表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クランクイン!  作者: 雉
動き出す異変
29/208

Chapter4-8

「うわあぁっ!」

 

 地震のような激しい縦揺れに加え、辺りを吹き飛ばすかのように荒れる爆風。その二つによって周辺の土は剥がれ、飛び、川岸の頑丈な植物が根ごと吹き飛んだ。

 ゆいは両手で頭をおさえ、地面に伏せて衝撃に耐える体勢を取る。凄まじい爆音と爆風だ。

 鼓膜を破り割くような爆音が響いたかと思うと、熱を纏う風が、伏せるゆいを舐めるように吹き抜けた。


「あつつっ!」


 爆発音がひどい耳鳴りを引き起こし、頭に高周波の音をぐわんぐわんと響かせる。吹き抜けた爆風はスカートや髪、カチューシャを千切り取って行きそうな勢いで引っ張り、熱波は肌の水分を奪っていく。

 更には、爆発の際に起きた激しい光が目を激しく刺し、チカチカと激しく、世界を点滅させた。


 ゆいは爆風が収まるのを待ってから動き出し、恐る恐る顔を上げて何が起きたのか確認した。未だ目と耳は正常に戻っておらず状況を捉えにくかったが、ゆいは戻りつつある目と耳に全神経を集中させて辺りを見回した。


「――っ!」


 周囲は、ここが河川敷だということを忘れさせるほどの荒れようだった。

 爆発によって無理やり剥がされた土の塊が飛び散り、河原の地形は無残なまでに崩れてしまっている。

 生い茂っていた川岸の植物も根こそぎ引き抜かれ、水気を多く含んでいる葉や茎が黒く焼け、随所で煙を上げている。男の立っていた位置からは強く煙が上がっており、その場が爆心地なのだと、明確に示している。


 黒煙が上がる場所は何も見えず、二人がどうなっているのか、それすらも把握できない。

 ゆいの元に風に乗って煙が流れ、咳込んでしまう。煙は目をも刺し、ゆいの目に涙を溢れさせた。ゆいは袖で目を覆い、溢れた涙を拭きとろうとした。


 その時――


 立ち込める煙が切り裂かれ、煙が一瞬晴れる。

 その一瞬と同時に、強い突風が駆け抜けた。


 その突風は赤い残像を残し、煙から出現する。それは、長く赤い髪を靡かせる、織葉だった。


 織葉は結界にぶつかっていたときより、傷が増えていた。腕や顔に見える火傷や切り傷が痛々しい。

 真っ白だった制服は血の赤と、焦げの黒の色に変わり、見るに耐えない。しかし織葉は苦痛の表情を一瞬たりとも見せず、凛々しい怒りの表情を浮かべている。


 ゆいは何か言葉にしようとしたが、その静かな怒りの表情に圧倒され、声が出なかった。一方の織葉も、ゆいに視線や意識を飛ばすことなく、一瞬で体を九十度翻し、踵に力を込めたかと思うと、再び煙の中へ突入した。

 織葉が纏っていた突風で燃えるように赤い髪が力強くしなり、煙が一気に晴れる。


 煙が半分ほど流れ、消失したのとほぼ同じ瞬間、何の前触れもなく、煙に刀から生み出された一閃が走り、それに続いて何かがめり込むような音がした。


 その音の後、間髪入れずに、立ち込める煙の中からローブの男が現れた。

 いや、現れたのではない。飛ばされていた。

 重力に反し、放射線状に飛ばされるローブの男。飛んでいる高度や速度から見て、かなりの力が掛かっており、受けたダメージが半端ではないということは明らかだ。

 宙に舞う男の手からは、力なく杖が離れ、落ちていった。


 時間にすれば数秒のことだが、非常に長く感じた。飛ばされた男は次第に落下を始め、地面へ向かって真っ逆さまに落ちていく。

 受けた一撃を想像以上に大きかったのか、魔力が切れてしまったのか分からないが、男は空中で受け身の一つも取ることが出来ず、そのままの勢いで地面へ落下。落下速度を全く緩和できなかった男は地面で強く全身を叩きつけ、地面を凹ました。意識はあるようだが、強打の一撃が当然大きく、地面から体を起こすことが出来ない。呼吸も乱れ、胸を 大きく動かして呼吸を整えようとしていた。 


 空中では未だに男の杖が舞っていたが、杖も次第に重力に負け、落下をし始める。

 落下を始めたその刹那、空ごと斬り裂くような一閃が空中にもう一度現れ、鋭い太刀筋で男の杖を真っ二つに斬り裂いた。

 杖の先端部のクリスタルは破裂したかのように細かい欠片をいくつも作り出して砕け、水玉が弾ける様に粉々に割れて散った。


 一瞬、河川敷に風が吹き、煙を一瞬で晴らす。その晴れた煙の中に赤い髪の剣士が立っていた。

 太刀を振り終えた状態で固まる、傷だらけの少女。体の随所から吹き出る血は汗のように流れ、足元に滴り続けている。


 その織葉の立っている場所に生まれる、鮮血の血だまり。そこまっ二つになった男の杖が無残に落下し、血を跳ねさせた。跳ねた血が顔へ飛び散った織葉だったが、その血を拭おうともせず、足元に無残に落下した杖にも一切の興味を示さない。


 織葉は、重い体を動かした。左手で右腕の怪我を押え、足を引きずりながら、未だに立つことの出来ない男に向かってゆっくりと、足を踏み出した。


 一歩足を前に出す度に、足から血が溢れ、地面に血の道を作り出した。歩く織葉のどこを見ても傷だらけだが、右腕の怪我がやはり一番酷い。深く斬り裂かれ、動かさなくとも血が流れ出る。直ぐにでも処置が必要な傷だと、誰が見ても分かる程だ。

 織葉は誰よりも傷の深さ、深刻さを理解していたが、今は傷の処置よりも、しなければならないことがあった。織葉は決して痛がる様子を見せまいと堪え、痛む足を一歩一歩踏み出す。


 足取り重く、酷く遅い歩速だが、倒れ込む男の元にようやく辿り着く織葉。男は背中も強く強打しており、酷く咳き込みながら立ち上がろうとしている。

 体に力が入らず、まだ思うように体が動かせないローブの男。その男に向かって、織葉は傷む腕を動かし、太刀の切っ先を向けた。 

 泥と血で染まっている世界の中、鋭利に研ぎ澄まされた刀の切っ先が、男の眼前で光った。


「あんたの負けだ。目的を吐いてさっさと退いてくれ」


 織葉は男のローブへ真っ直ぐ切っ先を向け、静かに述べた。織葉は口の中も切っているらしく、口からも血が垂れ、雫となって地面へ落ちる。

 男は咳き込みながらも、織葉に無言の抵抗を示した。

 フードと覆面で顔の上半分が隠れているが、何を考えているか、織葉は分かっていた。

 この男は口を割るつもりは無い、と。


 分かってしまう織葉の心に、一つの炎が燃えた。怒りだった。

 一度ついた怒りの炎はすぐにその火力を上げ、心の熱量を上昇させた。溢れた熱がこみ上げ、その炎を目に強く映させる。

 多く傷を負い、出血多量のこの状態で、一気に頭に血が昇るのは危険だ。ほんの少し血が上っただけで頭がくらくらし、足元がふらついた。

 だが、今の織葉はそのふらつきなどどうでもいいほど、怒りを覚えていた。


「どうしても、話すつもりはないんだな」


 一度瞳に現れた怒りは、その色を消そうとしない。隠しきれないほどの怒りが両瞳に映し出されている。

 織葉は、自分のことはともかく、ゆいに手を出したことがどうしても許せなかった。


 織葉は怒鳴りそうになる自分を必死に噛み殺し、男にもう一歩歩み寄り、男の喉元に刀を突き出した。

 鋭利な切っ先が、容易に喉を突き刺せるほどの距離まで迫った。


「吐けよ……」


 織葉の目にはより一層怒りがこみ上げ、手にしている刀が小刻みに震える。

 織葉は男を殺すつもりは微塵も無く、許すつもりもない。だた、自分とゆいにしっかり事情を説明してほしかった。一女学生にここまでする必要は何なのか、吐いてほしかったのだ。


 それでも口を開こうとしない男。もう咳もしておらず、それなりに回復もしているはずなのだが、起き上がろうとせず、フードの中から織葉をじっと凝視している。舐められているような、執拗な視線を感じる。

 織葉も勘づく、気持ち悪い視線。織葉は目だけを動かし、フードの中へ集中した。


「――⁉」


 そこで見た奥の表情。それは「笑み」だった。

 口元を僅かに釣りあげ、男は笑みをこぼしていた。その笑みはまるで、織葉がこちらを覗いていると知っているような笑い。見て欲しかったと言わんばかりの、口角の上がり。


 依然として目は見えないが、口元の表情をしっかりと捉えた織葉。捉えたその表情は、織葉は信じられなかった。


「きさまぁあっ!」


 このような状況に追いやられてもまだ、笑みをこぼす余裕などあるというのか。織葉の怒りは一挙に沸点へと達し、一気に頭に血を昇らせた。

 頭のくらつき、足のふらつきの一切を遮断し、今までに感じたことのない怒りと憎しみを全身に帯びた。

 まるで全身が燃えているかのような、経験したことの無い憤怒がまとわりつき、織葉の腕を、ゆっくりと持ち上げた。

 怒りに染まる銀の刀身。織葉はその怒りと憎しみに身を委ね、男に向かって刀を振り下した。


「織葉ちゃん⁉ だめっ!」


 ゆいが声を張り上げた。

 親友が怒りに飲み込まれている。このままでは人を殺してしまう。ゆいは精一杯の声を出し、織葉に訴えかけた。

 しかし、ゆいのその叫び声は織葉の耳に届かなかった。自らの血で染まった赤い刀が、何の躊躇も無く、男へ向かって振り下ろされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ