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クランクイン!  作者: 雉
疲労の果ての地
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Chapter17-2

「あらおかえり。こんな朝早くからどこへ行ってたの?」 


 村長宅に戻り、使わせてもらっている部屋の戸を開くと、ジョゼが迎え入れてくれた。

 起きているのはジョゼだけかと思ったが、部屋の奥にはゆいと織葉がおり、小さな洗面台で顔を洗っている。

 部屋を見回したが久の姿はなく、ハチはまだ大いびきをかいて爆睡していた。


「ちょっと散歩にな。コーヒー飲んできたんだ。久はどうしたんだ?」


 タケは扉を静かに閉じると、近くの椅子に腰かけた。ジョゼはテーブルをはさみ、タケの向かいの椅子に座った。


「久なら上の階の村長のとこよ。なんでも聞きたいことがあるとか」


 ジョゼ曰く、タケが出かけている間に目覚めた久は、ティリアに聞きたいことがあると言い出して、部屋を出たままだそうだ。

 そう教えてくれたジョゼも、よく見ると眼の下にうっすら隈が出来ている。

 普段は張りのある女性的な肌も、なんだか疲れているように見える。


「タケくん。おはようございます」

「タケさん、おはよっ」


 ジョゼに続きゆいと織葉も椅子に着いた。


「二人とも、おはよう。もう大丈夫なのか?」


 席に着く二人にタケが声をかけた。


「あたしはもう大丈夫。一晩寝てスッキリしたって感じ!」


 織葉はいつもの明るい笑顔を作って見せた。それにゆいも続く。


「私も大丈夫です。タケくん、昨日はありがとうございました。私、タケくんの一言に背中を押してもらって……本当に、ありがとう」


 ゆいは椅子に座る前にタケに深々と頭を下げた。昨晩にティリアからも聞かされていたが、ジョゼと織葉から昨晩ここまで運んでもらった話を聞いていたのだ。


「おやおや? タケってば私たちが気絶してる間にゆいちゃんに何を言ったの?」


 ゆいの一言に目ざとくジョゼが反応する。なんだか隣の織葉も興味津々だ。


「別に大したことじゃないさ。ただ一言喝を入れただけだよ。な? ゆい?」


 タケの返答に、ゆいも素早くこくこくと何度か頷く


「う、うん! 別に何があった訳じゃないよ。 ちょっと、なんで織葉ちゃんにやにやしてるの⁉」


 ゆいの言う通り、織葉は口角を上げ、にやりとしていた。


「いやいや、二人ともなんだか改まった感じだったからさ。打ち解けたみたいでよかったなって」

「そうね。タケとゆいちゃんってなんか今までは他人行儀みたいな感じだったものね」


 にこにこしながら二人に見られ、なんだか居心地が悪くなるタケとゆい。

 タケは目のやり場に困り、隣のゆいへと視線を向ける。その先には自分と同じくやや困惑したゆいの表情。その顔を見た時、タケの脳裏に昨晩、ゆいを発見した時の状況が走った。


「それより、体の方は本当に大丈夫なのか? 発見した時はピクリとも動かなかったが……」


 不思議な光を放つ、木々の空間。そして、その中心に倒れていたゆい。力が抜けたように倒れ込み、びくとも動かなかった。

 そして、辺りには何の痕跡も無かった。他の人物がいたような気配も、戦った痕跡さえも――何も無く、何も感じなかった。


「気怠さは残ってるけど、本当に大丈夫。魔導師の私にとっては本当にこの地域はありがたい場所だよ」


 ゆいも困惑した顔を解き、タケに向き直り、答える。


「そういえばここに来る道中でもそんな話をしていたな。ゆいほど敏感じゃないが、オレたちのこの回復力も、この周辺だからこそなのかもしれないな」

「普段だったらもっと疲れが残っているかもね。ゆいちゃんほど効率は良くないかもだけど、私たちにも癒しの魔力の加護がきっとあるんだわ」


 ジョゼがぐーっと伸びをした。いつもより回復速度が速いのをジョゼも感じ取っていた。


「あとはゆーっくりお風呂にでも入れれば言うこと無しなんだけどねぇ。もう一度お風呂借りようかしら……」

「それ最高ですね! 私、お風呂大好きなんです」

「あら、ゆいちゃんもお風呂好きなの? 私もお風呂好きなの。ここ数日はのんびりお風呂に入れないのが辛くて辛くて。湯船が恋しいわ」


 ゆいとジョゼはお互いを見て、たははと笑う。

 シャワーを借りて汚れは落ちているが、作業的に汗と汚れを落としただけのシャワーは心休まる風呂とは程遠い。


「普段はそんなに興味ないけど、今はあたしも入りたいなぁ。何だか髪がボロボロな気がする」


 織葉も自分の髪に手櫛を通しながら話に混ざる。

 普段髪やおしゃれに気を遣わない織葉ですら、このギシギシの髪で過ごすのは些か抵抗があるようだ。


「その風呂の話、心当たりがあるんだが……」


 女子の会話に混ざるのは多少気がひける。申し訳なさそうにタケが三人にそう言った。


「え?」

「本当ですか?」

「マジで?」


 三者三様。それぞればらばらな返答が帰ってきた。

 つい先程までお風呂の話題で盛り上がっていたとは思えない程、三人の顔は真剣だった。まるで獲物を狩るような目つきをしている。


 ジョゼと織葉はまだしも、ゆいのここまで真剣な表情は初めてだ。

 複数の女子に強烈な視線を向けられるのは、結構な威圧感だとタケは初めて学んだ。


「あ、あぁ……。喫茶店に行ったときに店主が教えてくれたんだ。リリオットの北側の原生林の奥に温泉郷があるそうだ。何でも、知る人ぞ知る秘湯らしくて、一度行ったら他の温泉には入れないとか――」


「タケ!」

「タケくん!」

「タケさん!」


 ――と、タケの会話は女子三人の見事なユニゾンで強制的に止められてしまった。

 タケはこの後何を言われるのか、すぐに察しがついた。煌めく三人の目を見れば、嫌でも分かってしまう


「「「そこに行きましょう!」」」 


 息の合った三人の発言は、まさにタケの予想通りだった。

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