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クランクイン!  作者: 雉
四人の挑戦者
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Chapter2-5

 織葉は久の質問に答え、制服の肩に刺繍されている校章を四人に向けて見せた。


 金色の逆十字を主体とした形に、蔦状の植物が巻きつく神秘的な校章。

 その下には、AMANAGI MAGIC SCHOOLと、装飾された筆記体で、校名が刺繍されていた。


「二人とも学園の生徒だったのか。制服が変わっていたから全然気が付かなかったよ」


 そこに食いついたのはタケだった。タケは座っていた場所から、肩の校章を凝視した。


 (あま)(なぎ)魔法(まほう)学園(がくえん)は、この島の数ある魔法学園の中で名門校とされており、開校から長い年月が経つ歴史ある学校だ。

 創設者、天凪桃姫(あまなぎももひめ)が未だに健在であり、現在の校長を務めている。長寿であるとともに、非常に偉大で優秀な魔導師として広く知られている。ここユーミリアスではかなり有名人だ。


 タケの祖父はその校長とかなり親しい中で、タケは以前、魔術の手解きをしてもらったことがあった。その後も交友があり、学園も校長も詳しく知っている。


「数年前、だったかな? 制服のデザインが一新されたんです」

「それは知らなかったな。(もも)(ひめ)先生は元気にしてるか?」


タケは二人に訊ねる。


「めちゃめちゃ元気にしてるよ。あの歳ってのが嘘みたい。確か、この制服のデザインをしたのも校長先生だったような」


 織葉は意外そうな顔をしたが、タケの質問にすぐ答えた。ちなみに、天凪魔法学園は創立して二百年近くになる。つまり、校長はそれよりも高齢だ。


「とうとう制服デザインまで手掛けてしまったか。まぁ、あの先生が元気じゃなかったら調子が狂ってしまうな」


 タケは笑いながら答える。脳裏には久しく会っていない桃姫先生の姿が浮かんだ。校長は秀才で著名な人でありながらも、茶目っ気があり、非常にユーモア溢れる人物としても知られている。


 これぞ魔法使いと言ったような、濃い藍色の服装を着こなし、象徴的なとんがり帽子を被る天凪校長。相変わらず元気にしているようで何よりだ。


「天凪先生って、確かタケに魔法を教えてくれた先生だったわよね?」


隣にいたジョゼがタケに問う。


「あぁ。子供の頃は全く駄目だったからな」


 そう言うと、タケは指先に火を灯して見せた。人差し指の先で小さな炎が煌々と燃える。

 この魔術はマッチの代用くらいにしかならないが、この魔法は基礎中の基礎とも言えるもの。まずはここから魔法を学んでいくのだ。


「桃姫先生は祖父の友人だったんだ。オレにとっては恩師だよ」


 タケは指を軽く振り、炎を消す。タケは昔、魔法を使うことが非常に不得手だったのだ。


 この島では生活の一部として、火を熾したり、食べ物を冷凍したりと、様々な魔法を日常的に行使する。遅くとも十才頃になれば、そのような一般的な魔法は扱えるようになるのだが、タケはその歳になっても、基礎魔法すら行使できなかった。それはここで生きるには、あまりにも大きなハンデだった。


 そんな時分、タケは祖父の古くからの友人、(あま)(なぎ)(もも)(ひめ)と出会い、魔法のコントロールの仕方を一から教わった。それ以来、タケは普通に魔法に使えるようになり、今に至っている。


「そうなんだ。あたしもすごく苦手だから教えて貰おうかなぁ」


 織葉もタケと同じく、指先に火を灯す魔法を行使した。しかし、中々指先に炎は灯らず、数回挑戦したのち、ぼうっと激しい音を立てて、やや大きな火が指先に灯った。

 酸素が足りておらず、揺れながら黒煙を出す赤い炎。それを見ながら、織葉は少し恥ずかしそうに笑って見せた。


「緋桜は魔法剣士って聞いたが、もしかして、“緋桜一刀流”の緋桜なのか?」

「えっ⁉ そうだけど、よくそんなの知ってるね」

「やっぱりそうなのか。刀の鍔の形を見て、もしかと思ったんだ」


 自然と、織葉とジョゼの視線が、織葉の腰へと向く。そこには、黒い鞘に収められた太刀が一振り。そして、その太刀の鍔は、五枚の間弁が見事に表現された、桜の形をしていた。


「あら、桜の鍔なんて珍しいわね」


 ジョゼも普段見慣れない形の鍔を、珍しそうにまじまじと見つめる。


「本で知ったんだが、『緋桜一刀流』っていう剣術の流派があるらしく、その本家の苗字が『緋桜』。その家の人たちは、代々腕の立つ優秀な魔法剣士で、緋桜家の人間の武器には、どこかに必ず桜を象られた部分があるらしい。ーーそれで、まさかと思ってな」


 タケの丁寧な説明を聞くと、ジョゼは改めて織葉の方へと視線をやった。こんな可愛らしい子が強い魔法剣士だとは驚きだ。織葉は少し恥ずかしそうに、視線をそらす。


「確かに、少し自信はあるんだ。でも、来駕さん凄いね。緋桜はまだしも、桜の文様を知ってるなんて驚きだよ」


 織葉はタケに驚いていた。今までも緋桜一刀流のことを知っている人は少なからずいた。しかし、武器に桜を象った部分があることを知っている人物には、久しく出会っていなかったのだ。


「まぁ、タケは本ばっかり読んでるからね」


と、ジョゼがタケの眼鏡を指し、くすくすと笑う。本ばかり読み続けた結果がこれです。みたいな仕草を取るジョゼ。


「ほっとけ」


 タケは顔をそらし、眼鏡を掛け直した。それを見て、ジョゼに加え、織葉も笑い出した。


「ねぇ、ジョゼさんは何の職に就いてるの?」


 今度は織葉が話題を振った。


「私は盗賊の手裏剣使い(アサルター)よ。あそこにいるハチもそうなんだけど――」



 ジョゼのフレンドリーな性格のお陰か、それとも女子同士で息が合うのか。一瞬のうちに始まる女の子同士の会話に、タケが入る余地は無くなってしまった。

 楽しく会話をしている二人を見ていたタケだが、ふと右に首を振ると、そこには『ゆい』がちょこんと椅子に腰掛けていた。タケの座っている位置から、だいたい三席ほど離れた場所に座っていたゆいは、手に握る大杖(ロッド)に、優しい視線を向けていた。


(緋桜は完全にこっちに来てしまっているが……いいのか?)


 自分たちが友達を取ってしまった訳ではないが、なんだか放っておくのも悪い。そう思ったタケは二席ほど横にずれ、ゆいに近づいて話しかけた。

 一見無口に見えるタケだが、実のところそうではなく、どんな人にでも気兼ねなく話しかける性格の持ち主だ。わりと話好きでもある。

 

「霧島、だったよな。なんだか緋桜を取ってしまったみたいですまない」

 

 タケは軽く謝りを入れると、ゆいにそう(たず)ねた。ゆいはタケに気付くと、杖を目線から外し、にっこりと笑って、「いえ、大丈夫です」と答えた。


「こんにちは。来駕さん、でしたよね? 初めまして、霧島ゆいです」

「ご丁寧にありがとう。こちらこそ初めまして。来駕タケだ、よろしく」


 改めて挨拶を交わす二人。タケは自分の後ろに、ハチの視線が刺さっていることに気付いていたが、全て気付かないふりをした。


「霧島は魔導師なんだよな?」

「はい。まだまだですけど、魔導師の見習いです。来駕さんは……?」


 謙遜気味にゆいはそう答え、手にしていた杖をタケに見せた。杖には(あお)いクリスタルが輝いている。


「オレは弩使い(スナイパー)なんだ。魔法はちょっと得意じゃないかな」


 タケは壁にぶら下げている自分の(いしゆみ)を指さす。やや古ぼけた、朱色の弩が壁に掛けられている。


「弩使いなんですか。私の学科にも、弩を使いながら、補助魔法を扱う生徒がいますよ」

「面白い組み合わせだな。一度手合せしてみたいよ。桃姫…校長先生の授業は今でもあるか?」


 タケは自分の恩師が、現在どのようにしているのかをゆいに訊ねた。


「はい。月に数回ほどですが、天凪先生の授業があります。講義はとても分かりやすいんですけど、実技はかなり厳しくて。なかなかOKを出してもらえないです」

「そうなのか。オレも昔、先生に魔法の手ほどきをしてもらったんだが、あの時も厳しかったな」


 タケの脳裏に、子供の頃の桃姫先生との思い出が蘇る。先生との特訓は数カ月だったが、その短い期間で魔法が使えるようになったのは、厳しい教え方があってこそだった。




「お待たせいたしました。整理券二十番の方ー。会場へお入り下さい」


 和気あいあいとした空気が流れていた控室に、アナウンスが響いた。耳を傾ける六人。そして、その場を一番に動いたのは織葉だった。


「よぉーし来たか! ゆい、行くよ!」


 椅子から力強く立ち上がった織葉は、大きな笑顔を作りながら、ゆいにガッツポーズを送る。それを見たゆいも、小さなガッツポーズで答えた。


「それじゃ、お先にいってきます!」

「頑張ってきますね」


織葉とゆいは四人に意気込みを見せると、会場入り口の扉へと消えて行った。

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