表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クランクイン!  作者: 雉
砂漠を抜けて
139/208

Chapter21-1

砂漠を抜けて



 影とは、非常に不定型な存在だろう。

 何故なら、個々の存在でもないし、何かが光を遮らねば生まれることも無い。

その反対で、消滅も容易だ。


 ある物を別の物へと変える術。それが錬金。

 変化させたい媒体に魔力を加えることで、元の物から大きくかけ離れたものへ変化させる技術。


 だが、こうは考えられないだろうか。


「人」が媒体で、魔力が「日光」とすれば、その錬金で生まれる物は「影」。

 光を遮れば影が出来る。それは至極当然のこと。

 だが、それは意識していないだけで、自然が生み出した錬金なのかもしれない。


「影は光を遮ったから、出来ている」


 こんな考えは、単なる思い込み。

 その事象を分かりやすく、勝手に認識しているだけではないのか――


 呆然とする頭の中で、根拠も、文献も、そして自信も――何もない仮説がタケの脳裏に途切れ途切れに浮かんでくる。 タケは冷たい床にだらしなく座り、ぐったりと壁に背をつけ、首を左肩に預けるように傾けている。

 釈然としない頭で周りを見回すと、そこには同じような体勢の四人と、何も言わず立ったままのハチ。そして、この研究所の局長の男が一人。


 計七人は、(ほの)かに魔力の光が立ち込める、四畳ほどの密室に居た。その密室は、同じ感覚ですこしずつ揺れながら、微かな重力を体に感じさせていた。


 これはいわゆる、浮遊の魔法が応用されている昇降機で、人や資材を運ぶためのものだ。


 ハチに間一髪で助けられた全員は、程なくしてここからの脱出を試みた。

 そして一行は、魔力察知能力が高いゆいが部屋の隠し扉を見つけ、その先にあった、上がりのみの魔術が施された昇降機に乗り込んだのだ。


 行きは局長の転移魔法により一瞬だったが、帰りはそうは行かなかった。

 転移は一瞬でかなりの距離を移動したらしく、乗り込んで五分以上が経過しているが、一向に地上に到着する気配は無い。まだまだ上がり続けている。

 三百秒と言う僅かな時間が、この密室では驚く様に長い。もう何時間と上がり続けている様な感覚が、乗員全員を襲う。


 弱度の乗り物酔いにも似た居心地の悪さが、喉の奥に広がり始めたのと同じ頃、一つ今までより大きな揺れが起こり、昇降機は上昇を停止した。

 すると、まるで一枚の板のような継ぎ目のない壁に一筋の切れ目が入り、両開きの扉のように開いていく。

 途端、扉の隙間から強烈な光が差し込み、全員が目を伏せた。


「みなさん、大丈夫ですか⁉」


 密室内で開き切った瞳孔に、外の光が未だ対応していない。

 強い逆光の様な先に、一人の人物が立っている事だけが分かった。いや、その後ろにも、数人の人がいる。


「あ、あなたは」


 ようやく光に慣れた久が声をもらす。

 扉を開いた先、一番先頭に立っていたのは、久を第一研究所まで案内した局員だった。


「みなさん! 成功です! 先程から、大陸全土で影の消滅が確認され始めました。同時に、ヘリオの掌握も解除されたようで、今はこちらで制御が出来ています!」

「そう、ですか。それはよかった……」


 久は今までにないほどの脱力をした。

 

 今回の事象は、長い歴史あるユーミリアスの中でも、最悪の部類に入っていい歴史となるだろう。雹の行った影による破壊行動は、到底許される事ではない。

 だが、そのようなテロ行為を、起きてはしまったが収束することは出来た。久を含め全員が、大きさのまばらな溜息をもらした。


「局員さん。局長をよろしくお願いします」


 タケが局長を肩にかけて持ち上げると、久の横へ立ちあがった。久はすぐさまタケに力を貸し、そのまま数人の局員に局長を預けた。


 三人ほどで抱きかかえられた局長は未だ気絶しており、首や手をだらんと力なく垂らしている。そのまま局長は奥の部屋へと消えて行った。


 昇降機から出ると、そこはどこか分からない廊下の様な場所だった。左右に長く廊下が伸びており、等間隔に扉が設けられている。

 どうやらここは個人の研究室を集約した場所であるようだ。


 振り返ると、昇降機の出口は部屋の柱に同化するように設けられていた。すると昇降機の扉はゆっくりと閉じ、その扉をすっかりと消してしまった。


「みなさん、この度は本当にありがとうございました」


 出迎えてくれた局員は扉の消失を確認すると、六人へ深々と頭を下げた。


「申し遅れましたが、私はこの研究所の研究主任を務めている者です。局長に代わり、お礼申し上げます。研究所を、そして、ユーミリアスを……本当にありがとうございました。あなた方が来てくれなければ……」


 大陸は崩壊していただろう。


 全員の頭に主任が言わなかった言葉の先が浮かんだ。

 考えれば考えるほど恐ろしいその事象を防いだことで、改めてその恐ろしさの実感が襲ってくる。

 この大陸を脅かすほどの危機。そして、それを恐らく平然とやってのけたであろう雹に、恐怖を感じ取らずにはいられない。


「みなさんが“地下”に行かれている間に、さらに多くのことが判明しました。すぐにご説明しますが、ここでは落ち着けません。応接室にお通ししますので、そこでお話しします」


 六人は一度顔を見合わせると、ハチ以外が頷き合った。

 その反応を見た主任は、六人を応接室のある二階へと誘導した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ