Chapter3-7
辺りはだんだんと暗くなり始め、時刻は夕方から夜に移り変わろうとしている。空にはちらほらと星も見え始めていた。
そんな中、ゆいと織葉はゆっくりと家までの道のりを歩いていた。
二人は河川敷の横道を喋りながら歩いている。川のすぐ傍なだけあり、涼しく、心地よい風が優しく吹いている。
ゆいは時折吹く強い風にスカートを捲られないよう注意しながら歩いていく。一方の織葉は全く気にしない。
言葉通り、何処と吹く風。「ゆいは気にしすぎなんだよ」と笑う。
「ちょっと疲れちゃった」
ゆいは小さく一つ溜息をつき、織葉に笑って見せた。ゆいの笑顔は夕日に照らされ、更に綺麗さ、可愛いさが増す。
「そうかぁ? 何とも無いよ」
織葉は両手を頭の後ろにまわして歩いている。織葉はオーディション如きで疲れたりはしない。ゆいに「まだまだ動ける」と言わんばかりの笑顔を向ける。
「ふふっ、織葉ちゃんは元気だね」
ゆいも笑顔を作って見せた。両手で持っている杖も夕日に照らされ神秘的に光り輝いている。
「元気があたしのトレードマークだからな!」
織葉はそう言うと半袖の袖を捲り、二の腕にぐっと力を入れて見せ、ニヤッと笑った。やはり、どこぞの誰かとそっくりな笑い方をする。
ふふっとゆいが可愛く笑う。それにつられ織葉も、腕を腰に当てながら大きく笑う。
「あ、見て織葉ちゃん、綺麗な月が出てる」
ゆいが空に上がっていた月に気付き、立ち止まって織葉に教えた。空は既に夕方の空に別れを告げており、すっかり夜の空へと模様を変えていた。
「おっ、ホントだ」
空には綺麗な満月が出ていた。雲は多少あるものの、その雲にもまた趣があり、更に月を演出する。織葉は久々に見た月に軽く感動を覚えていた。
「綺麗だね」
ゆいは河川敷に腰を下ろすと、座りながら月を眺め始めた。
いつもそこに月はあるというのに、近頃は全く見ていなかった。久々にゆっくりと眺めた月は、人工物にはない、神秘的で柔らかな光と、宇宙のかなたから届けてくれていた。
「よいしょっと」
織葉もゆいの横に腰を下ろした。下着のことを全く気にしないか、大きくあぐらをかく。一方のゆいは可愛く足をそろえて座った。
さぁっと流れる風が心地よい。風がなびくたびにゆいと織葉の髪がふわっと舞う。ゆいは右手耳の上辺りの髪を押さえた。
ちょうど良い暗さ、涼しさ。心地よく吹く風。聞こえて来るのは川のせせらぎと、河川敷に住む虫たちの演奏。この場所には癒しの全てが存在していた。
川の水面には頭上の月が映し出されて、幻想的な空間を生み出している。この落ち着いた空間でなら、いくらでも時が流れそうだ。
カサッ
その時、草が踏まれて折れるような音がした。
誰か来るのだろうか。
織葉は音に気付いておらず、月を見ているままだ。
ゆいは誰か歩いて来るのかと、音のする方を見ていると、ぼんやりと人影が見えた。
私たちと同じように、月を見に河川敷を散歩している人だろうか。そんなことを考えていた瞬間――
「霧島ゆい……だな?」
人影が、低い声を放った。




