Chapter30-4
「ゆい、今のは一体――?」
数歩前にいる親友の行動に、頭が追いつかない。
いや、追いつかないどころか、意味が分からない。自分の目で見たその光景が、頭で理解できない。
「織葉ちゃん、ごめんね。先にみんなを、ユーミリアスを、起こしてあげないとだから――」
ゆいは、織葉の問いには答えなかった。
目を閉じ、自身の魔芯と一体となるゆい。青緑色の魔力の奔流が起こり、ゆいの全身を包みこむ。
星色の髪は魔力を一杯に吸い込み、柔らかな緑色に光り輝いた。
ゆいは杖を体の前で真横に構えた。愛杖シオンは白く光り輝き、そして、ゆいの手から離れ、浮いた。
刹那、足元に形成される巨大な魔法陣。
それは一瞬で木の根が生い茂るように、ゆいを中心に何処までも魔法陣が広がって行く。
その大きさは塔の最上階を越え、空中を駆けるように何処までも何処までも広がった。
石床を駆け抜け光る、どこまでも続く魔法陣と、その広がりを追うようにして広がって行く、どこまでも青い空。
数分前の吹雪が嘘だったかのように、ここが寒冷地であることが嘘だったかのように、美しい晴天が広がった。
ゆいを包む魔力の奔流が収まり、いつもの銀髪が戻る。
杖は浮遊しながらゆいの手へと戻り、大陸全土を覆った魔法陣が空に溶けるように消えた。
「これは……」
すぐさま歩み寄る織葉が、晴天と強い魔力を放つゆいを見て、静かに口を開く。
「へへっ。ちょっと頑張っちゃった」
杖を片手に持つと、なぜかばつの悪そうに、後頭部に手を当てて恥ずかしがった。
「ゆい、大丈夫か……? 怪我は? い、痛いとこはないか?」
織葉は腰に太刀を戻すと、ゆいの全身をぺたぺたと触った。
ゆいの制服の腹部は、真っ赤な鮮血で染まったままだ。服越しなので肌の怪我は触っても分からないが、織葉はそれでも触り続けた。
「うん、大丈夫、大丈夫だから――」
「え? ゆい……!?」
突如、ゆいが大粒の涙を流し、織葉を強く抱きしめた。
シオンは手から落ち、石床にころりと落ちる。
小柄な織葉は、ゆいでも十分に覆うように抱きしめることが出来た。
「ゆ、ゆい? どうしたんだ?」
「ごめん、ごめんね! 織葉ちゃん……!」
わあっと泣き出し、ゆいは更に織葉を抱きしめる。
織葉はとうとうその場に倒れ、どすんと尻もちをついた。
だが、倒れてもなお、ゆいは織葉を抱きしめながら、泣き続けた。
「ゆい、一体どうしたんだ? あたしなら無事だから。な? な?」
織葉の胸に顔をうずめるようにして泣いていたゆいが、真っ赤に高揚した顔を織葉へと向け、そして、右肩の上に強く顔を乗せて泣いた。
「織葉ちゃん、ごめん。私、わたし――」
織葉の燃えるような紅の髪を抑え、嗚咽を繰り返しながら、ゆいはゆっくりと次の言葉を紡いだ。
「ー――ー私、死んじゃった……」




