大きな時計塔。まだその最上部しか見えていないが、ここから見えたということは、街との距離はもう遠くない。
織葉はもう一度先頭に立ち、五人は砂浜から針葉樹の林に中に続く道へと誘導した。
それは知る人ぞ知る近道。林を突っ切る獣道だった。
先ほどまでの砂とは異なり、今度は踏み固められた土の道を一気に走り抜ける。木々もそう高く林の中には、日光が綺麗に入り込んでいる。
厳しい日差しと潮風を耐え抜き、力強く根付く針葉樹の林は見事なまでに美しく力強いが、今はそれよりも嗅覚を襲う嫌臭が勝っている。進めば進むほど煙の臭いが強くなっていく。
距離は近い。濃くなる煙が五人にそう告げる。
走る五人と共に続いていた針葉樹の林。その林がとうとう終わり、一気に道が開けた。
日光を遮っていた林を抜けた五人に、遮るもののなくなった日光が一気に降りかかった。視界が光に包まれ、ホワイトアウトしてしまう。
一瞬眩む世界。光の強さに慣れた五人は覆っていた手を退け、恐る恐る目を開けた。
「こ、これは……」
久は、視線の先に広がる光景を見て思わず言葉を漏らしてしまった。
朝から必死に進み、ようやくたどり着いた目的地、セピス。
漁業で賑わうその街は、セシリスの二の舞になってしまっていた。




