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クランクイン!  作者: 雉
始まりは大きく、そして突然に
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Chapter7-4

「タケさん、大丈夫?」


 椅子に座るタケに、織葉がしゃがみ込んで気遣った。


「あぁ……大丈夫だ。久、織葉、助かったよ」 


 数分後、タケは意識を取り戻していた。幸いどこにも怪我はなく、頭を強打しただけだった。今はタオルに包んだ氷を頭に当て、ぶつけた所を冷やし、回復を待っている。


「とにかく、無事で何よりだ」


 何よりも久は安堵している。


「ありがとうな。――それより久、村の状況はどうなんだ。お前の家は無事だったのか?」


 頭にタオルを当てながら、タケが久に問う。


「地震というより、地殻変動みたいな感じだった。村は地割れが酷くて、崩れた家もある。幸い、俺の家は大丈夫だった」

「燃えてる家もあったよね。消えてるといいけど……」


 久と織葉がタケに説明する。二人もすぐにこの家に来たので、村の全容は分からないが、見えた一部分だけでも損壊は大きかった。


「そうか……。とりあえず、一度全員で見て回ろう」


 そう言うとタケは頭からタオルを退け、先ほどの気絶を嘘かのようにすらっと立ち上がり、足早に玄関に靴を取りに行ってしまう。


「あ……。タケさん、本当に大丈夫なのかな?」


 呼び止める暇もなく、靴を取りに行くタケ。その後ろ姿をみて、織葉が久にそう聞いた。


「あいつが大丈夫って言うなら大丈夫さ。それに、弦使いとしても、この村が気になるんだろう」


 弦使いの村、セシリス。タケにとって大切なこの村の崩壊は、聖地を失うことに等しい。平静を装っているが、タケは内心気が気ではないのだろう。


「そうか、そうだよね……」

「織葉が気に病むことはないさ。とにかく三人無事で何よりだ。俺たちは先に出てタケを待っていようぜ」


 ぽんぽんと肩を叩き、先に外へ向かう久。その久に励まされてもなお、織葉は消沈していた。

 自分が村に来た朝にこの揺れが来たことが、なんだか偶然ではない。そんな気がしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 先に家を出た久と織葉。それを追うようにタケが家の外へと出てきた。三人は家から数メートル進んだ先で立ち止まっており、その場から村の被害状況を確認していた。

 タケにどのような顔を向ければいいのか迷いながら傍に寄る織葉だったが、改めて村の状況を自分の目で見てしまうと、そのような思考はどこか遠くへ引き飛んでしまう。それほど村の被害は大きく、事実を飲み込めない。


 地割れの影響で家が崩れ、今朝はそこから火災が発生していたが、どうやら火災の規模は大きいものではなかったらしく、既に消し止められ、ことなきを得ていた。

 火災については安心できたが、やはり地割れの影響は甚大だった。タケの家以外にも半壊、全壊の家が数件あり、中には地割れに沿うにして、真っ二つに裂けてしまっている民家もある。

 幸い、大きな怪我を負った人や死者は出ていないらしく、その点については不幸中の幸いだった。

 二人も胸を撫で下ろした。 


「酷い、な……。確かに、地震とはまた違う損壊具合だ」


 一列に並んで村を見渡す三人。織葉の二つ隣、久を挟んだその向こうで村を痛々しい目で見つめるタケが口を開く。

 長く住み慣れた村が見るも無残な姿になってしまうのは悲しく、言葉にならない。


「やっぱりそう思うか。織葉の言うとおり、地殻変動か何かの類なんだろうか」


 タケと同じ目で村を眺めていた久が述べる。久は地面の至るところに走る地割れを指差しながらタケに言った。

 もし地震だったならば、久の家や他の被害が少なかった家も崩れていたかもしれない。

 しかし、今回は違う。今回崩れてしまった家は全て、家の直ぐ近くに亀裂が走っている。崩れてしまったのは地割れ部分から比較的近い場所に建てられているものばかりで、そうでない家は大きな損害を被っていない。

 現に、地割れから幸い遠かった久の家は倒壊を免れ、不幸にも距離が近かったタケの家は半壊してしまっている。 


「地殻変動……か。あり得ない話じゃないかもだが、ちょっと出来すぎてるな」


 久の指差す先の割れ目を見、数秒たった頃、タケが静かに口を開いた。

 なんだかいつもよりも口調が鋭い。織葉は感じ取れていなかったが、長い付き合いの久はタケのその僅かな変化に気付いた。 


「え? どういうこと?」


 久の気持ちを代弁する様に、織葉がタケへ質問をぶつけた。

 久やタケとは違い、全くこの場所に馴染みが無い織葉。織葉はすぐに質問し、ちょっとでも早く状況を飲み込もうとした。 


「この割れ目をずっと目で追ってみるんだ。……出来すぎてる」


 織葉から少し離れた位置に立つタケが織葉に一瞬視線を向け、その後、自分たちの足元から一番近い割れ目を指差した。

 久と織葉はタケの指が伸びた先にある割れ目を確認し、その割れ目がどこまで続いているのか追っていく。下を向いていた首も次第に上がっていき、どんどんと目で割れ目を追っていく。


「な、なんだこれ!」

「これ、どういうこと⁉」


 突如として、久と織葉が驚愕の声を揃えて張り上げた。



「割れ目が、村の入り口で止まってる!」


 久は目をまん丸にして驚き、織葉は思わず手で口を覆ってしまっている。久たちが見た割れ目。それはタケの発言どおり、出来すぎていた。


 足元から縦に伸びる巨大な亀裂。その亀裂は見事に村の入り口で止まっているのだ。それも、入り口付近にかけて段々と亀裂が弱まっていくのではなく、ピタリと亀裂が止まり、被害はこのセシリスから一歩たりとも出ていないのだ。

 その明らかに不自然すぎる止まり方は、久と織葉を大いに驚かせ、鳥肌を立てた。


「その割れだけじゃない。この割れも、その割れもだ。全ての割れがこの村より向こうへ出ていない」


 驚きを隠せないでいた久と織葉に、追い討ちをかけるようにタケが随所の割れ目を指差す。

 この村の地面に走るいくつもの割れ目の数々。その割れ目の大きいものから小さいものまで全て、その割れ目がこの村ら出て行くことはなかった。計算されたかのように全ての割れ目が村の中に納まっていたのだ。


「何、これ……気持ち悪い」


 タケに言ったおり、ここから目に入る全ての割れ目が村から外へは出ていなかった。


 全てこの村の中で収まっていることを確認した織葉は、気持ちの悪い感覚に見舞われた。

 久もタケの発言通り、地割れによる被害がこの村だけであることを確認し、気持ち悪い感覚と、作為的な何かを考え始めた。


(土属性の魔力を行使したのは間違いない。ここまで強力でピンポイントに行使してきたとなると、犯人はかなりの上級者……か)


 久と同じく、これは自然的なものではなく、人為的な犯行の可能性を考え始めたタケ。

 一つの犯行仮説は立てたものの、その仮説には一つ、疑問があった。そこだけがどうしても納得できないタケは、あえて導き出したことを口にはせず、


「この状況だと、被害があったのはこの村だけと考えるのが妥当だな」


 と、簡潔に述べた。確証が無いことを言って困惑させるわけにもいかない。そう考えたゆえの発言だった。


「そう……だな。しかし、なんでこんな状況になってしまったんだ?」


 タケの発言に同意をする久。久はそれと同時に、一番の疑問を改めてタケにぶつけた。


 どうしてこのような状況になってしまったのか。

 おそらくそれが一番導き出したい答えであり、一番の謎。誰が、どのようになどは後回しだ。

 まず第一に、何故この様な状況になってしまっているのか。それを解くのが何よりも先決だ。しかし、その問いはタケと久、織葉の頭を大いに悩ませた。あまりにも情報が少ない。いや、情報が無いのだ。


「おーい! みんなっ!」

「こりゃ一体何が起きたんだ? この村だけどうなってんだよ!」


 その時、悩む三人遠くから声が投げられた。

 声の主はストラグシティーからやってきたジョゼットと八朔だった。


 ストラグからやってきた二人組は、セシリスに近づくにつれ、何か嫌な予感を感じ取った。歩く足をいつもよりも速め、村へ向かう二人。早歩きを駆け足へと変え、進んできた。

 急ぎ進む二人の感じた悪寒は進むたびに強くなり、丘を登り、林を抜けたところで盗賊二人の嫌な予感は、『予感』から『事実』へと変わってしまった。今まで何事も無かった道が突如として割れ、二人の行き先を阻んでいた。まるで、セシリスに入れさせまいとしたような亀裂が、二人の前に立ちはだかったのだという。


 亀裂を飛び越え、村へ入った二人は荒れたセシリスを目の当たりにして愕然とし、久とタケ、織葉の身を心配し、セシリスを回って探しに来たのだと言う。


「やっぱり、この村だけなのか。一体何が……?」


 ハチの発言を聞き、タケは更に頭を悩ませる。

 しかし、ハチのその発言は、一番導き出したい答えのヒントになっている気がした。


「とりあえず、俺の家に行こう。タケの家は滅茶苦茶だしな」


 この様な状況だが、五人とも怪我も無く、無事に集まることが出来たのは奇跡だろう。久は全員の顔ぶれを見て一安心すると、自分の家へと誘導した。

 全員がその提案に賛成し、五人は久の家へと向かった。

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